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全ての国が、医療体制、統治レベル、社会資産の3つを試されている ー 対策は1日にしてはならず

1週間前に、メッセージを受け取りました。

「このシンガポール外務大臣のインタビューも、とても良い内容だから、よければ見てほしい。もし訳したら、教えてほしい」

見ず知らずの、とある方からのDMでした(原文は英語)。わたしはプロの翻訳者ではないし、あの国から離れてからしばらく経ってるのにと思いつつ、インタビューを眺めてみると、たしかに、この先を見通した示唆にあふれる内容、誰かに紹介したくなる面白さです。

先日、日本語訳をつくった(2月8日付けの)シンガポール首相のスピーチと異なり、国民に広く呼びかける演説ではなく、CNBCというビジネス系テレビ局の討論番組。それなりに複雑さがある内容です。このレベルの討論を面白がれるひとなら、自ら英語で情報収拾するのでは・・・という気もしました。しかし私自身も、通りがかりのシンガポール人氏からメッセージをもらわなければ、その存在を知ることはなかったでしょう。

あれこれ考えるよりも、いただいた船には乗ってしまえ! ということで、このnoteを書いています。今回はシンガポール国内政治に関する部分も多いので、全文翻訳ではなく、要所を抜粋・翻訳したサマリーにしました。英語学習しているひとは、自分で聞いて・読んで、理解してみると勉強になると思います。是非。

動画はこちら:https://www.facebook.com/Vivian.Balakrishnan.Sg/videos/655285165229616/
書き起こしはこちら:

ところで、民間テレビ局でのインタビューについても、書き起こしを官庁ホームページで公開するんですね……。HTML形式なので扱いやすかったです。文書の記録・保管・公開は民主主義の土台。好ましい姿勢と思いました。もちろん政権が伝えたいメッセージ性が高いものをピックアップしているとは思いますが。

もうひとつこぼれ話、social distancingってどうやって訳すんだろう?と思ったら、日本心理学会が解説ページを設けていました。感謝。
https://psych.or.jp/about/Keeping_Your_Distance_to_Stay_Safe_jp/

ここから、インタビューのサマリーです。

現状認識:この現象は世界的なもの。今後も相当の期間、継続するだろう

深刻な表情で「これは世界的な、そして今後ある程度の期間、継続するもの現象となるだろう」とコメント。そしてSARSを例に、比較できる数字をいくつか挙げ、COVID-19についてはそれよりも長く、大きな影響を及ぼすようになるだろうという見通しを語ります。

東アジアが影響を受けたSARSでは、流行克服までに約4か月かかりました。経済的影響が収まるまでには約6か月。今回はもっと長く、そしてすべての国に影響を及ぼすでしょう。心理的な準備をする必要があります。
流行初期のシンガポールを例に挙げれば、国境コントロールが要でした。症例の輸入を防ぐためです。次の段階は、強力な封じ込め。ウィルス保有者を識別し、隔離し、治療し、死亡率を低く抑えることです。そのさらに先の段階は、遅延。流行のピークが、集中治療システムのキャパシティを超えないようにすること。そのためには社会的距離の確保(social distancing)などの取り組みが必要で、それは社会インパクトだけではなく、経済的なインパクトをもたらします。全ての国家政府が、各自の状況に応じて、適切なバランスを取る必要がありあす。そのうえで、緩和策を見つけることとなります。

  
今後どうなるか?:夏になれば収束するようなものではない

「これは新しいウィルスだ。非常に危険なものであり、従来のウィルスと同じであるという望みを持ってはいけない。我々は、夏が来たら流行が消えるという推測はしていない」と明言。そのうえで、今後の展開について2つのシナリオを挙げます。

1つ目は、パンデミック(複数の国や大陸に拡散したエピデミック)になり、世界的拡散となる。もう1つは、エピデミック(特定の区域・集団における、通常予測される以上の症例数の増加)にとどまるというシナリオだ。


何をするべきか?:全国家に多大なダメージをもたらす可能性があることを想定し、備えよ

「世界的なパンデミックになると思うか?」という司会の問いに対して、「我々は最善を願いつつ、最悪を想定するべきです」と断言。政府は最悪の事態に備えて準備をしている。国民にも心の準備を……と呼びかけ。

そして「全国家が、医療体制、統治レベル、社会的資産の3つを試されている」と述べます。この部分が、本インタビューのハイライトでしょう。

我々は準備をするべきと、思います。最善を願いつつ、最悪を想定するべきです。シンガポール政府は、自体をとても、非常に、深刻に受け止めています。 私たちは最悪の事態に備えています。私たちが取れる全対応を整理し、準備しています。私がお伝えしたいのは、このことです。長く続く戦いに備え、準備を整えましょう。これは私たち政府組織だけではなく、全国民のはなしです。これは全ての国家にとって、以下3つを試されるテストになるでしょう。医療体制、統治レベル、そして社会資産の3つです。3つのうちどれが弱くても、その国はエピデミックにさらされることになるでしょう。我々がどれだけ準備できているかを試されることになるのです。


シンガポールの状況:統計データに基づいた説明と、医療体制構築するための重要性の訴え

シンガポール国内で学校閉鎖するのだろうかという質問を受け、「学校閉鎖は、社会的距離を確保するため準備している施策のひとつにすぎません」と回答。そして、ウィルスの統計的データを説明します。

最新データによると、1例の感染が見逃されると、19日間で症例数が10倍になることが確認できている、おそらくヨーロッパやイランではこの状態になっているのだろうとの見解。シンガポール国内では毎日状況を把握し、発表し、必要があればいつでも対応をアナウンスすると明言。シンガポールの健康保険庁の特設ページはこちら。ちなみに日本の厚労省の特設ページはこちら

なおインタビュー後、シンガポールは3月18日に全ての海外渡航を控えるように勧告。さらに3月20日23:59から、全てのシンガポール入国者に、入国後14日間の自宅待機勧告を行うことに(詳しくはuniunichanさんのブログに、日本語でまとめがあります)。

インタビューではさらに、シンガポールの医療体制は十分に対応できるキャパシティがあることを説明。このような医療体制の構築はすぐにできるものではなく、長期間にわたる人材や設備、体制への投資があって実現できているものだと強調しています。対策は1日にしてはなりません。 

シンガポールだけが成功すれば良いという話ではない:国際協力の必要性

シンガポールと周辺各国を結ぶ多様な飛行機ルートを例に挙げたうえで、シンガポールはインドネシアやマレーシアなど、近隣のASEAN諸国とのつながりがあって成立していると説明。ウィルスには国境はない。近隣諸国と協力して立ち向かわなければならないと強調し、無益な批判は要らないと断言します。

このあと、インタビューはシンガポール経済に大きく関わる原油価格の問題を取り上げてから、終了。

最後に

改めて、興味があるひとや英語を勉強中のひとは、是非一次ソースも当たってみてください。筆者はコロナウィルス報道を見ていると、日本語ソースでは不十分なことを平時以上に痛感します。

動画はこちら、
https://www.facebook.com/Vivian.Balakrishnan.Sg/videos/655285165229616/
書き起こし文はこちらです。


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