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元カノなんて大っ嫌い!『かわいそうだね?』感想

元カノ。
それは大好きな彼氏にまとわりつく、いまわしき存在。

そんなヘドロのように鬱陶しい「元カノ」の煩わしさを描いた作品が、本書『かわいそうだね?』(綿矢りさ)だ。


あらすじ

デパートのアパレル販売員である主人公・樹里恵は、アメリカ帰りの頼れる彼氏・隆大と順調に交際を続けていた。

しかし、隆大が「元カノを自宅に居候させる」と言い出して……。

樹里恵と隆大の交際はうまく行くのか?
元カノ・アキヨの思惑はなんなのか?

「女ってほんとに厄介」?


ちりばめられた「日常あるある」

本書での描写、本筋とはそんなに関係のない「日常あるある」にくすりとした。

「一人暮らしの人が使うこたつ兼テーブル、めっちゃ天板ずれるよね」
「季節真夏なのに服屋だけ秋」
「男ってすぐ〇〇(女)は俺しか頼れる人がいないんだ!とか言うよね」
(全て要約)

↑この辺の描写には「わかる!!」という気持ちでいっぱいになった。

綿矢りささん、日常への解像度が高すぎる……。
ひたすら綿矢さんの日常あるあるを読みたいという気持ちになった。自分の気づかなかった日常に気づけそう。


「かわいそう」なのは誰?

樹里恵は百貨店の店員で、安定したお給料をもらい、見た目も洗練されている。

対して、アキヨは50社も連続で落ち、家賃の支払いにも困っているような無職だ。格好もどこか周りから浮いていて、年相応でない振る舞いが目立つ。

樹里恵はアキヨに対して「かわいそう」という思いを抱くのだが、一方の樹里恵は後輩から「かわいそう」と言われてしまう。

正直「かわいそう」なのはどっちもだと思った。
樹里恵は自分が1番愛されているのだ、本命なのだという気持ちに縋り付いているし、アキヨは明日をもしれぬ生活の中、隆大がまた愛してくれる可能性に縋り付いている。

他人からの不安定な愛に依存していて、自分の確固たる軸がない。
そういう女は、他人から見るとどっちも「かわいそう」な女だ。

ところで、2人に限らず隆大もなかなか「かわいそう」な男だなと感じた。

アメリカに居続けることも、日本に馴染むこともできず、アキヨか樹里恵かをはっきり選ぶこともできない。
永遠に両者の狭間でゆらゆら揺れていて、所属意識が満たされない。

自分の理解者だと思っていた樹里恵に、「アメリカではそうだったんか?」と、1番言われたくないことを言われてさぞショックだっただろう笑
隆大だってなかなか「かわいそう」な男だ。


「美人」ならではの生きづらさ

本書に同時収録されている、「亜美ちゃんは美人」も大変面白い。

美人なさかきちゃん、よりも更に美人な亜美ちゃん。
圧倒的美人の引き立て役としての、さかきちゃんの苦しみと、圧倒的美しさを持って生まれてしまった、亜美ちゃんの苦しみ。

美しさを持って生まれた人は、その美しさを打算的にうまく利用できないと、破滅の道へ向かっていく。
その「美人ゆえの苦しみ」を、美人に憧れる人たちが理解することはないし、また、美人も自らに憧れる人たちを理解することはない。

美しく生まれたからってイコール幸せなわけではないんだね〜。

最後には亜美ちゃんを理解したさかきちゃん、その友情が美しく尊い。
さかきちゃんがずっとそばに居続けてくれたことが、亜美ちゃんにとっては何よりも変え難いことでしょう。


おわり

初めて読んだ作者さんだったけど、すごく読みやすくてさらさら読めた。

うざい元カノへの苛立ちを樹里恵とともに感じるものの、最後は全てめちゃくちゃにしてくれるのが爽快な本作。

私もこれくらいはちゃめちゃに生きたい。

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