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自分らしく生きる脱サラ銭湯ハンコ作家 十四三(としぞー)さんの “好き”の原点に出会う方法


日本の文化である銭湯は今、若者から大人までが楽しめる娯楽へと変化しつつあります。

銭湯特集を目にする機会は増え、アパレルブランドからはおしゃれな銭湯グッズが発売されるようになりました。



まさに“ネオ銭湯”時代に突入したと言えるでしょう。

そんな“ネオ銭湯時代”に独自の世界観で銭湯の魅力を発信する、日本でただひとりの銭湯ハンコ作家 十四三(としぞー)さん。


好きなことに出会い、自分らしく生きられるようになったのは、


「日々のながれの中で、打算的な考えや使命感にとらわれず、好きなことに対する純粋な意欲を大切にしてきたから」


だと言います。


「自分らしい生き方を手に入れたいけど、何が正解がわからない」と、悩み模索している人にぜひ読んでほしいインタビュー。

あわせて、“ちょっとマニアックな銭湯の世界”もお楽しみください!




1.作品のきっかけは、いち銭湯ファンの恩返しから

これまで全国200軒以上の銭湯に、銭湯お遍路ハンコを納品してきた十四三さん。

まずは、銭湯お遍路ハンコについてご紹介します。

銭湯お遍路とは、言わば銭湯のスタンプラリー。
スタンプラリーで使われるお遍路用のスタンプを「銭湯お遍路ハンコ」と呼んでいます。

公式サイトによると、対象となる銭湯は約520軒。2019年12月現在で東京都浴場組合に加盟している銭湯の数だそう。



銭湯に入浴するごとに、備え付けのお遍路ハンコを押せるイベントで、浴場達成数に応じて記念品をもらうことができます。

銭湯は多種多様でありながら、同じ入浴料金なところが魅力の1つ(地域差はありますが、東京都は2020年現在470円)。

銭湯をめぐる楽しさが増す銭湯お遍路は、銭湯ファンならずとも必見です!


__そもそも、銭湯お遍路ハンコを作るきっかけは何だったのでしょうか?


最初は「何かに使ってくれたらうれしいな」と思い、親しくしていた上野の日の出湯さんのハンコを作ったのが始まりです。次に、仲の良い北千住のタカラ湯さん、御徒町の燕湯さんのハンコを作りました。

以前の銭湯お遍路ハンコは、ただ名前が書いてあるだけでした。

それぞれの銭湯の特徴をいかしてかわいいデザインにした方が、もっと素敵になるんじゃないかと思ったんです。


__すごいですね!他にはどんな作品が?

銭湯好きとしては“下駄箱の鍵”はおもしろい発見でした。デザインが細かく、きっと誰もやらないだろうしハンコにしたらおもしろいかなと思って作り始めたんです。


__こんなに種類があるなんて驚きました。銭湯好きだからこその発想で、さすがです!早く銭湯に行って、ハンコや鍵を自分の目で確かめたくなりました!



2.小さい頃の記憶が原点に

長く勤めた会社を辞め、好きなことで生きていくと決めた十四三さん。銭湯ハンコ作家として成功するまでには、どんな道のりがあったのでしょうか?


__銭湯ハンコ作家として活動する前は何をされていたんですか?


以前の仕事はプログラマーでした。

でも、大学では経済学部に所属していたのもあり、そもそもコンピューターのことは何もわかっていなかったんですよ。

一生懸命できることは何かな?と考えていったら、自然とたどりつきました。

当時、パソコンは普及していなかったので、パソコンに関わる仕事ならこの先新しいことができるかもしれないと思ったんです。

インターネットが普及してからは、Web関連の仕事もやるようになって充実していきましたね。

今考えると、やっぱり何かを作ることが好きだったのかな。

ただ、長く勤める間に会社が大きく成長し、指示される仕事ばかりになってしまったんです……。徐々にきつくなりメンタル面で体を壊してしまいました。



*   *   *

体調を崩してしまった折、十四三さんのもとに人生を変える“きっかけ”が舞い込んできたと言います。

あるとき、地元のタウン誌「町雑誌千住」を作るグループに入ることになったんです。


__会社の仕事とは別にということですか?


そうです。

「町雑誌千住」は千住の町を調べて発信するタウン誌で、作り手は若い人が多かったんですけど、おもしろいなと思って入り、文章を書いたりいろんなことをしたりしてました。


__へー!自然なながれのように聞こえますが、すごい行動力だと思います!


考えてみると、文章を書くのが好きだったんでしょうね。

小学生時代、宿題でもないのに勝手に作文を書いて先生に提出してました(笑)それに、授業中に絵ばかりを描いていたことも、今に繋がっているんだと思います。


__まさに、原点だったんですね!


今思えば、確かに原点ですよね。 


自分では気がついてないけど、小さい頃の記憶って案外ヒントになるのかもしれません。


__なるほど。自分の子供時代はどうだった?と周りに聞いてみると、おもしろい発見があるかもしれないですね!




3.好きなことを純粋に追い求めていたら自然と形になっていた


__会社員をしながらタウン誌の活動を続けていくわけですが、銭湯ハンコ作家の転機はあったのでしょうか?


タウン誌を作っているうちに、いろんなイベントに顔を出すようになり、自然と銭湯との付き合いが増えていきました。当時、千住には銭湯が16軒くらいありましたから。

ハンコは、小さい頃から好きで作ることも好きだったんですよ。子ども時代に消しゴムを彫って年賀状に押して遊んでました。

ただハンコが好き。好きに理由はないんです。

でも、ハンコが好きだなと思い出したのは、ファンだった版画家兼コラムニストのナンシー関さんが亡くなったことがきっかけだったかな。

ナンシー関さんが作る芸能人の顔を彫ったハンコや文章がおもしろくて好きでね。

真似事をしたいなと考えましたが、同じように芸能人の顔を彫るのも違うなと。そこで銭湯と結びついたんです!


__なるほど!


銭湯のご主人や女将さんの顔を彫って、サプライズでプレゼントして喜んでもらえることが、おもしろくておもしろくて。

そんなことをやっているうちに北千住のタカラ湯さんが「個展をやりませんか?」と声をかけてくれたんです。

個展開催日に、新聞社がたまたま別件で取材に来ていて、個展のことも大きく記事にしてくれました。

ありがたいことに偶然が重なり、口コミで広がって「うちでもやりませんか?」と声をかけてもらえるようになったんです。

徐々に銭湯との関わりが深くなって、今度は全国浴場新聞のコラムを担当することになりました。

当時、全国浴場新聞の編集者が変わった時期だったようで、コラムニストを探していたらしいんです。

2014年6月から毎月書き始めて、早6年が経ちます。


__すごい!人脈というか運というか、きっと十四三さんのお人柄があってこそですね!


そうなんですかね……、偶然が重なったんですよ。でも、私は人脈を作ろう!と思って作ってはいなかったです。


__欲がない部分が、かえって良かったのかもしれませんね。


確かにそうです。何をやっても純粋な意欲ってあるじゃないですか?

例えば、これをやった時の自分はかっこいいとか、どれくらい儲かるとかは抜きにして、好きなことをただ追求していく。自分がおもしろがってやれるかだと思うんです。

その方が、みんな注目してくれたり応援してくれたりすると私は思います。


__うーーん、深い。


深いのかな(笑)だってそう思いませんか?
やっぱり、何も下心がなく一生懸命やっている姿って誰もが応援したくなると思うんです。


___下心や計算ではなく、「ひたむきな意欲」が大切ってことですね!


だから、本当に好きなことをやったら良いと思います。


___なるほど。でも、当時はまだ会社勤めを続けられているわけですよね。会社を辞める決意はどんなタイミングだったんでしょうか?


やっぱり、体調を崩したのが大きかったですね。

だからといって、退職する時に銭湯ハンコ作家としての仕事があったわけではなかったので、辞める勇気はもちろん必要でした。

退職する直前に、永年勤続表彰されたのも後押しになったかもしれませんが、結局はこのまま働いてもつらいのは同じだし、何か新しいことをしなきゃいけないと思ったんです。


___そうだったんですね。そこから銭湯ハンコ作家としてどのように活動を始められたんですか?


退職して間もなく、「銭湯お遍路のハンコを作らせてほしい」と東京都浴場組合へ許可をもらいにきました。

最初に親しくしていた銭湯のハンコを作った時に、もしかすると銭湯お遍路ハンコとして使えるかもしれないと思ったんです。


__すごいチャレンジですね。


もちろん初訪問でしたが、全国浴場新聞のコラムを書いていた繋がりもあったので、わりとあっさりOKをもらうことができました。


__すごい!ながれが自然です。今では、銭湯お遍路ハンコは200軒以上の銭湯に納品しているとのことですが、どのように広がっていったんでしょうか?

いろんな銭湯のハンコが押されたスタンプノートを持っている人同士、銭湯のご主人や女将さんとの間で、それはどこの銭湯?そのハンコどうしたの?みたいに徐々に口コミで広がっていったようです。

しばらくすると、支部単位でまとまった依頼がきました。

今ではメインの仕事にもなっていて、ありがたいことに東京、千葉、大阪、鹿児島、北海道まで広がっています。



4.1ミリだけはみ出る勇気と純粋な気持ちを大切に


__最後に、自分らしく生きるために踏み出そうとしている人へ応援メッセージをお願いします!

自分が本当にやりたいことを考えると、心配なのはお金だと思うんです。だから、私と同じように会社を辞めなさいとは言いません。

でも、ちょっとだけで良いから、今の環境や考え方を1ミリでもはみ出してみること。

必ず「絶対にそんなの無理だ」とブレーキをかける自分が出てくるけど、その自分は無視して、とりあえずちょっとだけはみ出て考えてみる。

何をしよう?と思ってしまいがちだけど、なぜやるのか?何のためにやるのか?を考える。

私は銭湯が大好きだから、銭湯に行く人や経営する人、銭湯を取り巻く世界や空気があたたかくなってくれたらうれしい、みんなを楽しませたいと思いながらやっています。

純粋に追い求めて好きなことをやる。そうするときっと良いことが待ってると思います。



インタビューを終えて

常に穏やかに話してくださった十四三さん。自然体の中にも、好きなことに対するまっすぐな信念が垣間見れました。
純粋に好きなことに出会えたのは、変に力むことなく自然のながれに身を委ねたから。そして、そのお人柄こそが自然と人脈を生む秘訣なのではないでしょうか。

自分らしい生き方を手に入れようとすればするほど、選択肢の多い現代では難しく考えがちなのかもしれません。

そんな時こそ肩の力を抜いて、あえて原点に立ち返ったりながれに身を委ねたりしてみる。そうすることで、自分でも気づかない一面に出会えたり、ヒントが転がっていたりするのだと気づかせてくれました。

*  *  *

【本記事について】インタビュアーが、SHElikes(女性のライフ&キャリアスクール)でライターコース受講中に執筆した卒業制作を一部リライトしたものです。インタビュイー始め、SHElikes講師、周りの知人など多くの方にご協力いただきました。この場を借りて感謝を申し上げます。



▼今回お話をうかがった十四三さんのコラムや活動はこちらから

廣瀬 十四三 hirose toshizo

銭湯ハンコ作家/コラムニスト 
全浴連/東京都浴場組合公認スタンプデザイナー
全国浴場新聞にコラム「銭湯ハンコ絵語り」連載中 



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