【新説・魚食レポvol.5】骨切りクロシビカマスの蒲焼き風握り
とある日、出社したら知る人ぞ知る旨い魚がいた。
クロシビカマスだ。
「カマス」と名前についているものの、
クロタチカマス科の魚。
カマス科では無く分類上は名前ほどに近しい魚ではない。
石油を被ってしまったかのような、ヌメっと黒く虹色に光る皮を持つカッコ良い魚だ。
この見た目から「スミヤキ」(炭で焼いたような魚という意)とも呼ばれる。
口を開くと歯がかなり鋭い。
これで漁師の縄を噛みちぎることもあるようで、「ナワキリ」と呼ぶ地域もあるのだとか。
「煮付けにしたらうまいよね~!」
「えー、おれは面倒だから良いよ…。」
人により評価が分かれる魚でもある。
好きな人は、その脂質の多さ*1と加熱したときの身の柔らかな食感を好む。
*1 【脂質について】
こちらのサイトには3月静岡でとれた540gの個体が12.2%だったとなっている。何度か食べた経験としては腹落ちする数値。
ただ春以降は、脂質が低い個体もいるとの話も聞く。
さらに30cm以上になると脂質が安定してのるが、未満だと脂が薄いものが増えるようだ。
一部の地域で30cm未満のものを水揚げせず海上で投棄するのは、脂質の薄さが故に市場で評価されづらいからかもしれない。
一方、
苦手な人は固い小骨が多くあるのを嫌う。
背側の皮と身の間に細かく入っているのだ。
僕も過去に煮付けにして、
「美味しいけど小骨がな~~〜。」
と感じたことがある。
ところが!
先日、そんなクロシビカマスちゃんの新たな調理法を見かけた。
骨 切 り
そう、夏が旬のハモで使われる技法だ。
このクロシビカマスも、骨切りして干物にする地域があるという。
ひょっとして、、
骨切りすればすごい寿司に化けるんじゃないのか…。
というメヒカリの姿寿司で感動した経験もあり、妄想が止まらずチャレンジしてみることとした。
【素材データ】
魚種:クロシビカマス
産地:千葉県館山
重量:800g位
数量:1尾
漁法:釣り物
水揚げ:5/18
初日の仕込み。
まず3枚卸。
活締めではないため動脈や毛細血管には血が残るが、身に血があまり回っておらず、釣り上げた後の産地での扱いが丁寧だったことがわかる。
半身をシンプルな刺身で握る用として、3%くらいの塩水に通したあと、水気をしっかりとり、冷蔵庫で一晩寝かせる。
残りの半身は酢締めにして寝かせた。
翌日の晩。
握る直前に寿司ネタサイズに切り付ける。
っと、
ここで骨切りだ…!!
まずは刺身握り用の半身。
可能な限り中骨を骨抜きでとったのちに、ハモみたく皮付きでチャレンジ。
(中骨も深く斜めに入っているのでかなり抜けづらく、全部を綺麗に取るのはかなり大変)
ブツブツブツブツ!!
ア"ァ"ーーーーーーッ!!!
慣れない作業のため一部が切れてしまう。
さらに背鰭近くのギリギリに骨があるため、刃先が反った三徳包丁だと捉えきれない。
いくつか骨を切り残してしまった気がする…。
しかも切った後に気付いてしまった。
骨切りすると「そぎ切り」が出来ない。
当たり前だが切れ目がたくさんあるので、ネタを一般的なシャリのサイズに合う形にほどよく薄く切ろうとするとボロボロになること必至なのだ。
もうこれでいっちゃえーー!!
エンジョイ!!
ドン!!
化け物みたいな一貫。
こ、、これはさすがに食指が動かないな...。
冷静に考えると皮も残ってるし...。
どうしよう…。
このまま失敗でしたでは終われない。
頭を悩ませひねり出したアレンジが、
蒲焼風!
バーナーで炙り、蒲焼のタレをつけて…
骨切りクロシビカマスの蒲焼き風握り!
ドーーン!!
ビジュアルとしては、
骨切りした箇所の溝にタレが染みていて最高にカッコ良い…...。
早速、食べてみる。
パクリ
・・・・・・
・・・・・・
うまぁ!…いっ……け…ど・・・・・・
骨がやはり残る〜〜〜〜〜!!!(涙)
寿司には致命的な欠点。
皮や身は抜群にうまい。
加熱により皮目の脂がジュワッと身からシャリまで回り、ガツンとした蒲焼きのタレと共に舌を楽しませてくれる。
身質もトロンとしていて口の中での馴染み具合は最高だ。
だがしかし。
時折訪れる骨の違和感が気になって寿司への没入をさまたげてくるのだ。
骨切りの素人が手を出すにはハードルが高い寿司であった。
さて。
また切り付けに戻って、
お次は「酢締めにした半身」を整形して握る。
中骨抜き作業をもうしたくないので、ロイン加工して中骨を除去。
そして皮も引き、それぞれを骨切りにした。
まずは背側。
ブツブツブツブツ!!
わ!わ!わ!
皮引き段階から、皮に身がくっつきまくり怪しかったが、さらに骨切りをしたことでクチャクチャに…。
チーーーン...。
めげずに次は腹側を切る。
スイスイスイスイ
!!!!
腹側はかなり柔らかい。
というより腹骨さえとれば骨が無いことに後から気付く。
こ、これは......ゴクリ...。
否が応でも期待が高まる。
ただシャリに比べて細身すぎだ。
なので縦にもスリットを入れて、幅を広げるようにして握り…
エンジョイ!!
酢締めクロシビカマスの腹身握り!
クロシビカマスとは思えないような綺麗な握りが出来てしまった。
これまた炙っちまえ!!!
ボゥッ!!!!
炙り〆クロシビカマスの腹身握り!
腹身たっぷりの脂をいったん酢で〆てキュッと凝縮させたと思いきや、業の炎で滲み出させて食べてしまうという…
なんて罪な一貫…。
若干エステルっぽい深海魚特有の風味を遠くに感じさせながら、旨味の塊はトロンと口の中で溶けて消えゆく...。
めちゃんこ旨次郎でした!!
「クロシビカマスの食べ方!?」
「煮付けじゃろなぁ〜〜...。」
というレベルから、奥深い味わいの一端を知ることが出来て、とても意義ある魚食チャレンジでした。
余談
塩麹漬けも作りました。
美味しかったのですが...。
皮を焼き過ぎて焦げてしまった...。
これが本当の「スミヤキ」ですね!
なんちゃって…泣
<参考資料>
熊野灘南部定置網漁場における漁獲の多様性と投棄に関する事例研究(山根,2008)
魚肉のビタミンAに関する研究ーⅢ.魚の個体による肉のビタミンA含量の差異(平尾ら,1955)
webサイト「聡丸で作ったお魚の料理」(クロシビカマスの調理法)
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