マガジンのカバー画像

名無しの島

38
フリーのルポライター、水落圭介はある出版社から、 ある島に取材に行ったきり、 行方不明になった記者を見つけてほしいという依頼を受ける。その記者は古い友人でもあった圭介は、 その依…
運営しているクリエイター

#サバイバル

名無しの島 第1章 発端

名無しの島 第1章 発端

東京都千代田区一番町の通りに面する、8階建ての雑居ビルの

3階と4階のフロアにある出版社、草案社。

築40年を越える古びた雑居ビルだが、

出版社や編集プロダクションの集まる

千代田区では、ごくありふれた建物だ。

その草案社が出版している、月刊ミスト編集部に水落圭介は呼ばれた。

水落圭介は現在30歳で、フリーのルポライターを5年やっている。

都内の私立大学文学部を卒業した後、

ある大

もっとみる
名無しの島 第2章 同行者

名無しの島 第2章 同行者

 水落圭介はさらに、資料に目を通していった。

それによると、その島は地元の人でも怖れて近づかない、

無人島らしかった。

地元民が怖れる理由は、その島では、たびたび兵士の亡霊が姿が目撃され、

その姿を見た者の中には、

生きて帰って来なかった者もいるということらしい。

その島には名前もついておらず、

古来から『名無しの島』と呼ばれているという。

兵士の亡霊か・・・古臭いネタだな。

もっとみる
名無しの島 第3章 冒険者井沢悠斗

名無しの島 第3章 冒険者井沢悠斗

草案社を辞去した水落圭介は、東京都目黒区にある、

自宅マンションに帰った。

20平米ほどのワンルームで、事務所兼書斎兼居間でもある。

一人暮らし用の小さなキッチン、ユニットバス、

東側の壁にはクローゼットがある。

仕事用のデスクには、21インチモニターとデスクトップパソコン。

南側には小さなベランダに続く大きな窓。

その窓際にはシングルの簡素なパイプベッドが置かれている。

フローリ

もっとみる
名無しの島 第4章 出発

名無しの島 第4章 出発

 翌日、水落圭介は『名無しの島』へ行く準備を始めた。

部屋のクローゼットから、愛用の登山用大型リュックを取り出す。

中には食料品、飲料水以外は以前、

屋久島に取材に行ったときのままにしていた。

スェーデンのモーラ社製のナイフ。刃渡り20センチ、

厚みは3ミリ以上ある

丈夫で、切れ味のいいものだ。これで薪さえ切れる。

それとスイス製のアーミーナイフ。

缶切りや爪やすりなどがついたキャ

もっとみる
名無しの島 第5章 長崎県最南端枕崎市へ

名無しの島 第5章 長崎県最南端枕崎市へ

 鹿児島県枕崎市の漁港は、枕崎市自体の人口こそ少ないが、

南部に東シナ海を臨み、カツオの水揚げが

全国有数規模の枕崎漁港を持つ。

雲ひとつ無い晴天ともあって、潮風もすがすがしい。

目前には、かすかな白波を立て凪いでいる、

コバルトブルーの美しい海が広がっている。

その風景に、5人は旅の疲れが癒されたような気分だった。

水落圭介は事前に連絡を入れておいた、

漁業組合のある建物に向かっ

もっとみる
名無しの島 第6章 船上の人

名無しの島 第6章 船上の人

 枕崎漁港の界隈には、ホテル・旅館などの宿泊施設が

わずか3軒しかなかった。

その中で飛び込みに宿泊可能だったのは、『葉山旅館』だけだった。

水落圭介、井沢悠斗、小手川浩の男性グループと、

有田真由美、斐伊川紗枝の女性グループとに分かれて、

それぞれ相部屋をとった。夕食は旅館が出した料理で済ませた。

そして男性グループの部屋に5人は集まり、

明日の行動を再確認することにした。

 8

もっとみる
名無しの島 第7章 垂れ込める暗雲

名無しの島 第7章 垂れ込める暗雲

 所沢宗一の漁船『はやぶさ丸は』白波を掻き分けながら、

順調に進んだ。カツオ漁に使われている船とはいえ、

所沢宗一の船は大型ではない。

そのためか、時おり大きく上下に浮き沈みした。

水落圭介と井沢悠斗はリュックを降ろして、

船の後部にあぐらをかいて座っていた。

枕崎漁港は次第に小さくなり、そして視界から消えた。

有田真由美と斐伊川紗枝は、操舵室の側面にいた。

真由美は操舵室にもたれ

もっとみる
名無しの島 第8章 上陸

名無しの島 第8章 上陸

「さっきまで、いい天気だったのに~」

斐伊川紗枝のぼやく声が聞こえた。

 まだ、ピクニック気分なのか。水落圭介は苦笑した。

こっちは天候を理由に、港に引き返すと所沢宗一が言いかねないと思い、

内心ひやひやしているというのに。

次第に島の全体が見えてきた。幅500メートルほどの

こじんまりした海岸が見える。さして奥行きはないが、

きめ細かい粒の砂浜だ。漁師からも怖れられている、

『名

もっとみる