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今月読んだ本の感想(3月編)

お世話になってる精神科の先生曰く、「3月は人間の発情期で、ホルモンバランスが乱れるので調子が悪くなりやすい」らしい。

かくいう私は、あたたかくなってきて活動しやすくなったな〜と感じつつ、急に鬱になったりしている。

このまま暑くはならず、過ごしやすい時期が続くと嬉しいね〜。
というわけで、今月はたくさん読めました。

※微・ネタバレありです。


『食べると死ぬ花』/芦花公園

【あらすじ】
同居の姑からはいびられ、夫は家庭に無関心。そして、一人娘はおそろしい絵を描きながら異界の言葉で話す。

そんな状況に疲れ切った美咲は、仕事前に立ち寄った喫茶店で、恐ろしく美しい男・ニコに出会う。

ニコを生き甲斐に日々を耐え忍ぶ美咲だが、ある時ニコから「贈り物」として大きなキャリーケースを渡され……。

ニコと、とある一族との因果にまつわる、連作短編集、全7篇。

【感想】
ホラーというジャンルではあるが、怖いというより「不気味」くらいなので、怖いの苦手な人でも楽しく読めると思う。

不気味、不思議、気持ち悪い、グロテスク、あたりの気持ちになりたい人におすすめ。

ニコが人々に与える、不思議な呪物の中でどれが欲しいかな〜と考えたのだけど、やっぱりダントツで「選択の箱」がほしい。

これは、「過去に戻って人生の選択を3回やり直し、3回とも正しい道を選べば、みちがえた人生となる。しかし、失敗したら元の人生にもどる」という不思議な箱。

過去のあの時の選択をやりなおしたい!!と思うことめちゃくちゃあるので、ぜひ一度挑戦させていただきたいものだ。
失敗しても元の人生に戻るだけなのも良い。

とはいえ、手に入りそうだった理想の人生が、指の隙間からこぼれ落ちていく様子を見るのはキツそうだが……。

「選択の箱」はオチもよかった。人生にとって重要じゃなさそうな些細な選択が、実は大きく人生を変えることってあるんだよね〜。

ネット上では「帰還の壺」が話題だったっぽいけど、私は主人公にイライラしてしまってダメだった。個人的に話として1番好きなのは、「天賦の才」かな。
ラストがダントツで気持ち悪いと思った。ニコの目的がなんとなくわかって、色んな人はこのための踏み台にされたのか……と暗澹たる気持ちになった。ひとりひとりに人生があるのにね。

「帰還の壺」は一話まるごと、ネットで試し読みできるようなので、興味があればまずはそちらを読んでみると良いと思う。


『ショートショートでひらめく文章教室』/田丸雅智

最近文章書けてないな〜。なんか書きたいな〜。小説は書いたことないけど、ショートショートとか挑戦してみたいな〜。と思って手に取ってみた。

ショートショートのアイデアの発想法が紹介されていて、「そうやって考えるのか」と参考になった。
読んですぐ始められる発想法なので、とてもチャレンジしやすい。

何回も練習したら、ショートショート以外にも応用できそうな感じ。


『六人の噓つきな大学生』/浅倉秋成

【あらすじ】
急成長を遂げるIT企業「スピラリンクス」の最終選考に残った、六人の大学生たち。
「六人全員が受かる可能性のある」最終選考のグループディスカッションにむけ、交流し仲を深めていく彼らに、スピラリンクスから一通のメールが届く。

それは、最終選考方法を変更するとの通知だった。
「六人の中で、内定に相応しい者を一人だけ決めてください」。

かつての仲間はライバルと化した。
そして、最終選考のグループディスカッションに、とある封筒が持ち込まれる。

その封筒には、「〇〇は人殺し」という告発文が入っていた。

嘘つきな六人の、心理戦が始まる。

【感想】
めっちゃ面白かった!!!一気に読んだ。
会話文が主体で、場面も会議室からほぼ変わらないにもかかわらず、その筆力で読ませてくる。

六人に対する印象が、「こいつらいいやつだ!」「ありえん、最低だ……」「いややっぱり……」ところころ変わる。完全に作者の手のひらの上でころころされている。

それにしても、男性陣の「罪」に対して、女性陣の「罪」があまりにも軽いなと思ったが、実際女で後ろ暗いことって言ったらあれくらいしかないんだろうな。私からしたらあんなの罪でもなんでもないと思うが、男性からしたら罪に見えるのだろうか?

ミステリとしての面白さもあるが、「就活システム」に対する問題提起のような部分もあり、就活という仕組みに完全に挫折した私としては、「わかる……」と深く頷いてしまった。

次々と問題が起こり、展開が変わっていくので、飽き性な私でも楽しく読めた。


『魂手形』/宮部みゆき

【あらすじ】
「変わり百物語」で不思議な話を集めている、三島屋の小旦那・富次郎の元には、今日も人々が訪ねてきて、日本中の不思議な話を語り捨てる。

火消しの力を持つ太鼓の秘密を、苦しい生をまっとうせねばならなかった母親の念を、木賃宿に泊まった客が引き連れていたお化けの話を……。

「三島屋変調百物語」シリーズの第7段。

【感想】
今回はいつもよりお話が短いような気がしたが、さくっと読めたのでよかった。

三島屋シリーズは、読んだ後に心にほんのりと切なさとか、ほの悲しさとかが残るんだけど、その感情が冷たいんじゃなくて温かいんだよね。
温かい悲しさって変かもしれないけど。

人の世のことわりだけでは理解しきれないことがたくさんあっても、それでも人間は生きていかないといけないんだな、生きてるんだな、という気持ちになる。

今回のお話の中で、「一途の念」が1番心に残った。
「三島屋シリーズ」はちょくちょく女であるが故の生きづらさというか宿命みたいなものにフォーカスを当てた話がでてくるけど、「一途の念」もそのひとつだと思う。

体を売らなければいけないうえ、さらに客の子供を産まなきゃいけない、育てなきゃいけない絶望へのひとさじの救い。

それでも最期まで救われなかったお母さんを思うと、喉の奥に苦味がこみあげる。

変わり百物語の聞き手が、おちかから富次郎になったけども、個人的にはおちかが聞き手だった時代の話の方が好きだ。

まだまだこれからの展開がありそうなので楽しみ〜。


『傲慢と善良』/辻村深月

【あらすじ】
西沢架は、同棲中の婚約者・坂庭真実との結婚に踏み切れずにいた。
そんな中、真実が突然失踪する。真実がストーカー被害にあっていたこともあり、警察に相談するも警察は捜査してくれない。

自分で手掛かりを探すために、架は自分と付き合う前の真実の姿を追い始める。


【感想】
最初の方は「ストーカー系のミステリかな?」と思っていたが、全く違う展開になっていったので意表をつかれた。

「婚活」というテーマがストーリーにがっしりと食い込んでいて、予想外だった。
「純金」っていう言い方、きんじょu……と同じだね。

私自身婚活はしていないが、SNSで婚活アカウントを見るのが好きで、「これは大変なことだな」と思いながら見ている。

女性のアカウントはまさしく皆真実のように、「好きになれる(性的な目で見れる)相手」がいないことに悩んでいるように見える。
なので、真実の心理描写とか気持ちとかは、婚活している女性が読んだら結構共感できるのかもしれない。

対して男性アカウントは、架の気持ちには共感できないかも。架はモテてきた人間だが、ほとんどの男性婚活者は、真実のかつてのお見合い相手の2人に近いような気がする。

架は男性婚活者の中でも少数派だったり特殊事例だったりしそうだけど、実際どうなんだろうね。

婚活がうまくいかない人たちの特徴として、「自己肯定感は低いのに、自己愛は強い」ということと、「自分の価値を高く見積もりすぎる」ということが挙げられていたが、SNSで見る婚活に難儀している人たちも、確かにそんな感じがする。

タイトルの「傲慢と善良」について、作中では「傲慢」の象徴と「善良」の象徴がころっと変化する時があるように思ったが、実際傲慢なだけの人も、善良なだけの人もいないのだろう。
ほとんどの人が、傲慢な部分と善良な部分を持ち合わせているから、単純に分けられないよね。

ところで、架の女友達たちめっちゃ嫌な奴らすぎる。
でもこういう「女友達」いるよね〜。
架と付き合いたいわけじゃないし、自分にパートナーもいるけど、でも架の彼女は彼に相応しいかどうかジャッジしないと!私が評価してあげる!っていう嫌な女、何様なんだろうなほんとに。

いや〜な感じの「彼氏の女友達」、全員いなくなって欲しいものです。


『山の霊異記 赤いヤッケの男』/安曇潤平

「山」にまつわるホラー短編集。
「霊異記」と書いて「りょういき」と読むようだ。

登山家で怪談師である著者が、体験したり聞き及んだりしたさまざまな「山の怖い話」たちが盛りだくさん。

これが結構怖い!!ゾッとする。
情景がわかりやすく頭に浮かぶので、「想像できちゃう」という怖さがある。
もう絶対山登りしないぞと思った。

山登りに関する専門用語は調べないといけないが、それ以外はつつがなくぽんぽんと文章がすすんで読みやすい。

個人的に1番怖かったのは「アタックザック」という話。
情景が脳裏にまざまざと浮かんでしまってだめだった。怖すぎた。

ちらっと調べてみたところ、著者が自身の著作の中で最も怖いと思っている3作は「赤いヤッケの男」「ソンデ」「アタックザック」とのことだが、この3作全て『山の霊異記 赤いヤッケの男』に収録されている。
たしかに、3作とも全て印象深くゾワっと恐ろしい話だ。著者選りすぐりの3作をぜひ味わってほしい。

『山の霊異記』はシリーズもののようなので、他のものも読んでみようと思う。


『20代にとって大切な17のこと』/本田健

自己啓発本が好きじゃないのだが、SNSで「よかった」と流れてきたので、なんとなく手に取ってみた。

50代の投資家・作家である著者が、20代の若者に伝えたい17のメッセージ。

読んでみたが、心に響かず。

個人的に、歳をとった人が若者へメッセージってすごい自己満足を感じるんだよね。
生存者バイアスかかってるし、抽象的でふわふわしてるから。

私が歳をとった人から知りたいのって、マインド(あるいは哲学)じゃなくて、仕事において気をつけてることとか、どうやって今の地位についたかとかそういう具体的な方法の話なんだけど、おじさんってマインドの話が好きだよね。

仕事の話は聞きたいけど、「人生」というプライベートなところにまで干渉してほしくない。

マインドの話は同世代で話すのが1番楽しいので……。

若者に色々言いたがるおじさん多いけど、逆に「若者がおじさんに伝えたいメッセージ」の本とかあった方がいいと思う。
文化や価値観の根本的な違いに気づいて欲しいとか、若い女性がにこやかに接するのは仕事だからですよ、とか。

まあそんな本あったところで、どうせおじさんは読まないだろうな笑

やっぱ自己啓発本って苦手だし、そういうの好きで感銘受けてるタイプの人って、あまり自分で考えることをしない人なんだろうなと思う。

人生哲学や意志がないので、ふわっとしたマインドの話でも「そんな発想なかった」とか思うんだろうな〜。

人生哲学なんて、1番自分で考えなきゃいけないところだと思うけどね。
そこさえも他人に「正解」を教えて欲しい人が今は多いんだろうな。


おわり

今月は7冊も読めた。すばらしいね。

来月もこの調子でいきたい。

ここまで読んでくれてありがとう。

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