見出し画像

言葉の蛇口〜たとえ話〜どの軍隊にも負けない武器

 ある国の王が、家臣にこう命じた。
「どの軍隊にも負けない武器を調達せよ。どんな矢よりも速く飛ぶもの。どんな盾でも射抜くもの。どんな野火よりも広く焼き尽くすもの。どんな毒よりも苦しめるものを!」
 家臣たちは、国中を周り、王の要求に応える力をもつ職人を探し求めた。
 しかし、優れた職人たちでさえ、それがどんな武器なのか、何を作ればよいのか、検討もつかなかった。
 家臣たちは、王のもとにひれ伏して尋ねた。
「王様が求めておられる武器がどのようなものか私たちには分かりません。職人たちも困り果てております。王様はどのような武器をお考えなのでしょうか。」
王は答えた。
「私にも分からない。亡くなった父からの手紙に書かれていたのだ。どこかの国が、あのような武器をもっているのだとしたら、私たちの国に勝ち目はない。お前たちには国中を回って探してもらいたいのだ。隣国にも人を送ってくれ。」
 家臣たちは、国中に人を送った。隣国にも人を送り、王の言う、恐ろしい武器を探させた。しかし、それらしいものは見つからなかった。
 一人の家臣が、長老の元を訪れてこの武器について知らないかと尋ねてみた。
 彼は驚くべきことを言った。
「その武器についてはよく知っている。王様もすでに持っているものだ。お前たちには、それが分からないのか。」
 家臣は尋ねた。
「どこにあるのです。王宮の中でしょうか。武器庫にはそのようなものはございません。あなたはその武器をご覧になったことがあるのですか。」
 長老は答えた。
「見たことはない。触れたこともない。でも、王はそれをもっておられる。私もそれをもっているし、お前もそれをもっている。」
 家臣は困惑して言った。
「何のことを話しているのですか。私にはまったく思い当たりません。」
 長老は、深くためいきをついてから、こう言った。
「この武器について王も家臣であるお前たちも分からないとは、なんとも頼りないことだ。そのようなことではこの国を守ることはできないだろう。先代の王が書き残した武器というのは、言葉のことだ。私たちの話す言葉は、どんな矢よりも速く飛び、どんな盾でも射抜くものだ。どんな野火よりも広く焼き尽くすものであり、どんな毒よりも苦しめるものだ。しかし、その言葉はどんな薬よりも人を癒やし、どのような花よりも人を慰める。どんな清水よりも身体にしみわたり、どのようなぶどう酒よりも人の心を喜ばせる。言葉を操れない者は滅びに至る。今すぐ、王のもとへ戻り、私が話したことを伝えてきなさい。王の言葉は、この国を守り、国民を支えるものでなければならないのだから。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?