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【教養としての故事成語】「愚公山を移す」~コツコツ努力すれば、いつか必ず達成できる

愚公山を移す(ぐこうやまをうつす)

【出典】

『列子(れっし)』「湯問(とうもん)」

【意味】

根気よく努力し続ければ、いかに困難なことも、いつかは必ず達成することができる。

【故事】

 昔、太行山 ( たいこうざん ) と 王屋山 ( おうおくざん )という2つの大きな山があった。その北側に、愚公(ぐこう)という老人が住んでいた。

 山が家の前にあるため、出かける時は、いつも遠回りをしなければならなかった。そこで、家族を集めて相談した。
 「みなで力を合わせて、この2つの山を平らにしようじゃないか」
 こうして愚公は、息子や孫たちといっしょに、岩石を砕いて遠くの海まで運んだ。

 智叟(ちそう)という利口な老人がいて、愚公を馬鹿にして忠告した。
 「おいぼれのあんたじゃ、山の一角すら切り崩せやしない。無駄なことはやめなされ」
 すると、愚公は言い返した。

我の死すと雖(いえど)も、子有りて存(そん)す。子又孫を生み、孫又子を生む。

――たとえ私が死んでも、子供が残る。子供は孫を生み、その孫がまた子を生む。

 愚公は、
「人の子孫は、次から次へと永遠に続くが、山はもうこれ以上高くはならない。だから、どうして平らにできないことがあろうか」
と考えた。

 こうして、愚公とその子や孫たちは、来る日も来る日も岩石を砕いて運び続けた。

 この様子を見ていた天帝が、愚公の行いに感動し、2つの山を力持ちの神に背負わせ、遠くに移させた。

 こうして、愚公の家の前から2つの山はなくなった。愚公の一途な思いが、とうとう山を移したのだ。

【解説】

 この話は、四字成語で「愚公移山」(ぐこういざん)ともいう。
 もともとは神話である。神話には「奇跡」を語る話が多い。人間の誠実な行いや熱い思いが、天帝を感動させ、天帝がその人に代わって、起こりえないことを起こしてくれる。古代の中国人は、奇跡が起こるメカニズムをこのように考えた。

 また、この話には、理屈だけの利口者より、愚かでも実直な人間の方が、大きな事業を成し遂げる、というメッセージも含まれている。
 『列子』は、道家思想の書である。「愚」と「智」を対比させて、前者を良しとし、後者を退けているのは、道家の価値観を反映したものだ。

 ちなみに、中国では「愚公移山」は、毛沢東が1945年6月の演説で、この故事を引用したことで知られている。
 毛沢東は、中国共産党を愚公に喩え、「2つの山(日本と中国国民党)がいかに強大でも、我々が山を崩し続ければ、天帝(中国の人民)は、我々を支持してくれる」と訴えた。

毛沢東

【用例】

岩だらけのひどい荒れ地だったのが、こんなに豊かな畑になるなんて、まさに「愚公山を移す」だね。

この企画、部長は絶対無理だって決めつけるけどさ。「愚公山を移す」っていうじゃない。いつかは世界進出だって夢じゃないさ。


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