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「重版」「増刷」の違いは?【改めて出版業界の知識を学ぶ】


 こんにちは、マイストリートの岡田です。

 新年度に入ったということで、気分も改めてnoteの連載をしていきたいと思います。

 僕は今年でいまの会社に入って8年が経ち、編集者としての経歴も同じくらいとなります。出版業界に関わるのは、書店バイト時代を含めると14年くらいになりますね。

 ところがそんな長い期間、出版というものに関わっていても、この業界の基礎や用語について「あれ? どうだったっけ」となることが多いです。

 というのも日々技術の発展や状況の変化があり、出版用語が実態と食い違っていたり、慣習が現実に沿わないものになっていたりと、齟齬が出ている場合があり、すべてを最新の情報にアップデートするのが間に合っていなかったりします。

 前に覚えたことも、いまではもう通用しない、というのは世の常です。

 というわけで改めて、出版業界の基礎知識を学んでいければと思います。


■「重版」と「増刷」

 本を出版した著者が最も喜ぶのは「重版」、あるいは「増刷」です。
 なぜならその分だけ印税がまた入るから!
 しかも追加の作業が(ほぼ)発生せずに、です。

 著者は「印税」といって、本の本体価格(税抜の値段)の数%を自分の取り分として得ることになります。

「重版」「増刷」があると、最初の発行の際にもらえる印税にプラスして、収入を得られるというわけです。


 で、この「重版」と「増刷」なのですが、多くの書籍では区別されていません。「出版された本が売れ行き好調で再度印刷所で印刷・製本されます」といった意味として捉えられています。

 本の奥付を見てみると、基本的にはこのように書かれています。

 2020年2月3日 第1刷発行
 2020年4月2日 第3刷発行

 けれどKADOKAWAの刊行物はこうなっています。

 2020年3月4日 初版発行
 2020年4月2日 3版発行

 つまり区別されていません。そして、「重版」「増刷」が決まった際は、言葉の強さや印象が良いのか、「重版」が多用されるように思います。

「重版決まりました!」
「○○日に重版出来です!」

 「出来(しゅったい)」というなかなか使うことのないレア語彙も、ここでは大活躍します。

 また出版社などの告知も「重版情報」とされるほうが多いようです。

 昔の印刷では「版を作る」ということは大変な作業で、原稿に合わせて木を掘ったり、膨大な活字(字が掘られた金属の判子のようなもの)を組み合わせて版を作る必要がありました。

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 2000年頃にはこの「製版」がすべてデジタルで行えるようになったため、版を作るという作業が格段に簡単に素早く行えるようになりました。何か修正したい部分が発生したとしても、デジタルなのですぐに行えるようになっています。これをCTP(Computer To Plate)と言います。

 デジタルデータとして入稿された印刷物を、印刷機で印刷できるようなデータに変換し、それを出力していく作業です。

 印刷は基本の4色(CMYK)分解がなされ、それぞれ刷版(アルミ製の版)にデータが出力され、それらを印刷機のローラーにセットして印刷を行います。

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 90年代ごろはアナログとデジタルの境目で、刷版作成にあたって、印刷データを製版フィルムにしていた時期がありました。写真のフィルムのようなものです。僕が印刷所に務めている頃も、古い出版物はこの製版フィルムが残っていて、増刷の際にはフィルムを再利用していました。これが正しく「増刷」ですね。

 つまり、昔は印刷物を刷る際には、「版」を作る必要があり、再度印刷を行う際はその版を再利用していました。これが「増刷」です。

 増刷するにあたって、何か内容の修正がある場合は、版を改めなければいけませんでした。これが「重版」でした。

 けれど現在は重版の際の修正もデジタルで行えるため、増刷も重版も大差ないものになったんですね。


■「版」と「刷」をあえて分ける場合

 教科書や参考書、辞典、資料となるものなどは、誤りの修正、情報のアップデートなど、訂正したことが明確になるよう、版と刷を分けて使っています。

 1999年1月1日初版第1刷発行
 2001年1月1日第2版第1刷発行
 2020年1月1日第3版第1刷発行

 このように表記されています。ただこの場合、全体的に見直しをして改めてているため「改訂・改版」と言えるでしょう。

「改訂版」とする場合は、その書籍を全面的に見直して変更を加え、再度入稿作業を行い、新しい本(別の本扱い)として発行します。

 辞典・事典の場合はこの「重版」が大きく扱われていますが、実際は「改訂版」の「第○版」と銘打って発行されますね。

 でも「『○○辞典 第○版』好評につき重版決定!」なんて言われるとわけわかんなくなります。


■「新装版」と「復刻版」

 以前発行されていた本が、何らかの事情で再度発行される場合があります。

 古い書籍が版元や装丁を変えて、新しいもの(元とは別の本扱い)として刊行される場合は「新装版」とされます。

 絶版になったものを復活させ、同じ形で発行する場合は「復刻版」と呼ばれます。

 小説やマンガなどのコンテンツはこの形ですね。

■まとめ

●現在の日本において「重版」と「増刷」はほぼ同じ意味として用いられる。

●「増刷」は本来、初版と同じ版を用いて再度印刷を行うこと。
●「重版」は初版から加筆修正を行い、再度製版して印刷を行うこと。

●現在では全体的に加筆修正して内容を見直し、再度発行する場合は「改訂版」とされる。

●【重要】「重版」「増刷」は、決まったらうれしい!


◆参考


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