海とビール

今は遠い海の話

様変わりした景色を見て、浮かぶ気持ちをなんと言おう。
どうしても思い出される子どもの頃の記憶を頭の片隅に湧きながら、広い、広い海を眺める。

家があったのは、たぶん、あのあたり。
あの震災で私の祖父母の家は流されてしまって、高く、高く積み上げられた地面のその中に、私の思い出も眠っている。

子ども時代、毎年夏に、訪れていた場所。
それよりもっと長い時間を、その場所で当たり前に過ごしてきた母の気持ちはいかばかりか、と隣を眺めると、その瞳はどこか遠くを見つめていた。
あの辺だね、と、何でもないことのように言いながら、隣に並びながら、きっと、今胸に抱えている気持ちはまるで違うのだろう。

久しぶりの、親子だけでの帰省だった。
夏というには少し涼しい風を感じながら、港までの道を歩いていく。

途中で買ったビールがやけにおいしくて、それだけで、この旅の思い出は最高のものになる。

また帰ってくる理由なんて、今はそれだけで十分だ。

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