熱海は、昔のにぎわいを取り戻したのか?~事象と数字から考えてみた~
こんにちは、お金が入るでかねいりです。
先日、仕事の関係で熱海を訪れました。平日にもかかわらず、多くの人であふれ、お店には長蛇の列ができていました。私が社会人になった20年前には、このような光景はなかったと記憶しています。
今日は、熱海がにぎわいを取り戻したのかどうかについて調べてみて考えたことをお伝えできればと思います。
■熱海の観光客数は実際、増えているのか?
実際に熱海を訪れ、多くの人が訪れているということが事象としてわかりましたが、実際、観光客数(数字)は増えているのでしょうか?
そこで、熱海駅の乗客数の推移を調べてみました。
熱海は人口が約3万5000人。観光業がメインで、クルマ社会ということもあり、地元の人が電車を使うことは少ないと仮定して、駅の乗客が観光客数と近い数字になると考えました。
高度経済成長期からバブル経済までの期間は、上昇傾向。
1979年には2300万人が熱海に訪れており、この当時の日本人の5人に1人が訪れていることになります。驚くべき数字です。
バブル崩壊以降は減少傾向が2000年代前半まで続き、その後は横ばいという状態。
2000年以降の推移にフォーカスしてみると、2011年を底に、それ以降はコロナ期間を除けば、上昇傾向となっていることがわかります。
■熱海の状態の変遷
バブル崩壊前の熱海は、どのような状況だったのでしょうか?
その当時の熱海は、新婚旅行の宿泊先にもよく選ばれ、社員旅行や慰安旅行などで団体客がたくさん訪れる場所でした。また、会社の保養所としてのニーズも旺盛でした。
しかし、バブル崩壊となり、多くの企業の業績が悪化。経費削減の一環から社員旅行を行う会社は一気に減り、保養所も売却をする会社が後を絶ちませんでした。その結果、熱海への観光客数は大幅に減少していきました。
2011年に東日本大震災があり、観光客数はさらに減少。
しかしその後は、じわじわと上昇傾向となりました。
これらの傾向をみると、ピーク時の熱海は、まさにバブル状態。その当時まで戻ることを期待することはもちろん難しいですが、その減少傾向を食い止めて、上昇傾向に持っていっているということは、日本の多くの温泉街が衰退の一途の中、特筆すべき点だと考えます。
■なぜ減少傾向に歯止めをかけられたのか?
減少傾向が続いていた熱海。2011年以降に初めて上昇傾向となりましたが、なぜだったのでしょうか?
実は熱海市は、2006年に「財政危機宣言」を発出しています。まさに非常事態。そこで市は、街の復興と観光需要回復に向けた取り組みを強化することを決めます。
そして、2007年には「熱海市観光基本計画」を策定。湯治場「熱海」の復権を目指すとともに、リピーターの育成、地域経済効果を狙う街歩き、市民全員参加の町おこしを掲げ、観光プロモーションも20代や30代の女性にターゲットを当てることを考えました。
そう考えた理由が大きく2つありました。
ひとつは、これまでのイメージの払しょくです。
その当時の熱海のイメージは、過去の社員旅行や慰安旅行に会社で訪れる古い温泉街というもの。
そうしたイメージから熱海に観光で行くということが若い人たちの選択肢になっていなかったのです。
もうひとつはアピール不足ということ。
熱海はもともと観光資源が豊富で、交通のアクセスが良い。東京駅から新幹線で約30分の好立地。金目鯛などの海産物が豊富にあり、駅前の飲食街やお土産屋さんが軒を連ね、日帰り温泉施設も充実しています。
しかし、それらのことが、アピールできていないということが課題でした。
そこで市は、「ADさん、いらっしゃい」という企画を考えました。
これは、市が「旅」・「グルメ」などの情報番組のロケを熱海市地域おこし協力隊さんとともに無料でサポートするというもの。この企画を通して、もともとの熱海の魅力と新しい熱海のイメージを発信していくことを考えたのです。
そしてはじめに成功したのが「熱海プリン」でした。情報番組、グルメ旅番組を通じて、若い人たちに話題が広がり、お店には長蛇の列ができるようになりました。
話題のお店や施設ができる、そしてそれをテレビ番組で紹介される、話題になり観光客が訪れるというサイクルが回るようになったのです。そこに輪をかけたのがSNS。観光に訪れた方々が、インスタやフェイスブックに投稿することでさらに話題が拡がっていくようになりました。
■熱海の本当の課題
2016年には熱海駅がリニューアルし、新たな観光施設ができるなど、さらなる手を打ち、観光客数は上昇し続けています。
V字回復を遂げたように見えますが、実はそうではなかったのです。
どういうことかというと、観光客数は増えているのですが、宿泊者数は増えていないという課題が解決していないのです。
2001年(平成13年)から宿泊者数の推移は、コロナを外せば、300万人でほぼ横ばい。
熱海の宿泊者数のピークは1960年代半ばには530万人。そこに近づくことは難しいですが、市として観光客増の施策は打っているものの、宿泊者数は伸びていません。
ちなみに箱根は、現在宿泊者数が約400万人。熱海に比べると100万人多いことになります。
お気づきの通り、熱海は交通アクセスが良いだけに、日帰り客が多いという実態がありますが、宿泊数が増えることが、熱海が本当ににぎわいを取り戻したと言える状態なのではないでしょうか?
その糸口となる可能性があるのが外国人観光客。温泉街への宿泊ニーズを満たす施策を打ち、アピールすることができるかがカギとなると考えます。
一方で、アクセスの良さを売りに食べ歩きができるお店の質や数を増やたり、イベントやアトラクションなどの開催を増やし、さらに日帰り客、リピート客に特化していくという方向性もあるかもしれません。
今後、熱海がどのような戦略を取っていくのか注目していきたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?