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何も無いけど、空が有る屋上。

今日は、成人の日。
約10年前に元服の儀を済ませている僕にとってはありがたいただの休日でしかないので五反田に行った。
理由はTOCビルに行ってみたかったから。

せっかく五反田に行くんだからと、職場の先輩から美味しいと教えてもらった『あげ福』というとんかつ屋でお昼ご飯を食べることにした。

12時頃にお店に着くと、すでに10人くらい並んでいた。
並んでいる途中でメニューが手渡される。
メニューの右下に「※カロリー等が気になる方は、衣をお外しいたします。お気軽にスタッフにお申し付けください。」と注意書きがあり、『カロリー気にする奴が並んでまでとんかつ食べに来んなや。あと、とんかつ屋がとんかつのアイデンティティ奪うような提案すんな、堂々としてろや。』と僕の中のリトルヤンキーがガンをとばしてしまった。

Kindleで最近買った弘中綾香の『アンクールな人生』を読みながら並んでいたので、そこまで待った感はなかったけれど、振り返ってみると実際は40〜50分かかっていたようだ。

このお店はミート矢澤というステーキ・ハンバーグの名店が手がけているとのことで、メンチカツが有名だった。普段メンチカツを好んで食べることはないのだけれど、せっかくならとヒレカツ/チキンカツ/メンチカツが一気に食べられるミックス定食を注文した。

メンチカツは箸を入れた瞬間に肉汁が溢れ、ただでさえ旨いハンバーグを更に衣を付けて揚げてしまったような背徳感が美味しさに拍車をかけていた。ヒレカツも『豚肉って実は甘いんだ』と初めて思うくらい美味で、小一時間並んでも良いかなと思える満足度の高いランチだった。

定食の写真は撮らずに、入り口のガラス戸がプリズム化していた写真だけを撮った
店の目の前の目黒川には『警戒船』という船が佇んでいた

昼食後は歩いてTOCビルへ。
TOCは「東京卸売センター」の略称で、その名の通り小売だけでなく卸売の店舗も入居している商業施設らしい。

最上階は展示場のような使い方がされているようで、今日は家具の展示販売会が行われていた。覗いてみるとベッドやダイニングテーブルやソファが所狭しに並べられていて、各メーカーの販売員と購入を検討する客とで思ったよりも賑わっていた。

とある本棚にレイアウトされたポケモンの指人形がアラサー世代の実家すぎた

最上階以外のフロアはというと、下層は一般客も使える小売店が、上層は一般客への販売を制限している卸売店が多いようで、特に祝日の今日は卸売店はほとんど営業していなかった。

営業している店のない10階に降りてしまい、薄暗さに小さく声を上げてしまった
『アパレル』というより『洋品店』という表現が似合う「川島シヤツ(有)」
空き区画が多く、商業施設なのに孤独と少しの恐怖を感じる

2階にはアカチャンホンポが入っていたり(そのフロアだけ本当に赤ちゃんが多くて微笑ましかった)、1階にはユニクロやABCマートのアウトレットがあったりで地上に近いほど普通の商業施設としての賑わいが戻ってくるのだが、5階以上のフロアはかなり独特の雰囲気があった。卸売店が営業している平日に行けばもう少し違う雰囲気なのかもしれないけれど。


そんな中、個人的に印象深かったのが屋上だ。
最上階の13Fから階段を使って屋上に出てみると、まずはタバコの臭いが鼻につく。出てすぐ左手は喫煙所として利用されているためだ。
反対側の右手はゴルフの打ちっぱなしになっていた。

喫煙所エリアを抜けると、だだっ広く何も無いスペースがある。

空が有る。

TOCビル自体は13F建とそこまで高いビルではないが、周囲に視界を遮るものがないため、東西南北を見渡すことができる。
五反田は山手線の南西側にあるので、東側には高層ビル群が、反対側は住宅地広がって見える。

小さい女の子と父さんが、二人でかけっこをしていた。
日傘を差した女性とそれに寄り添う男性が、睦ましげにベンチに腰掛け談笑していた。
セーラー服を着たコスプレイヤーがショートケーキのクリームを扇情的に舐めたポージングで撮影していた。

冬の穏やかな日差しも相まって、清々しい気分になる。

何も無く、空が有る場所だからこそ、何でもできる場所になるのだと思った。

TOCビルは建て替えが計画されており、2023年中に解体着手予定だ。
建て替え後は地上30階建になるらしい。
屋上は他の高層ビルと同じようにヘリポートや設備スペースとして使われるのだろう。利用者に開放されるとしても、整えられた屋上庭園になり管理が行き届いたものになるはずだ。

何かがあるけど、何もできない空間になってしまう予感がして、少し寂しさを覚えてしまった。

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