「daughter」 ー佐伯可奈ー
「真っ白な陶器みたいな人」というのが彼女、佐伯可奈の第一印象だった。毎週木曜日の昼十二時、彼女はカフェ「daughter」のドアのカウベルをカラコロと鳴らす。他の人が入るときはガラガラとうるさいベルも、彼女が入るときには耳をくすぐられるような柔らかい音になる。いつも椅子の上で居眠りをしているマスターは、その音を聞くとゆっくり目を開き、コーヒー豆をミルの中にぽとぽとと落とし始める。「どうぞ」と、手書きのメニュー表をテーブルの端に置けば、一瞥もせずに「コーヒー、ホットで」とシン