逆パフェ

男がトイレに立つ。

女は奥トイレの扉がバタンと閉まる音に耳を澄ませ、念のため目でも確認する。

パフェの細長スプーンをカランと置き、テーブルの上に放置された男のスマホをサッと取る。

こんな光景はよくあることであるが、このカップルはちょっと違っていた。

「あれ？俺のスマホは？」

「え、さぁ、ポケットは？」

「いや俺ここに置いていったんだよ」

「へえ」

「…なんか声ヘンじゃない？」

「あっし？」

「うんってえっ！なにそれ！？」

男が指差す先。

女の喉。

首の喉の部分が、食器棚みたく小さく水平の板状にボッコリ浮き出ている。

「飲み込んでるし！」

「飲み込んでないし！」

「話が早すぎだしじゃあ！飲み込んでるし！って言われて飲み込んでないし！って返す早さが飲み込んだ証拠だし！」

「てかさぁ！…マジごめん」

戦いかけた女も阿呆ではないようで折り返して負けを認めた。

負けを認める女は少ない。

「てかその状態でパフェ食うなし！」

こいつらの語尾は蹴りたいが、確かにその状態でパフェを食うのはちょっとおもしろい。

「積んでくだけだしそんなん！」

「積んでくだけってなんよ？」

「喉のそのスマホの上にパフェ積んでくだけだし！俺のスマホの上で逆パフェ完成させんなし！」

「あぁだいじょぶだいじょぶ、画面下向いてるから」

「レンズが汚れるし！！」

この期に及んで汚れることを気にしているあたり、男の方が圧倒的に阿呆だ。