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できるだけでっかい胡麻ドレ

「できるだけでっかい胡麻ドレを買ってきてくれ」

と親父に千円を握らされて、親父は車から出ない。

私だけを車から降ろしたのだ。

当時6才の幼女の私を、人目につかない高架下に駐車した車から降ろしたのだ。

2分も歩けばいつもママと一緒に来ているスーパーがあるのはわかっていた。

田舎なのでスーパーはそこしかないし、バカデカイ看板が遮る建物もなくハッキリと見える。

バカデカイ駐車場もあるのに、なぜそこに停めないのか?

そんな疑問もあったのかなかったのかわからない。

ただ言われたミッションだけをこなすのに夢中だった。

「余ったお金で好きなものを買っていい」

と言われているのだ。

激アツである。

余ったお金ということは、まず第一に『できるだけでっかい胡麻ドレ』を見つける必要がある。

いくら余るかを把握しないことには始まらない。

店員に話しかけるなんてできない。

自力で見つけるしかない。

まぁいつものスーパーだし、だいたい把握はしていた。

入ったら野菜があって、奥にはお肉が横にずらーっとあって、2、3列目を曲がればお菓子コーナーである。

まずは安心のお菓子コーナーに来てみる。

どれくらい買えるのだろうか?

余ったお金…

あそうだそうだまず第一は…

隣の棚列に行く。

海苔とかふりかけとかワカメとか…

無い。

さらに隣の棚列に入るとすぐ手前らへんにドレッシング棚があった。

「胡麻ドレ胡麻ドレ胡麻ドレ胡麻ドレ…」

声に出して唱える。

「胡麻ドレ?」

振り返ると、眉毛がまっすぐのおばさん店員がいた。

「胡麻ドレ…」

「胡麻ドレはこの辺ね、お母さんは?」

「お母さんはね、今日はいないの」

「じゃあ、お父さん?」

「お父さんはね、車にいるの」

「え、一緒じゃないの」

「うん」

「なにかおつかいを頼まれたの?」

「うん、あのね、できるだけでっかい胡麻ドレをね、買ってきてって」

「できるだけでかい胡麻ドレ?」

「それでね、余ったお金でね、なんでも買っていいの」

「頼まれたのは、胡麻ドレだけ?」

「うん」

「いくら持ってるの?」

「せん」

「千円ね、なるほど、じゃあ、えっと、大きい胡麻ドレだよね?」

「できるだけでっかい胡麻ドレ」

「できるだけかぁ、、じゃあこれかな?」

「これが一番?」

「そう、これが一番大きいね」

「おいくらですか?」

「398円だね、税込で」

「…ぜーこみ?」

「あーまぁ、398円ってこと」

「えっとじゃあ、いくら余りますか?」

「えーっと、7ひゃ…じゃなくて602円だね」

「602円…ありがとうございます!」

「いやいやそんな、じゃあ、胡麻ドレは持っといてあげるから、好きなもの選んでおいで」

「はーい」

それからなんか適当なお菓子を3、4こ買って、付きっきりでいてくれた眉毛がまっすぐなおばさん店員さんに渡して、レジでお会計をしてもらった。

お釣りが8円だったのはハッキリ覚えている。

おばさんの付きっきりアドバイスが、上限ギリギリにしてくれたのだ。

おばさんも満足そうに8円を手に包み込んでくれた。

「パパどこ?」

「あっち」

ドサッ。

ドラマで見るようにベタすぎるが、私の横でおばさんがスーパーの袋を地面に落とした。

そしてすぐにそれを拾い上げ、もう片方の手で私の手を引っ張って、スーパーの方に連れ戻した。

その連れ戻す勢いがすごくてスーパーまでの道中で自分のお手柄として両手にハダカで抱えていたできるだけでっかい胡麻ドレを落としてしまったが、おばさんはそれに気付いたのか気付かないのか、落としっぱなしでスーパーまで連れ戻した。

「たぶんあれは、カーセックスをしていたんだよね?」

親父の右耳らへんに花を手向けながらそう聞いてみたら、ギクッみたいな表情をした気がしたが気のせいだろう。

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