はじめまして。文章を練習しています。あたたかく見守ってください。

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誰かに「大好きよ」って言いたい

 一睡もできないまま、5時になった。  ブルーライトに焼かれ続けた目の奥がきゅうと軋む。胸の上をギュッと押されるような息苦しさを布団の中に押し込める。  2時間だけでも寝てしまおうかと思ったが、今日は燃えるゴミの日なのでやめた。寝過ごしたら絶望だ、今日は袋を二個ださなければならない。今週は調子に乗って自炊をしたから、部屋がほんのり生ゴミ臭い。1LDKの我が家では燃えるゴミを一回出し忘れるだけで、その週は憂鬱になる。  サンキで600円で買った、黒無地のワンピースにモゾモゾと腕

    • 「daughter」 ー山路三郎ー

       彼が目に入るたび、この人も年をとったな、と思う。この店で働き始めた当初はハツラツという言葉が一番似合うようなマスターだった。しかし、店じまい後に外の換気扇前でタバコを吹かしているとき、瞳の奥が水面を漂う小舟のように静かに揺れていて、このどうしようもない寄る辺なさにグッときてしまう女性はきっと多いのだろうとふと思ったことを覚えている。  一回だけ、彼にタバコをもらいに行った。「おお、いいよ」と気前よく渡されたタバコはコンビニで買える中で一番ニコチンの弱いやつだった。タバコはあ

      • 「daughter」 ー佐伯可奈ー

         「真っ白な陶器みたいな人」というのが彼女、佐伯可奈の第一印象だった。毎週木曜日の昼十二時、彼女はカフェ「daughter」のドアのカウベルをカラコロと鳴らす。他の人が入るときはガラガラとうるさいベルも、彼女が入るときには耳をくすぐられるような柔らかい音になる。いつも椅子の上で居眠りをしているマスターは、その音を聞くとゆっくり目を開き、コーヒー豆をミルの中にぽとぽとと落とし始める。「どうぞ」と、手書きのメニュー表をテーブルの端に置けば、一瞥もせずに「コーヒー、ホットで」とシン

        • 私の菩提樹

           家の中で嵐が起きたとき、わたしは息を殺してベランダに逃げる。ベランダには彼女とわたしだけ。小さな白い鉢からひょろりと伸びる細く黒い枝についた大きな葉っぱは、わたしの薄くて小さな肩を黙って撫でてくれる。「ねえ、今回の嵐はいつもより少し長そうだね」そんなわたしの問いかけに彼女はさわさわと揺れた。凍えそうな寒い日も、焦がれそうに熱い日も、わたしと菩提樹は一緒。  私が彼女の背を優に超えたとき、家の中の嵐は去っていった。荷造りを終え、小さな彼女を抱きしめて向かったほの暗い田舎で、私

        誰かに「大好きよ」って言いたい