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はじまりを、終わりの日に。 山下達郎「蒼氓」「踊ろよ、フィッシュ」が教えてくれること。

このnoteは、2021年の元旦からスタートしよう、と思っていた。
でも、そういうわけにはいかなくなった。
この年のうちに始めることにしよう、そう思うきっかけをくれたMVのことを、まずは書き記しておこうと思う。


2020年の大晦日。
いろいろなことがありすぎた、この年の瀬の17時ごろ。

PCてYoutubeを流しながら本棚の整理をしていたら、耳馴染みのある、でも、このところあまり聴いていなかったシンセのイントロがゆったりと流れてきた。ああ、この曲をよく聴いていたのは、浪人のころだったっけ。PC の画面を確認した。

山下達郎の「蒼氓」と「踊ろよ、フィッシュ」だ。

32年前に発売された9枚目のアルバム「僕の中の少年」に収録された2曲で、「蒼氓」は荘厳なバラード、「踊ろよ、フィッシュ」は当時化粧品のCMにも使われた、少し夏の香りがするキャッチーな王道ポップソングだ。2020年の11/25に同アルバムのリマスター盤が発売されたことを機に、この2曲がひと連なりのMVとしてアップされていた。

それにしても、なぜこの2曲なんだろう? 

理由は、映像を見始めたらすぐにわかった。

このMVは、この2020年を生きた、私たちのために作られたものだったからだ。

2曲共にレコード盤に針を落とすシーンから始まるのだが、映像のトーンはあまりにも対照的なものだ。

時刻は、真夜中から払暁にかけて。始発と思しき山手線が、車窓から光を闇へと散らしながら走り抜けていく。
カメラは、有楽町、新橋、渋谷、新宿、上野、さまざまな繁華街を映し出していく。

特徴的なのは、その映像の中に、人が誰一人として映りこんでいないことだった。

そう。

時期は4月、5月。
「緊急事態宣言」という言葉が、そのまま私たちの行動に反映されるくらいには「重み」を持っていたころの東京が、そこにあった。

渋谷のスクランブル交差点。
センター街。
上野のアメ横。

新橋のSL広場。
新宿のゴールデン街。

誰も、映っていないのだ。

いや。
私たちは、映っていた。

2020年、見えない敵との対峙を強いられ、「人混みの中を生きる」ことができなかった私たちは、この映像の外側ではあったけど、息を潜め、生きながらえていたことが、ありありと思い出された。ここに刻まれた映像には、まさに2020年の蒼氓=人々を正しく映し出していた。

曲が進むにつれて、空が少しずつ、本当に少しずつだけど白んでいく。そして、雲のすき間から陽光が都心のビル群を照らし出していく。女性の横顔がオーバーラップして映り、「蒼氓」が終わる。

場面は一転して、明るい日差しが大きめの窓から差し込む、居心地のよさそうな家の中へ。
さきほどの女性が、レコードをかける。「踊ろよ、フィッシュ」が始まる。

女性は、コーヒー豆を挽き、ネルドリップで淹れたコーヒーを飲みながら文庫本を読み、サンルームを埋め尽くすとりどりの観葉植物に水をやると、ソリビングでゴールデンレトリバーとじゃれ合う。微笑みがこぼれていく。

女性は、石田ゆり子。そしてわんこは、愛犬の雪。
ただただ、どこまでもあたたかで、フレッシュな1日の始まりが描写されていく。

そう。
私たちは、生きている。

この国で、日頃から「君を愛してるよ」と口にしている人は、それほど多くはいないだろう。
でも、私たちはどんな状況におかれても、自分がいいな、と思えるような環境を作り、身近にいる大切な存在を抱きしめながら、日々を過ごす。

なにがあろうと、そこは変わらない。

石田さんが自然体で演じ、カメラの向こう側にいる私たちに示したのは、脆くて弱い私たちが、それでも肩の力を抜いて、強く生きていくための、基本的な構え、のようなものだった。

もちろん、誰もがその構えを知っているはずだ。

でも、それこそこんな状況の中にずっといると、ついおろそかになってしまいがちな構え、でもある。

大晦日で幾分感傷的になっていたのだとは思うけど、この8分半、2曲は、
2020年をどうにか乗り切った自分と、2021年に向かっていく自分の背中を、ポンポン、と叩いてくれたような気がした。

よかったら、ぜひ、観ていただけたら、と思う。誰にとっても特別だったこの1年を、静かに振り返ることができる時間になるのではないだろうか。



ということで、note、はじめました。

これまでも言葉とはずっと近い場所で生きてきたし、記事のようなものを書いたことは何度もあるけれど、それでもこの時期に、自分の言葉で生きていくことを決めた証として、書き始めてみることにした。

2021年、みなさんにとってこの年が、素晴らしい1年になりますように。

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