私の菩提樹

 家の中で嵐が起きたとき、わたしは息を殺してベランダに逃げる。ベランダには彼女とわたしだけ。小さな白い鉢からひょろりと伸びる細く黒い枝についた大きな葉っぱは、わたしの薄くて小さな肩を黙って撫でてくれる。「ねえ、今回の嵐はいつもより少し長そうだね」そんなわたしの問いかけに彼女はさわさわと揺れた。凍えそうな寒い日も、焦がれそうに熱い日も、わたしと菩提樹は一緒。
 私が彼女の背を優に超えたとき、家の中の嵐は去っていった。荷造りを終え、小さな彼女を抱きしめて向かったほの暗い田舎で、私は母さんと二人幸せになった。「ねえ、これから嵐はもうこないんだって」そんな私の問いかけに、狭くて暗いベランダで彼女はくすくすと笑った。徐々に日が短くなって私が彼女を忘れた頃、彼女はひっそりと最後の葉を落とした。もし、私に庭があったなら、あなたは大きな大地に深く深く根を張って、太く長い枝に大きく青々とした葉をたくさん持って、黄色い花を咲かすことがあったかもしれない。小さいまま死んだ、私の菩提樹。あなたがいなかったら、幼く愚かな私はベランダの柵の先へと行ってしまっていたかもしれない。愛しい、私の菩提樹。わたしはまだ、小さな鉢の中から出られずに居る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?