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【コラボ短編小説】『そのキスはバターの味がした。』【恋愛小説】

「じゃあ、キス…するよ?」
そう彼に言われたのは一昨日の夜。彼の部屋でのことだ。
「う、うんっ….。」
彼の顔が近づくにつれて、歯がガタガタと音を立てているのが分かる。
足も手も震えているのに自由が利かない。体が硬直してしまう。
「やっ、やっぱりごめんっ!」
耐え切れず彼にそう言い放ち、そのまま部屋を飛び出して道路をかけた。
走って、走って、走って、走り疲れて。
たどり着いたのは歩道橋だった。気づいたら雨が降っていた。
ぽつり、と自分の唇にふと雨が当たる。
そのまま自分の指を唇に当ててみるとかすかにぬれていた。
その瞬間心臓がドクンとなる。
なんだか悲しくなってむなしくなって、雨のせいか誰にも気づかれないまま私は歩道橋の上で泣いていた。
ー深夜12時。

あれからもう丸4日ほどたった。
私は学校をさぼり、自分の部屋のベットでうずくまって適当にYoutubeをみながら過ごしていた。
ピコンピコンと通知がたくさんなる。
LIMEを見るとアイコンの上に34の数がついていた。
その連絡はすべて彼、千波ちなみからのものだ。
千波とのトーク画面を見る。
あれから何となく気まずくて、私は千波からのLIMEを全く返していない。
その内容は「大丈夫?」や「ごめんね」というような心配するようなものだった。千波は本当に優しい。私の自慢の彼氏だ。
なのに、私はなにしてるんだ。
自己嫌悪に陥って泣きそうになってしまう。ここ数日とても情緒不安定だ。
精神を安定させるため、今までのことを思い出してみることにした。

私はキスができない。
その感情を強く抱いたのは、新型コロナウイルスが流行し始めてからだ。
マスクを強いられ、他人との接触がまったくなくなる日々。
キスなんてもってのほかだった。私の、いや、人々の頭には「口と口の接触でウイルス感染の恐れがある」という事が染みついてしまったのだ。
その時から人との接触に抵抗がある。
今まで付き合ってきた彼氏とは、一度もキスをしたことがない。
もちろん千波ともだ。彼と付き合う時にそのことは伝えた。
だが昨日、千波にこんなことを言われたんだ。
「俺、瑠衣るいとキスしたいっ。」
「えっ…。」
衝撃だった。今までそういう雰囲気になったことはあったが、自分から言い出したことはない。
「な、なんで?」
一応理由を聞いてみた。
「俺と瑠衣ってさ、ほら、恋人だろ?だから、そろそろいいかなって…。」
うつむき、赤くなりながらも千波の顔は確かに真剣だった。
「あとさ」
すっと千波の顔が真顔になり、正面をむく。
「俺、もう我慢の限界なんだ。…瑠衣が可愛いからっ。」
胸がきゅっと小さくなるのを感じる。
「可愛い…」その一言だけで苦手なキスも克服できるような気がした。
「わかった。じゃあキスしよ…。」
そうして私が直前で拒否して今に至る。
冷静に考えると、100%私が悪い。
せっかく千波が勇気を出してくれたのに、私はその勇気を無駄にした。
やっぱり、ちゃんと話し合わなくちゃ。
私は決意し、千波に「ごめん、今日の夜会える?」
と送ってみた。手は震えていた。
そうするとすぐに既読が付き、「もちろん。じゃあ僕の部屋で。」
という返事が返ってきた。
なんだか夜が楽しみなような怖いような。気持ちを紛らわすため、今日は少し厚めのメイクをしようと思った。

「いらっしゃい、瑠衣。待ってた。」
彼はにこっと笑って優しく私を出迎えてくれた。
久しぶりに見た千波の笑顔に安心して、なんだか涙があふれそうになった。
千波の部屋に入ると、しばらく沈黙が続いてしまった。前は学校に行くときなど必ず毎日会っていたのでとても気まずい。
こちらから話題を切り出さなければ。
「あのさ、千波。この間のことなんだけどー」
「ほんとごめん。」
ほんとごめんと先にいったのは私ではなく千波だった。
「瑠衣がキスしたくないってことわかってたのにさ、俺がキスしたいとか言ったからこうなったんだ。だから瑠衣は学校にも行けなくなって…ほんとごめん。反省してる。」
違う、君のせいじゃないよ。悪いのは私なんだ。しかもキスしたくないわけじゃないの。キスできないだけなの。
どう彼に伝えたかったがなぜが声が出なかった。
泣きそうになっていたその時、私の頭の中のシャボン玉のようなものがぱちんと割れて、一つの考えが思いついた。
「だからもうキスしようなんて二度といわなっ」
「嫌。」
「えっ?」
彼は驚いた顔をしている。無理もないな。
「私、ほんとはキスしたかったの。でも怖くて…。だからさ、こうしよ?」
私はポケットから可愛い包み紙に包まれた小さくて丸いものを取り出した。
「それは…飴?」
「そう。」
私は包み紙から飴を取り出し、口の中にポイッと入れた。
ころころと舌で動かすと、ふわっとバターの芳醇な香りが広がる。
「今から私がこの飴をなめ終わったら教えてあげる。」
そういってにこっと笑って見せた。
だが沈黙も気まずすぎるので、彼にばれないよう飴を奥歯でかみ砕く。
「よしっと。…じゃあちょっと顔貸して?」
「え?殴られる?」
「違うよ!」
談笑しながら彼の顔を私の顔にグイッと近づける。
そして飴の包み紙をとると、彼の唇にペタッと張り付けた。
「はいっ、これでよしっ!じゃあ…これでキスしよ?」
彼はしばらくポカンとしていたが、数秒後意味を理解したのかコクっとうなずき、顔をこっちにより近づけた。
彼が目をつぶる。私もあわてて目をつぶった。
今、私は「ファーストキス」をしようとしている。
包み紙キスといってもキスはキスだ。
心臓がどきどき、というよりバクバクしてきた。
緊張する。恥ずかしい。
ええいっ!
意を決して思いっきり顔を前に出した。
すると唇に包み紙が当たる感触がした。

バター味、だ。
いくら時間がたっただろうか。私たちはゆっくり、ゆっくりとキスをした。
包み紙から唇を離し、千波の顔を見る。
すると顔が真っ赤になっていた。
可愛い。
何を思ったのだろうか。
私は包み紙を彼の口から奪って、ベットの近くに投げた。
「えっ…!?ちょっと瑠…」
彼がおどろく間もなく、私は彼の唇にキスをした。
彼のぬくもりを感じる。ああ、人の口ってこんなにあったかいんだ。
あとなんだろうこの香り。…あっ、バターか。
なんだか恥ずかしくなって、すぐに唇を離す。
「えへへ、やっぱりバター味。」
ペロッと舌で口をなめて私はいった。
次の瞬間、また唇に何かが当たる感触がした。
それが飴だったのか彼の唇だったのかはもう分からない。
なぜならバターの味がしたからである。
ー深夜12時。


ここまで読んでくれてありがとう。
この小説は作家のあるみさんとのコラボ作品です。
あるみさんのエッセイ『私はキスができない』を参考にした、フィクションとなっています。
ちゃんとした恋愛小説書いたの初めてだし、僕自体恋愛経験が皆無といっても過言じゃないのでうまくかけているかわかりませんが、皆様の心に少しでも留まっていただけたのなら幸いです。
あるみさん、素敵なコラボ改めてありがとうございました!
締め切り自分から出したのにめっちゃ遅れてほんとすみません…!

あるみさんの小説もよろしく!(マジ素敵)

それではsee you next time!
歌ノ儚.

こんなところまで読んでくれてありがとうございます! ここでもらったサポートはいろいろなことに使いたいと思っています! ぜひよろしくお願いします!