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ポラリスが降り注ぐ夜

この間、書店でタイトルに惹かれて購入した作品です。
僕が本を買うときの選びかたはもう、そのような直感と言えるもので判断してしまう形となっています。

そして、買った後に気づいたんですが、この方は「彼岸花が咲く島」を書いている方だったんですね。
この作品は僕の好きなYouTuberの方がお薦めしていたので、購入した作品でした。芥川賞受賞作品でしたが、この作品もとても面白かったです。
この作品のような
「現世と異なる世界観を構築しながら、その世界での不条理と立ち向かっていく」といった二層構造の作品すごく好きなので、読んでいてとても楽しい時間でした。
近しい作品だと多和田葉子さんの『献灯使』などが僕がこれまで読んだものだと挙げられます。


今回読んだ『ポラリスが降り注ぐ夜』のお話に戻ります。
新宿2丁目のレズビアンバー「ポラリス」を舞台としたオムニバス小説になっています。
エピソードごとの主人公はそれぞれが自らのアイデンティティについて悩みを抱えています。
あるときは二丁目を訪れるレズビアンの方、また別の物語ではアセクシャルを自認しはじめた女性、ある時はバー「ポラリス」のオーナーといった形で、物語が紡がれていきます。

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僕は近年のジェンダーに伴う様々な意見に対して、自分なりの答えを出すことができずに苦しんでいます。

「同性愛者は子供が産めない」ことを非生産的、と発言して炎上した政治家がいましたが、
この人の発言で叩かれるべきところは
「同性愛者の存在を認めない」ところではなく
「社会に生きる人々を『子供を産んで社会生活を回す歯車』のように無意識に捉えている」こと、
その人間性が露呈したことこそが問題ではないかと僕は感じていて。

社会の一部としての生き方と
自分の性自認をどのように折り合いを付けるのか、
僕のようなマジョリティこそが考えなければ社会は動かないと思うのですが、とても難しさを感じています。


この作品は「性」の「マイノリティ」についての話が軸となっています。
改めてですが僕自身は男性で、性愛感情を抱くのは女性という、マジョリティ側に位置していています。
同性愛者(レズ・ゲイ)の苦しみ、ノンセクシャル・アセクシャルの苦しみ、トランスジェンダーの苦しみはそれぞれがもちろん違っているはずなのに、知識にない頃の僕はそれらをまとめて認識の外に置いていました。
いかに無責任で非情だったのか、非常に恥じています。


ですがこの本を読んで、「生きている皆が何かしらのマイノリティである」ということを強く痛感しました。
登場人物が抱えるマイノリティの苦しみは「性」というテーマに統一されており、僕はそれとは違う立場にいますが、
自分が少数派だと感じさせられる瞬間のことを思うと、とても訴えられるものがありました。

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例えば「新卒で入社した会社で働き続け、管理職となり、退職していく」
といった昭和の時代に生まれた働き方を定番とし、その道から逸れてしまう、と言った働き方について。この考え方を引きちぎって僕は来月から2社目の会社で働くことになりました。

「女性と交際し、結婚し、子供を育てる」が定番の流れとなっている。
僕はまだこの定番の考え方を受け入れるだけの心の器を持っていない。

これらを一概に「正しい」「目指すべき姿」といった風潮に待ったをかける動きも出てきています。
一方で定番となっている動きに疑問を投げかける言論も最近は多く見られます。意見は好きに発したらいいし、そのために動くことは素晴らしいことだと思います。
たまに「それが定番だから」という理由で壊そうとする人たちがいるのを散見していて、それはとても良くないことだなと思うくらいです。誰かに影響されて道を外れることが、良い影響だったことなんてないはずだから。


僕自身はまだ何も変えることはできない小人ですが、
この本を読んで、普通とか常識、もっと世俗的に言うと定番、
そういうものに対して漫然と抱いていた恐怖や失望を、
もっと細かく分解していかないといけない、と感じました。

僕自身が抱えている問題の何がネックとなっているのか、
そしてそれは僕が何をどのように頑張ることで解決に結びついていくのか。この本にもあったし、他にも散々言われてきていることだけれど
「過去と周りの人は変えられない」からこそ、
自分の中で課題を定義して解決していくことが大事なんだろうな、とより一層思いました。


最後に僕がとても刺さった一言を紹介しておきます。

『完全さという幻想に縛られず、過去にも囚われず、未来にも怯えず、ただ互いを見つめながら今現在を噛み締める、そんな関係』
ある登場人物が恋人と「どうありたいか」について話した発言ですが、
とても美しくて心に刺さりました。
僕はこの考え方を夢や理想とは思えなくて、本当に恋人とこんな関係になりたいと思うのです。

「完全さ」は僕や恋人、他の誰かが決めたものであって、
それは100%不完全だから、そのような呪縛からは逃れなければいけない。
その中で過去や未来ではなく、今その瞬間だけを見つめる。
もちろんできないことばかりだと思うけれど、それが今の僕の目標です。



恋人いないのに何言ってんだよ、って話ですが。

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