![草笛双伍d](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/7310571/rectangle_large_type_2_e1ae4d1390108b250006ba91b4bdf75c.jpg?width=1200)
草笛双伍 捕り物控え一 余談
<天魔衆>は各地に散らばり、盗賊として
暴れていると、長谷川平蔵以下、与力同心は
風の噂できいた。勿論、双伍の耳にも入っている。
妖刀<鬼神丸>で辻斬りに身を落とした
加藤祥三郎は双伍の十手で、両手首を砕かれ、
二度と刀の持てない体になった。
その上、加藤家は、次男の罪により、
当分の間は江戸城への立ち入りを禁じられた。
仇討ちで両親を亡くしたお紺は、
大店である反物問屋、方月屋に養女として
引き取られ、幸せに暮らしているという。
鬼平暗殺の謀はかりごとに、はめられた双伍は、
後悔と長谷川平蔵長官への感謝を抱いて、
その恩返しを心を新たにした。
そして<風魔>の襲来。
これほどの災いは江戸幕府を震撼させた。
明智左門筆頭与力をはじめ、多くの与力同心が
重傷を負った。そのこともあってか、
幕府はさらに忍びに対する警戒を強めたのである。
だが、数人の<風魔>の忍びは逃げおおせた。
その行方はわからぬままである。
逐電した<風魔>の中には、忍びの長といわれる、
十四郎の名もあった。
双伍は実弟・幻也の亡骸を、成田山深川不動尊の寺社の
片隅に葬むった。江戸の世を騒がし、数え切れない犠牲者を出した、
<風魔>の頭目、幻也は、戒名も記されず、板塔婆さえ立てられる
ことを禁じられた。
だが、双伍は幻也の眠る、小さな小山に、
我が身に刺さった、クナイ数本を添えた。
双伍は重傷を負ったが、ひと月もせずに、
番屋に顔を出した。下っ引きの弥助をはじめ、
八丁堀の与力同心たちも、手放しで喜んだ。
そして、さまざまな悲しみ、そして喜びを背負い、
今日も双伍は紫の着物を羽織り、漆黒の腰帯に
2尺余りの長大な十手を2本を差して、
江戸の町に繰り出していく・・・。
双伍はいつものように懐から一枚の葉を取り出す。
その葉を口に含み、軽やかな音色を奏でた。
その音色は、江戸の町に溶け込んでいた―――。
草笛双伍 捕り物控え一 完
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