27歳男性恋愛を諦める③

出会い

 社会人4年目になった頃、部署の再編成があり所属部署の業務量がかなり増えた。その中でも僕は部署内トップの業務量を任されることになった。そんなタイミングで部署に初めての女性社員が配属された。入社時の僕なら淡い期待を抱いていたかもしれないが、仕事に追われてそんな余裕はない。その頃の僕は新入社員が出社時には会社を発っており、新入社員が帰宅してから会社に戻ってきていた。もちろん新入社員と話す機会はない。変に話しかけてセクハラ扱いされても面倒だから、このまま話さずにいようとまで思っていた。
 そんな時変な噂が流れた。僕が新入社員を嫌っているというのだ。あまりにも話さなかったため、相手がポロっとこぼしたらしい。さすがに話さなければダメだと思い意識して会話をするようにした。この時はまだ彼女を好きになるとは1ミリたりとも思っていなかった。

彼女について

 男兄弟に囲まれているという彼女は竹を割ったような性格をしていた。周囲からも男っぽいだの、サバサバしているだの言われていた。彼氏はいないという噂があったから恋愛には興味なさそうだなと勝手に思っていた。気が付いたら会社で割と話すようになっていた。変な言い方をすれば女子っぽくない性格が僕にとって楽だったのかもしれない。どっちの手が冷たいとか言って手に触れあったこともある。異性の友達みたいな感じだった。趣味も合ったので彼女の同期の男の子と3人で何度か飲みに行ったこともある。その時はあまり恋愛の話は出なかったし、出したら出したでセクハラ扱いされるのが怖かった。
 彼女は頭がよく、仕事の飲み込みも早かった。しっかりとした性格だが人当たりも良く、周囲の人やお客さんからも好かれていた。普段の僕なら後輩に負けないように頑張らないといけないとなるが、彼女の働く姿勢にはただただ、感心と尊敬しかなかった。

よくわからない感情

 12月の終わり頃、僕、後輩、彼女、彼女の同期で飲む機会があった。後輩と彼女の同期は方向が同じなのでタクシーで帰っていった。僕と彼女は駅に向かって歩いていた。僕が寒いな~、と言って手をヒラヒラさせていると彼女が手を握ってきた。一瞬ドキドキしたが、おふざけだと思い、笑いあっていた。彼女は一人暮らしを始めて日が浅く、寂しさがあるというのでその場のノリで電話をしようか、と伝えた。彼女は快諾してくれた。帰宅して冷静になるとかなりマズい発言だと思ったが言ってしまった手前、後には引けないので彼女にLINEで確認してから電話をすることにした。眠いならすぐに切ってくれと伝えたけど、3時間ほど電話をしてしまった。彼女とは考え方や価値観が似ていること、共通の趣味があることなどを知れて嬉しくなった。彼女も僕と同じで今まで交際経験がないと打ち明けてくれた。かなり意外だった。タイミングがなかったみたいなことを言われたが、深くは突っ込まなかった。年が明けたら美術館に行く提案も冗談交じりにした。まだ好きになってはいけない、ということを思っていた。
 1度長電話をしてしまうと、その後は電話をするという行為に抵抗はなくなり距離感が確実に縮まっているような気がした。彼女との電話は楽しかった。ふと、彼女から1人暮らしの寂しさは慣れるしかないのか、という相談を受けた。僕は慣れるか話し相手を作るかのどっちか、と適当に答えた。彼女は僕に対して「相手お願いしますね」と返した。すぐに友人に相談した。「たぶん好意を持たれてる」という友人からの言葉は心強かったが、この歳まで交際経験がない僕は彼女の考えがよく分からないでいた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?