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ピザ釜作りもカウンターカルチャー

とある日の朝。
起き抜けに奥さんがコーヒーを飲みながら、
「なんか美味しいピザが食べたい」って言い出した。

僕が住んでいる海辺の田舎町にはデリバリーのピザ屋さんがない。
ピザが食べたくなったらどこかレストランに食べに行くか、スーパーマーケットの惣菜コーナーでピース売りされたカチカチのものを買うしか方法がない。

このピザ問題については随分と前から悩ましい問題として仲間うちではよく話される議題だったのだが、ここきてついに真剣にその問題と対峙する時が来たようだ。

個人的な意見かもしれないが、ピザってもんはやっぱりアツアツかつチーズがトロトロな状態のものをハフハフ言いながらかぶりつくものであって、レンジでチンするものはもうその時点でピザの魅力の68%は失っている状態にあると思っている。

でも今はレストランに行くこともできず、なので冷凍モノや惣菜コーナー・ピース売りモノという選択になるんだけれども、ヤツらは旨いのだけれども、どこかカップラーメンのような立ち位置として僕的には認識しているわけだ。

そんな屁理屈を朝からこねていると、奥さんはなに食わぬ顔をして、
「じゃあピザ釜作っちゃえばいいじゃん!」と、あっさり解決方法をの賜るのだった。

話はいきなりとんでもない方向にシフトしてゆくのであるが、
僕はサブカルチャーってものに目がない。

サブカルチャーって言っても平成以降に生まれた世代がイメージするような、いわゆる“サブカル”じゃなくて、しっかりがっつりと、オイラは怒ってるんだかんね!世の中すべてに不満なんだかんね!という、だかんね!だかんね!言っているカウンターカルチャーが大好きだ。

僕を構成しているだいたいの要素はここを起源としていて、音楽の趣味も、映画の趣味も、本の趣味も、だいたいが、だかんね!だかんね!言いながら目を釣り上げているものばっかりなのだ。

サーフィンにここまでのめり込んで、人生のほとんどと頭の中のほとんどをそれに費やしているのも、つまりはそういうことで、決して僕にとってサーフィンはオリンピック種目になるようなスポーツでもなければ遊びでもない。カッコつけて言っちゃえば生き方だ。

サーフィンをしていないこの2ヶ月間なにをしていたかというと、いろんなことのDIYだった。DIYってお父さんの日曜大工みたいなイメージになっているけれど、実はものすごいカウンターカルチャーなんである。

経済の急速な発展の反動によって生まれた歪みは、ビートニック文学に端を発し、アンダーグラウンドで世界中に新しい“反抗”という潮流を生んだ。

ビートニックからヒッピームーブメント。原点回帰、自然回帰から生まれたウィルダネス思想。ヨーガや瞑想、禅といった東洋文化的精神革命。そのすべてが経済至上主義への反抗を主軸として生まれたカウンターカルチャーだ。

そんな中で発行されたのが『Whole Earth Catalog』という伝説的なカタログだった。

これはこれでとてつもなく長いストーリーになってしまうので、興味のある人はじっくりと調べて欲しいのだけれど、つまりは地球上で生活する上で必要な物や知識をカタログ化したもので、しかもそれが通販できるという画期的なものだった。

スティーブ・ジョブスの有名なスピーチで『Stay hungry. Stay foolish.』っていうあの言葉は、『Whole Earth Catalog』の最終号の裏表紙に書かれていた言葉なのは有名。

それだけ多くの人々に影響を与えたきたこのカタログに、思春期に出逢ってしまった僕もすっかりやられてしまっていて、大資本や政治に頼らず生きていく方法が載っているこのカタログから、DIYとはなんぞやということも学んだ。

引き篭もっていた約2ヶ月間、ずっとその考え方を軸に、僕は自分で発信するメディアを作るためにせっせと書き物をしてきた。奥さんは奥さんで、保育園の園長という大変な仕事のかたわら、畑にいろんな苗を植えたり、ぬいぐるみとLINEスタンプを作ったりしていた。買うんじゃなく、頼るんじゃなく、できる限り自分たちの手で。

奥さんの「美味しいピザが食べたい」っていう何気ない一言から始まったピザ釜作り。
もちろん、初めて自分たちで焼いたピザの味は、どんな一流のイタリアンで食べるピザよりも格別だった。

そして我が家にとってピザはもう、レストランで食べるものでも、スーパーで買うものでも、デリバリーしてもらうものでもなくなった。

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