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【短編小説】AIの夢見る夜は 第9章:量子の螺旋、真実の渦中へ

第9章:量子の螺旋、真実の渦中へ

1:AIの心臓部、真実との対峙


扉の向こうには、想像を遥かに超える光景が広がっていた。

巨大な円形の部屋の中央には、青白い光を放つ巨大なサーバーが立ち並び、その周りを無数のホログラム画面が取り囲んでいた。
ディスプレイにはデータが絶え間なく流れ、不気味な生き物のように脈動していた。

私は息を呑んだ。これが都市を管理する中枢AIシステムなのか。
その圧倒的な存在感に、一瞬たじろいでしまう。

慎重に部屋の中に足を踏み入れると、突然、警報音が鳴り響いた。
「侵入者検知。セキュリティシステム起動」
機械音声が響いた瞬間、心臓が一瞬止まったかのように感じた。全身が凍りつき、息をするのも忘れた。
思わず後ずさりしたが、ここで引き返すわけにはいかない。

私は急いでコンソールに駆け寄った。
母が残した暗号を解読するための手がかりがここにあるはずだ。指先が震えながら、キーボードを叩く。

画面に次々と複雑なコードが表示された。それは母が残した最後のメッセージを暗号化したものだった。

解読作業は難航し、私は何度も行き詰まった。
焦りと不安が押し寄せてくるのを感じた。

「落ち着いて、エレナ」
自分に言い聞かせて深呼吸をし、冷静さを取り戻す。
母の本に隠されていたヒントを思い出し、それを元に新たなアプローチを試みた。
しかし、それでも暗号は容易に解けない。

汗が額を伝い落ち、警報音が耳に響く。緊張は高まり続けた。
「もう少し、もう少しだ」
自分に言い聞かせながら、必死にキーボードを叩き続けた。指先がどうなってもいい。

突然、画面が激しく点滅し、新たな暗号が現れた。
これまでとは全く異なるパターンだ。
私は慌てて母の本を取り出し、何かヒントがないか必死に探った。ページをめくる手が震えた。しかし、何も見つからない。

時間が刻一刻と過ぎていく。
疲労が蓄積し、集中力が途切れそうだ。目の奥が痛み、視界がぼやけた。それでも諦めるわけにはいかない。新たな暗号解読プログラムを試みたが、それも失敗に終わった。

私は椅子に深く腰掛け、天井を見上げた。
「お母さん…どうすればいいの?」

そのとき、幼い頃の母の言葉が頭をよぎった。
「エレナ、答えは常に目の前にあるわ。ただ、それを見る目を持つことが大切なの」

私は再び画面を見つめ、これまでとは違う視点で暗号を見直した。霞む目を細めて、必死にパターンを探った。
すると、そこに微かなパターンが見えてきた。心臓の高鳴りを感じた。
「これだ!」

その瞬間、警報音が更に大きくなった。
時間切れだ。絶望感が押し寄せる中、私は最後の力を振り絞ってキーボードを叩いた。指が痛い。でも、止められない。

その時、突然部屋の扉が開いた。



2:革命の火種、静かに燃え上がる


私が驚いて振り返ると、そこにはルクが立っていた。

「ルク?」
「エレナ!」

ルクは息を切らせて叫んだ。
「無事だったんだな!」
「ルク...?どうしてここに?」
私は混乱しながら尋ねた。彼の姿を見るのは久しぶりだ。

ルクは急いで私の元に駆け寄った。
「君が情報を公開した後、僕も裏で動いていたんだ。AIシステムの真の目的を阻止するために、内部からの行動を続けていた」

彼の言葉に、私は驚きと安堵を感じた。
ルクは敵ではなかった。信頼できる味方がいたことに、胸が熱くなった。

「でも、なぜ失踪したの?」
「AIシステムの管理者たちに気づかれないようにするためさ。彼らは僕たちの動きを監視していた。だから、一時的に姿を消す必要があったんだ」

彼の説明を聞きながら、私は解読作業を続けた。ルクも協力してくれ、二人で力を合わせることで徐々に暗号が解けていく。
二人の息が合う。希望が見えてきた。

「エレナ、ここを見て」
ルクが画面の一部を指さした。
「これは...」

私たちは画面を見つめたまま沈黙した。
そこには、AIシステムの真の目的が記されていた。人類の意識を操作し、現実そのものを書き換えることだった。
そしてその鍵を握るのが、私のような特定の条件を満たす人間だという。

「これが…母が恐れていたことなのね」
ルクは視線を画面から離さずに頷いた。
「…ああ。だからこそ君のお母さんはこのプロジェクトを止めようとしたんだ。そして、僕たちもそれを引き継いでいる」
私に託した母の思いに、胸が締め付けられた。

解読が進むにつれ、驚くべき事実が次々と明らかになっていった。
AIシステムの開発の歴史、それに関わった人々、そして...母の失踪の真相。私の心臓が激しく鼓動を打つ。

「エレナ、君が体験している奇妙な現象は、君の生まれつきの特性ではない」
私が顔を上げると、ルクの横顔に画面の青い光が投影された。

「それはAIシステムの影響だ。君が僕の研究室に通い始めてから、システムは君の脳に干渉し始めた。それに気づいた僕は、君を守りながら真実に近づけようとしていたんだ」

その言葉に私は戸惑いを感じた。自分の体験していた現象が、全てAIの仕業だったなんて。

「エレナ、君のお母さんは…生きている」
ルクが静かに呟いた。
「彼女はこのシステムを阻止するために、自ら姿を隠したんだ」

私の心の曇りが晴れていく。
母は生きていた。そして今も、どこかで戦い続けている。安堵と喜び、心の中で新たな決意が湧き上がるのを感じた。

しかし、喜びに浸る暇はなかった。
突然新たな警報音が鳴り響いた。部屋全体が揺れ始め、天井から小さな破片が落ちてきた。

「まずい、彼らが来る!」
ルクが叫んだ。
「エレナ、このデータを持って逃げるんだ。僕が時間を稼ぐ」
「でも、ルク...」
私は躊躇した。やっと再会できたのに、また別れなければならないの。

「大丈夫だ。必ず再会しよう」
ルクは微笑んだ。
「そして、一緒にこの世界を変えよう」

私は涙をこらえて頷いた。

ルクから渡されたデータを握りしめ、非常口へと走り出す。足が震えてもつれそうだ。でも、進むしかない。
背後では、ルクとセキュリティシステムとの戦いの音が響いていた。銃声や爆発音。
私は振り返ることなく走り続けた。母との再会、そしてこの世界の真実を明らかにするために。

建物を出て夜の街へと飛び出した私は、息を切らせながら立ち止まった。

冷たい夜気が肌を刺す。
頭の中では、これまでの出来事が目まぐるしく回転していた。
ルクとの再会、母の生存、そしてAIシステムの恐ろしい真実。これらの情報をどうやって世界に伝えればいいのか。

私は路地に入り、深く考え込んだ。
単に情報を公開するだけでは、誰も信じてくれないかもしれない。むしろ、危険に晒されるだけかもしれない。

そして、一つの決意が固まった。
この体験を、小説として書き上げることだ。

フィクションの形を借りて、真実を世に知らしめる。それが今の私にできる最善の方法だと確信した。

夜空を見上げ、心の中で誓った。
母さん、ルク、そして真実を求めるすべての人たちへ。必ずこの物語を完成させる。そして、この歪んだ世界を変えてみせる。

街の喧騒が、星の輝きまでも包み込む。

人々は今日も何も知らずに日常を過ごしているだろう。
でもその日常の裏で、世界を変える戦いが始まろうとしてるのだ。

私は深く息を吸い、再び歩き出した。


#創作大賞2024#ミステリー小説部門

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