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【全18問】 YouTubeを活用した反転学習の実践【教育実践】 に寄せられたコメントに対する回答集

2022年12月18日に、広島大学尚志会主催、広島大学教育学部・理学部・文学部共催のオンライン講演『第3回 学びのフォーラム』にて、講演をさせていただきました。

講演タイトルは「動画共有サイト「YouTube」を用いて反転学習の実践報告」と言います。

『個別最適化』を目指して構築した高校物理の授業をまとめています。3年分の教育実践を100分にぎゅっとまとめました。
講演の様子はYouTubeにアップしましたので、ぜひご覧ください。そちらの動画を見た上で、こちらの記事を読んでいただくのが効果的です。

今回の記事では、こちらの講演後で寄せられた質問に答えていきたいと思います。

Q1:すべての項目を反転授業形式で、やられているのでしょうか。優しいところだけとか、逆に難しいところだけとか?

 今はほとんど全ての授業において、反転形式で実践しています。しかし、その『導入部』の授業においては一斉形式にしたり、年度始めは映像授業に慣れるために、反転授業(1つの指定の動画を見てきてから授業に来る)形式を取ったり、組み合わせながら行っています。

Q2:やる気スイッチはYouTubeで上がると思われますか?

 これ、実はちょっと難しいんじゃないかなぁって思いました。僕当初は、『みんな』に合っているスタイルだと考えていたため、自然とやる気を持って学習を進めてくれるだろうと考えてはいましたが…。
 始めのうちはYouTubeで授業を受けてから学校に来る、という目新しいスタイルに順応しようとしますが、動画での理解が難しくなって来ると、自分で映像授業にアクセスできなくなってきます。年度が経つに従って、視聴率は悪くなる…。
 逆に、物理がとても得意・好きだという生徒にとっては、『高校3年分の物理の授業を全て受講できる状態』になっていますので、やる気を持って学習を進められるかもしれません。苦手な子に対しては、対面の場でのファシリテートがやる気の鍵を握って来るでしょう。

Q3:自分のペースで学習できると言われていましたが、定期考査という一定の区切りがあると思うのですが、生徒はそこまでに各自で終わらしてるのでしょうか?

 期限を設けて、そこまでに各自で到達するようには始めに指示をしています。達成できる生徒がほとんどですが、中には全てのコンテンツを期限内に消費できない生徒もいます。難しいところですが、あくまで『自分の理解度』を進むための指標にしたいので、どんどん進むようにはあまり促しません。煮詰まり過ぎている生徒に対しては、『一度最後まで動画を通して見てみると、全体像が分かって理解が進むかもよ?』とアドバイスをすることはあります。
 定期考査を受け終わってもいつでも授業に戻って来られるので、必要になれば生徒はまた動画に戻って来られます。

Q4:CBTによる到達度の確認はmanabaの問題を流用しているとのことですが、授業の内容との整合性は問題になりませんでしたか?期末試験とCBTの内容の整合性も大丈夫でしたか?

 各授業回の内容理解を生徒自身が評価をするため、コンピュータ上で確認テストを実施します。その問題はこちらで設定できるため、あえて動画と同じ問題を出題したり、教科書の応用問題を持ってきたり、こちらでオリジナルの穴埋め問題を設定したりとで、自由に設定ができます。

 期末試験に関しても、確認テストと似たような問題を出題をすることはあります。期末試験も確認テストも、教科書や問題集、こちらで考えた問題を意図的に織り交ぜるため、整合性は高かったと言えます。

Q5:主体性を重視した授業スタイルということで、学力や学習進度に差が開くと思います。そのギャップは定期テストごとに進度を合わせる感じですか?

 定期考査をおよその区切りにして、単元の開始と終わりは同じタイミングにしています。ある程度の期限を設けないと、モチベーションを高く保てないと考えています(例えば、円運動の単元は授業動画が11本あるので、少し余裕を持たせて13回の授業数で終わらせてね、と動画の本数で授業日数を設定することが多いです)。
 ご指摘の通り、生徒間でのギャップは従来の講義型の授業より早く、そして大きく開いていきます。勉強が得意な生徒はそれで良いと思います。むしろ一斉講義の進度に合わせる必要はこれまでもなかったはずです。勉強が苦手な生徒にどれだけ教員のフォローを回し、ギャップを埋めていくか、生徒自身がギャップを埋めようと努力できるように支援をしていけるか、この辺が反転形式の成功の鍵だと考えています。

Q6:コロナ禍をとおして、生徒の学び方も変わってきていると感じています。反転授業を経験した生徒の中には他教科も反転授業形式で受けたいと思う生徒も出てくるのではないかと思いますが、授業方法に関して他の教科との協議、連携等は行われているのでしょうか?

 生徒にある日、面白い指摘をされました。それは、「先生のような反転授業を全部の教科でもやり始めたら、僕たち潰れちゃう」というもので、まさにその通りだと思いました。
 予習の重要性がこれまで以上に重要になってきます。かつ予習段階では、内容理解という次元の高いものを問われていますので、なおさらだと思います。
教科によって反転形式が合うもの、合わないものがあります。最も合う教科は『数学』だという指摘もあります。英語での実践報告もよく見られます。
 他教科との協議、連携はほとんどできていません。まだ現状では、映像授業を用いた反転形式の授業が被る事がないためです。予習として課題を課す授業は他にもあるでしょうが、従来の宿題の枠を超えない範囲であれば問題ないと考えています。しかし、生徒が消化不良を起こしていないか、は注目しなければなりません(映像授業に順応できなかった生徒の一部に、このタイプがいると推測しています)。

Q7:動画によって時間が違うと思いますが、短い動画の方が生徒の視聴率が良いとか悪いとかのデータはありますか?

 データはないですが、3年間映像授業を作って生徒と接してきた身として、『10分を超えたら視聴率が下がる』と感じています。15分を超えると、もう集中力が持ちません。近年は1分以内の動画コンテンツも増えてきている中で、やはり50分間の授業の中で生徒の集中を引きつけ続けるのは難しいのではないでしょうか。
ですので最近リリースしている授業動画は、あえて前半後半を分けるなどして、10分を超えないような工夫もしています。短時間で2本の授業を受けるほうが、達成感も得られそうですからね。

Q8:分析されているのが素晴らしいですね。結果は生徒や、他の先生方にも公表しているのですか?それも教員が学ぶ良い資料だと思います。ぜひ!

 授業アンケートを何度もお願いしているので、生徒には集計結果をフィードバックする事もしていました。他の先生方には、校内研究会にて実際の授業を参観していただき、コメントを頂く機会に恵まれました。
 YouTubeのチャンネルを持っているおかげで、この度の講演の様子を手軽に公開することができました!うちのチャンネル登録者のほとんどが高校生なので、この動画を通して教職の魅力を伝えて行けたらいいな、と思っています。

Q9:音声だけ動画と、先生が登場する動画はどちらが良いでしょうか?

 教員側からすると、2つの考え方があります。近年は授業スライドをPPTやkeynoteを用いて作成する先生も増えました。その作成資料をそのまま動画にすることも可能です。図なども大きく見やすくなるでしょう。先生が登場しないことで、『数式ひとつに集中させる』ことも可能になります。
 しかし、教員はチョーク&トークのプロでもあると考えています。その様子をそのまま撮影して公開するだけでも、効果は高いでしょう。いずれにせよ、多くの動画を出していくには、自らの負担が少ない方を選ぶのが賢明に思われます。
 生徒側からすると、先生が登場する動画の方が好まれます。スライドのみだと刺激が少ない(飽きる)ためです。『映像授業に慣れていない』という生徒も中には居たため、まずは限定公開など、視聴できる範囲を絞って生出演するのも良いです。限定公開であれば、普段の授業の様子を教室の後ろから録画しておいて、復習用として生徒に配布することも考えられますね。これは負担はかなり少ないでしょう。

Q10:動画を同僚に見てもらうなどして、動画に不備があった場合や内容をより良くしたいと考えたときにはどのように対処されていますか。修正→書き出し→アップロードはなかなか大変ですよね。

 これは悩ましいところです。実際に動画を取り直してアップし直して、というのはそれなりに労力が大きいためです。
 現状としては、別途スライドを準備して、動画の冒頭の『補足』として生徒に届ける事が多いですね。それでうまく伝わらなければ、別の動画としてその補足をアップすることもあります。
まさに、↓この動画は、その類でした。

スライドの作り等もクオリティが年々上がって来るため、ゆくゆくは再収録をして届けたいとは考えています。でも時間がすごいかかるのです…
不備はコメント欄を活用するのが良いかと思われます。実際に他の視聴者から指摘をもらうことも可能ですので、そこに返信する形で内容を修正していくことができます。

言い間違いは結構多いので、気づかない部分は指摘してもらえればOK

Q11:動画で学んだことを自分たちでメモを取れますか?プリントを用意しないと聞き流して終わりになってしまいそうですか?

動画見て要点をサラッとメモできる子はレベルが高いです。そういった子は反転形式で大きく成功します。
ほとんどの生徒はプリントを用意しないと、聞き流して終わっているように思われます。一度、授業の中でメモの取り方を指南したこともあります。その際は、『コーネル式ノート』の形式を採用しました。(参考文献として、その実践を多く取り入れさせていただいた、J・バーグマン、アーロン・サムズ先生が活用していたものです。)

メモが取れない、予習として見て来ないという点から、授業内に動画も組み込んだというわけです。しかし、映像授業を完全に授業の外に出すことができれば、授業時間内にやれることはもっと広がります。

Q12:大変おもしろく大事な実践であると思います。一人ひとりをいかすところに魅力を感じました。一人ひとりが「選択」することは生徒たちの他の場面での活動にいかされているようですか?

ありがとうございます!!
もともと受け身な生徒が多い学校である上、この授業実践でも主体性の向上が見込めるところまでは発展できていません。
しかし、反転型完全習得モデルにおいて、反転形式よりも家庭学習の習慣が向上したデータを見るに、反転形式は生徒が自らの学び方を責任をもって決定していく、よいトレーニングの場になっているのかもしれません。『学び方を学ぶ(思考錯誤する)』というのも、この実践の副産物ですからね。

Q13:反転型が生徒にとって難易度が高い点として、自分で学習計画を立てなければならないという点があると思います。(講演中に「自分の学びに責任を持たなければならない」と表現されていた点と思います。)その計画を立てる段階をサポート出来れば、反転型授業への適応性を上げられるのかなと思ったのですが、その方面の検討はされていますか?

 計画の段階でのサポートとしては、『モデルケースを示す』にとどまってしまっています。あとは形成的な評価として、その都度相談して提案する、という関わりを生徒と持つくらいですね。
 ご指摘の通り、いっそ1時間の授業を活用して単元学習の計画を考える、という取り組みを行っても良いのかもしれません。何度か単元の学習を反転で実践して来た段階においては、自らの適応具合に応じて計画を立案することができると思います。クラスメイトの計画と共有してみることで、より良い行動をまねることもできるかもできません。とても有益なご指摘、ありがとうございました。

Q14:学生のレベル別に動画を用意することについて、どう思われますか。

 教員の負担次第では、準備するのは良いことであると考えます。なるべく選択肢を多く与えてあげることが、この実践での教員の重要な役割だからです。全員が同じレベルに到達することを求めていましたが、課題がレベル別に準備してあれば、生徒自身が最終目標まで設定することができます。
 勉強が苦手な生徒へのフォローの仕方が、この実践の課題でした。そんな生徒に対して「自分で選択した行動で成功した」経験を積んでもらうためにも、なるべくレベルの多様なものを準備することは有用です。
 単元における、中学段階までの内容を理解をまとめた授業動画が各単元に一本あれば良かったかもしれません。中学段階の物理でつまづいている生徒は、理科の他科目に比べて多いように感じます。

Q15:反転型授業に慣れてないというご意見がありましたが、中学校などでもこの授業の形式を取り入れた場合についてのお考えなどありますか。

高校段階では演習課題を重んじましたが、例えば中学段階では、生徒実験前の予習として、動画の段階で分からなかった点を確認するための実験教材を設定するなど、単元全体ではなくて『狙いを絞った』反転形式が可能になると思います。高校段階よりも近年はむしろ、中学生の方が動画による授業に順応して行っているのではないか、と感じる場面もあります(『葉一さんの動画を見て勉強していた』という高校生に出会うこともありました)。

「学習規律を身につけていない内は難しい」と当初は考えていましたが、むしろこれは、家庭学習の習慣・在り方を大きく変える取り組みなのかもしれません。

Q16:反転授業によって,先生の実感として,生徒の理解は深まりましたか

これは検証が難しいところではあります。統計的な検定方法を活用して、そうでない集団との有意差を見出すのが一番なのでしょうが、疎くて出来ていません…。
実感としては、やはり元々学力が高かった生徒の躍進は大きいという実感はあります。講演内で登場した『選抜クラス』は他のクラスよりも定期考査の平均点が10点程度高い傾向にありますが、「反転型完全習得モデルを実践した『仕事とエネルギー』の単元の考査では、およそ20点も他クラスよりも平均点が高かった」です。

Q17:基本的な質問ですが、動画の作成はかなり大変だと思います。1本の動画作成にはだいたいどのくらい時間をかけておられますか?

かなりの時間がかかります。
スライド作成は3時間程度。収録で1時間。編集作業で2時間といった感じでしょうか。かなりサクサク作成が進めば、これくらいの時間で作成が可能です。煮詰まったらもっと時間はかかりますが…。
動画をストックしていく時期が一番大変です。なので、教員個々の蓄積に応じた、なるべく動画化しやすい手段を選択することが大切だと感じました。

Q18:複数の教員でチームを組んで、ベーシック担当とかアドバンスト担当とかの教材を作成できると良いのではと思いました。

ご指摘の通りだと思います。教科としての取り組みに昇華できれば、教材作成、動画作成、などと分業することも可能ですね。持続性を持たせるにはそのような工夫は必要です。
教材に関して言えば、動画に2名の教員が出演して、一人が生徒役、一人が教員役になり、対話形式で動画が進んでいくと、視聴者に寄り添った面白い教材になりそうですね。

少し発展させて、生徒が授業形態から選択できるように、『反転形式クラス』『通常講義クラス』と、担当教員・クラスを分けても面白そうです。

長くなりましたが、以上になります。
まだまだ発展の余地を残している実践ですので、またどこかで話をまとめて共有することができれば嬉しいと思います。

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