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「ゲラ」って何?知っておきたい出版用語【改めて出版業界の知識を学ぶ】

 こんにちは、マイストリート岡田です。

 本を出すぞ! 書籍化するぞ! と何らかの企画が進み始めたとします。けれど出版業界の独特な用語がよくわからずに困っていませんか?

 編集者から送られてくるメールの内容だけでも「?」が飛んでいるかもしれません。

お世話になっております、岡田です。
DTPから再校ゲラのPDFが届きました。
こちらのURLからダウンロードして、ご確認くださいませ。
https:~~~~~~~~
口絵が追加されています。キャラ紹介文の再度確認お願いします。
本文内、トビラ挿絵も挿入されています。
デザイナーへ戻した付き物は修正版を確認したのち、印刷所へ入稿します。
どうぞよろしくお願いいたします。

 いろいろ情報を詰め込んでいますが、編集者からはこういった感じで出版業界用語が入ったメールが送られてきます。
 業界には特有の用語があって最初は覚えるのに苦労しますが、なれてしまえばやりとりもスムーズになります。本制作の共通概念のようなものなので、ある程度把握しておけるといいでしょう。

 ここでは編集者とやりとりする上で最初に把握しておきたい出版業界用語を紹介していきます。
 基本的には小説などの文字ものの書籍を想定しての説明となります。


■原稿

 原稿とは本にするための素材となる文章やイラスト、写真などすべてを指します。多くの人のイメージでは、原稿用紙に書かれた文章や、マンガの書かれた用紙になるのではないでしょうか。

 以前はペンで紙に書いていたものが、現在はデジタルでPC上の作業ができるようになったので、原稿のファイルを受け取ったら直接その原稿に指摘を加えることができるようになっています。

 著者は事前に、自分の執筆環境について編集者と確認を取っておくとよいでしょう。使用しているPCのOSや、Wordや一太郎などのソフトが使えるかなど。

 文字ものの場合、紙面のフォーマットが決まっている場合があります。
 文庫であれば見開きで38字×34行なので、Wordでも同じように設定して執筆することで、本としての体裁がイメージしやすくなります。

 OSやソフトのバージョンの違いで、ずれてしまったり表示がおかしくなってしまう場合もあるので、双方で確認することが重要です。

 編集者は原稿を受け取ると、それを読んで朱字を加え、改稿方針を著者と話し合っていきます。


■朱字/赤字

 朱字/赤字は、文章の気になる箇所に赤ペンで指摘をしていく、添削作業や校正作業で加わる文章のことです。
 紙に印刷したものに赤ペンで書いていくのが基本ですが、Wordや一太郎の添削機能を使ったりもします。スタイラスペンが使える端末であれば、モニタ上で書き込むことも可能です。

「朱字」と書くこともあるのは、明治期は朱墨を使っていたことと「赤字」は縁起が悪いので避けられる、という理由があります。


■DTP

 DTPはDeskTop Publishingの略で、PC上で印刷物のデータを作成していくことを指します。
 編集者が「DTPへ渡す」「DTPから届いた」と言う場合は、DTPオペレーターという作業者とデータのやり取りをしたことを意味しています。

 現在、ほとんどの印刷物はAdobeのInDesignというソフトを使って制作されています。InDesignを持っていればDTPオペレーターに依頼せずとも印刷データを作成することは可能です。出版社の中には編集者自身がDTP作業を行っていることもあります。

 ただ、印刷データの作成には有料のフォントを揃えたり、印刷で不具合のないようにデータを作ったり、とそれなりに制約が多いです。編集者の負担を減らすためと、複数の人のチェックを通すためにも、DTPオペレーターに作業を委託することが多いです。

 作家の中にはInDesignで直接執筆をしている人もいます。WordなどのソフトからInDesignへ原稿を流し込むと、どうしてもズレてしまう箇所が出てきます。「読みやすさ」を追求したい場合、InDesignで直接執筆してしまう手もあるのですが、ハードル高いですね。


■ノンブル、柱、扉、見出し、奥付

「ノンブル」は各ページを示す連続した数字のことです。どこからが1ページなのかはその出版物のルールによって異なります。口絵を含める場合や、口絵が終わってから1ページ、というような場合があります。
 表紙は区別され、表1から表4と表記されます。

「柱」は本文が配置される「版面」の外側、マージン部分に記載されるものです。ノンブルの脇にある、章題や本のタイトルが書かれている部分です。

「扉」は本の最初にタイトルや著者名を表記する部分です。加えて、各章の区切りとして使用するページは「章扉」と言います。

「見出し」は各章や節など、文章の区切りを示すための部位です。書体を変えるなど本文とは区別されます。

「奥付」は原則として本の最後にあるクレジットページです。タイトルや著者名、発行年月日、発行者・発行所、印刷所・製本所、ISBNなどが載っている。

 実際の発売日と発行日が異なっている理由はこちらを参照してください。
 増刷されると発行年月日の下に増刷発行日が追加されていきます。

 奥付のあとに入る広告的なページを「自社広告」と言います。
 ページ数が余ってしまった場合は、このように自社の書籍の紹介が入るようになっています。


■ゲラ

 ゲラとはゲラ刷り=校正紙のことです。現在では紙とデータの堺が曖昧なので、PDFデータで届いたものもまとめてゲラと言います。

 ゲラとは、活版印刷の時代に組み終えた版を入れておく木製の箱のことを指していました。昔は膨大な量の文字の判(活字)を組み合わせて印刷の元となる活版を作り、それで試し刷りをして校正を行っていました。これが現在では全部DTPで行えるということですね。

 ゲラの語源は「galley」で、ガレー船のことを指します。木箱がガレー船のようだから、なのでしょうか。
 英語で校正刷りは「galley proof」で、現在ではプルーフと呼ばれます。こちらは「証明・証拠」という意味。

 活版印刷が廃れたいま、日本では「ゲラ」が残り、英語では「プルーフ」が残っているんですね。

 ちなみに関西地方で「ゲラ」は「すぐ笑う人」を指します。


■校正・校閲

 校正は、文章の誤りや体裁のミスを指摘する作業です。漢字や使用方法の誤り、文字統一のチェックなどを行っていきます。

 校閲は、より内容に関連する事柄をチェックしていきます。記述内容の矛盾点や、事実関係の誤りなど、原稿の内容に齟齬がないかを見ていきます。制作の予算が少ない場合、校閲を頼むにはお金がかかるので、編集者が校閲の責任を負う場合もあります。

 校閲は、本文に書かれていることの真実性を確かめたり、著者の書いていることの矛盾の指摘、社会情勢と照らし合わせて不適切でないか、など多岐にわたるチェックをする必要があります。文章を精査する力に加えて膨大な知識や経験が必要となってくる、職人のような仕事です。


■トルツメ

 校正用語のひとつで「文字を削除して詰める」という意味があります。
 校正紙には朱字で修正指示を書き込んでいきますが、たとえば「削除」と書いた場合に「指定の文字を『削除』に変えるのか、指定文字を削除してほしいのか」が曖昧になってしまいます。それを防ぐための指示記号として使われます。

 現在は文字を消すと自動的に詰まるので、「トル」でも通じます。
 あえて空白を加えたい場合は「トルアキ」のように指定します。

 修正指示に対して「やっぱ修正しない」というような指定をする場合は「イキママ」「イキ」と書きます。

「誤字だと思うけど原文がこうなっているのでこのままにします」という場合は〔原文ママ〕、縮めて〔ママ〕と書かれます。
 これが転じて「このままにします」「修正なしです」という場合は「ママ」と書くこともあります。


校正記号は誤解のない修正指示のやりとりに必須です。基本は覚えておくとよいでしょう。


 これら校正作業の、最初を「初校」、次が「再校」、その次は「三校、四校……」となります。


■付き物

 本文以外の付属物のことです。本に挟まっているスリップやハガキも付き物ですが、チェックとして重要になるのは、カバー、オビ、表紙、口絵、見返し紙などがあるでしょうか。

「カバー」は本の表紙の上から被せるパーツのことで、普段から見ている本の顔とも言える部分です。「表紙」と言ってしまいがちですが、実はカバーなんですよね。カバー全体ではなく正面部分のみを切り取ったものを「書影」と言います。

 カバーの端、折り曲げている部分を「ソデ」と言います。作者のプロフィールや、既刊案内などが入ります。

「オビ」はカバーの上から巻かれる、本のキャッチコピーや紹介文が書かれたものです。本を手にとってもらうための工夫が凝らされている部分でもあります。「腰巻き」とも言います。
 このカバーとオビは、本というパッケージの外観や印象を決めるものなので、編集者はいつも七転八倒しながら考えています。

 ライトノベル、マンガなどでは口絵も付き物としてチェックがあります。
 見返し紙については、デザイナーさんと相談して、作品にあった色、用紙を選択してもらいます。


■入稿・責了・校了

 原稿をDTPでゲラにしてもらう際も「入稿」と言います。
 DTPで作成した印刷データを印刷所へ渡す際も「入稿」と言います。

 校正作業を行っていき、最終的に少量の朱字を入れてあとは印刷所に任せて印刷工程に進んでもらうことを「責了」と言います。

 最後まで間違いがないことを確認して、印刷用データを渡す場合は「校了」となります。

 これは各出版社の作業フローや印刷所との関わり方によって変わります。印刷所自体がDTPも請け負っている場合は責了という形で作業を進めることもできるでしょう。

 ただ、印刷所は校正の責任を負っていない場合は「校了データ」を渡すことが必須で、印刷所でデータの修正を請け負わないこともあります。

 こういった編集作業、校正校閲作業、DTP、印刷、製本と、個々の制作工程における「仕事と責任の範疇」が変わってくるので、揉めることのないよう編集者は区分しているはずです。

■まとめ

 これくらいが基本事項でしょうか。基本だけでもかなり覚えることがあるので大変です。
 しかも、他の記事でも書いたように、これらの用語は時代を減るにつれて以前の意味合いと齟齬が出るようになって来ています。意味の範疇が変わっていたり、編集者が間違って覚えていたりするので、少々厄介。

 わからないことや、疑問に思ったことがあったら、放置せずに質問と確認をしていくことが肝要です。

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