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たぬきとねずみと牛と蛇

「よお、たぬきち、親父さん、気の毒になぁ」

 「人間め、ぜったいに敵討ちしてやる…」

「まぁまぁそう慌てな、おいらに任せてくんろ」

 「任せろって、ねずみっころのあんたに何ができるってんだい」

「素手で戦こうても人間には敵わん、それは親父さんが証明したじゃろ、せいぜい親子汁にされるのがオチじゃ」

 「ってこたあ、何か考えでもあるってのかい」

「おらなぁ、あの猟師んちの屋根裏の隙間から聞いたんじゃ」

 「ほぉ、何を聞いたってんだい」

「なんでもあの猟師はなぁ、食べてすぐ横になったら牛になるらしい」

 「食べてすぐ牛…あぁさっぱりわからん」

「よう聞け、食べてすぐ横になったら牛になる、そう猟師の嫁が言うとったんじゃ」

 「つまりなんや、あの猟師は、食べてすぐ横になったら牛になる、そう言うとんか」

「そうや」

 「そうやったらなんや」

「それだけやない、さらにあの家はなぁ、夜中に口笛を吹いたら蛇が出るらしい」

 「ねずみも出るし蛇も出るんか」

「あほ、おいらは口笛なしに出るが、蛇は夜中に口笛を吹いたら出るんや、少なくともあの家ではな、嫁がそう言うとった」

 「つまりなんや、あの猟師の家は、夜中に口笛を吹いたら蛇が出る、こう言うとんか」

「そうや」

 「そうやったらなんや」

「ちっとはそのどデカい金玉で考え」

 「せやかて金玉でものは考えられん」

「しゃれも通じんなたぬきちゅうのは」

 「話が見えんな」

「ええか、話は簡単や、さっき言うたふたつ、嫁が漏れこぼしたふたつの秘密を、ミックスするんや」

 「ミックス…」

「そすれば猟師に敵討ちや」

 「つまりなんや、夜中に猟師が食べてすぐ横になって牛になったところで口笛を吹いて出た蛇が牛を丸呑みする、そう言うとんか」

「急に話が早いな、一言一句そうや」

 「その口笛はねずみ、あんたが吹くんか」

「うんにゃそれがな、おいらは見ての通りの出歯や、口笛は吹けん」

 「ほな誰が吹くんや」

「あんたや」

 「ねずみっこ、おいらは行かんぞ、行ったら親子汁にされる、そう言うたんはあんたや」

「屋根裏で吹けばええ」

 「はぁ、その手があったか」

「ほなさっそく今晩、作戦決行や」



「おぉたぬきち、こっちやこっち」

 「いやぁ遅なってすまんの、こんなんでどうや」

「おう十分や十分や、こんなけ野菜やきのこがあれば、親父汁も味が出て箸が止まらんはずや」

 「親父…」

「おぉすまんすまん、デリカシィが無かったな」

 「でりかしぃってのは、野菜かきのこか」

「まぁええとにかくご苦労さんや、これを家の前に置いて、屋根裏で待機や」



「たぬきち、大丈夫か」

 「うぇぇぇ」

「つらいなぁ、見んでええ」

 「いや見る、おらは見るぞ、親父の最期や、目に焼き付ける、これが供養じゃ」

「敵討ちまでが供養じゃ」

 「そうじゃ、敵討ちが供養じゃ」

「しかし親父さん、ええニオイやのぉ」

 「おらの親父じゃ、日本一のたぬき汁や」

「ほら食うとる食うとる、ばくばく食うとるわ」

 「食え食え、最後の晩餐や」

「えらいむつかしいことば知っとるのぉ」

 「あのあほ、親父ばっか食うとる」

「野菜もきのこも嫁にばっか食わせとるな、ひどい男や」

 「しぬべき男や」

「もうじき丸呑みにされるとも知らんとな」

 「お、横になったぞ」

「吹けぇぇぇぇぇぇ」

 「ピューーーーー」

「あら、牛にならんな」

 「ピューーーーー」

「はよなれぇ、牛に」

 「ピューーーーー」

「いつなるんや牛にぃ」

 「」

「牛になれ牛にぃ」

 「」

「おい吹け吹け、やめんな、いまに牛になるぞ」

 「」

「吹け吹けおい、なにをして…る…」


たぬきちはすっかり

蛇の皮をかぶっておったそうな

たぬきちを宿した蛇がするする〜と屋根裏の奥へ消えてゆく

「スーー、スーー」

口笛吹かぬ出歯を撫で

運命に安堵するねずみっころじゃった

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