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時期不良

さすがに僕の後ろに列ができ始めた。

3人、4人。

「すみません、もう大丈夫ですよ」

「すみません反抗期かもしれないですね、現金か他のお支払い方法はございますか?」

「あっすみませんいまそれしかなくて、とりあえずいったんいいですすみません、どうぞ」

クレジットカードと未会計の漫画2点を受け取って、次の人にレジを譲った。

(…反抗期?)

なんか言ってたなと思って、平積みの適当なサウナの本とかをパラパラめくりながら、レジが落ち着くのを待ってレジにまた行った。

「すみません、もっかい試してもらっていいですか?」

寝癖が3つあるけど接客態度のいい店員がクレジットカードを端末にシュッとする。

「…」

シュッ

「…」

シュッ

「……」

シュゥゥ

少し速度を遅くしても、無反応だった。

「すみませんやっぱりこれ反抗期ですね」

言った。

「磁気不良ですかね」

「そうですね時期不良ですね、不良の時期なんだと思います」

「不良の時期?」

「こちらのカードって、いつ頃お作りになられましたか?」

「あーえー、んー、1年…半くらい前ですかねぇ」

「あーちょうど時期不良ですね」

「ちょうど?」

「だいたい1年半〜3年くらいの間に、『第一次時期不良』が来るんですよね」

「…なんですかそれ?」

「まぁ人間で言うところの『第一次反抗期』というやつですね」

「あっ反抗期、言ってましたねさっき」

「そうですそうです、それがクレジットカードだと『時期不良』にあたるんです」

「磁気不良はよく聞きますけど、え、磁気の反応が悪くなる期間があるってことですか?」

「あー違います違います、みなさん勘違いされるんですけどよく、ジキ不良のジキは時期、時間の時に期間の期で時期で、時期不良、不良の時期、つまりイコール反抗期を指してるんですよ」

「…はい?」

「なのでその第一次時期不良は1年半〜3年なので、だいたい1年半後には通るようになりますよ、端末を」

「…んーっとじゃあ、そっか、まぁ、いいです今日は、すみません」

また列ができていたので、あと怒涛の説明を脳が拒絶して、離脱した。

その日からその本屋に行くことはなくなり、翌月から実家の都合で田舎に戻ることになった。

クレジットカード機能がある店などない山村。

10年ぶりにまたこっちに戻ってくることがあり、あの本屋に立ち寄った。

適当な漫画を2冊、手に取って、あーと思い立って整理されていないパンパンの財布に入れっぱなしだったはずのあのクレジットカード……があった!

レジの女性店員にクレジットカードを渡す。

シュッ

♪ビーー!

「……すみませんこちら」

「あーやっぱ時期不良ですかね?11年〜17年くらいが第二次時期不良ですもんね」

「え、いや、期限切れになってますねこれ」

「あっ」

そういえば全く更新していなかったし、そらそうか…

顔が真っ赤になっていると、

「お久しぶりですー!」

と声がしたのでそっちを見るとあの寝癖3つ男店員が手を振ってこちらに走ってきていたのでいろいろめっちゃ怖くなってダッシュで店を出た。

「はぁはぁはぁ」

100メートルほど走っただろうか、一瞬の光景を思い返す。

当時と違ってハゲていたのだが、3つの寝癖部分だけ、真っ直ぐ長く伸びていた。

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