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神様に会いにいく vol.19 豊玉姫命(大歳神社)

※この記事は2017年2月に書いたものです。

前回vol.18では、山幸彦の息子ウガヤフキアエズ尊に会いにいきましたが、今回は山幸彦の妻でウガヤフキアエズの母、豊玉姫(トヨタマヒメ)に会いにいくことにしました。

兄の釣り針を探しにきた山幸彦に一目ぼれした海神の娘・トヨタマヒメ。2柱は結婚し、トヨタマヒメのお腹には子が宿りました。高貴な血筋の子を海の中で産むわけにはいかないと地上で出産することにしたトヨタマヒメでしたが、出産のときには本来の姿に戻ってしまうから決してのぞかないでと山幸彦に告げて産屋にこもったのでした。

…まあ、のぞくなって言われたら、のぞくよね。おっとり天然の山幸彦様だもんね。

トヨタマヒメは大きなサメの姿になって無事に子を出産たのですが、その姿を夫に見られたことを嘆いて、子を置いて海の中に帰ってしまい、二度とふたりは会うことはできなくなりました。

…どうして人は、見るなと言われたらよけいに見たくなるのでしょうね。

見るなと言われたのに見てしまって取りかえしのつかない結果になる物語は、いろいろなパターンを変えて無数にある。子どものころ、わたしはそういう物語を読んでは、「ダメって言われたのに、何で約束を破るんだろう。馬鹿だなあ~」と思っていた。機を織っている姿も、玉手箱の中身も、もう二度と会えなくなったり、おじいさんになってしまう危険を冒してまで見る価値のあるものではない。全然見合わない。

でも、大人になった今、ちょっとくらいいいよね、と誘惑に負けた登場人物たちの気持ちがよくわかる。子どものときのわたしは、たぶん、約束を破ったら大変なことが起こると本気で信じていたのだと思う。だから、約束を破りたいと思わなかった。だけど、今は、大変なことが起こるということを心から信じることができなくなったように思う。大人になるまでの間に、約束を破っても大変なことは何も起こらなかった経験を何度も積んでしまっているからだ。前回何とかなったんだから、今度もまた何とかなる。そんなふうに思って、約束を軽んじてしまうのだろう。よくないな。

さて、やってきたのは京都府向日市。京都駅から南西方向に電車で10分ほどの場所にある、日本で3番目に小さな市。

かつて、ここには長岡京がありました。奈良の平城京から遷都され、たった10年間だけここが都となり、それから平安京に移されたわけです。こんなに近くだけど都の引っ越しは大変だっただろうなあ…。(※長岡京のあった場所はお隣の長岡京市と向日市の両方にまたがっています)

バス待ち時間にバス停のとこにいたゆるキャラをパシャリ。

向日市激辛商店街のキャラクター「カラッキー」だそうです。

目指すは大歳(おおとし)神社。JR向日町駅から阪急バスで20分。灰方という町で降りて徒歩5分。

すんなり来れたので、ドヤ顔。初めての町でも、スマートフォンさえあれば無敵です。道順だけじゃなく、何番のバスに乗ればいいのかまでわかってしまう。

会いたい神様がどの神社に祀られているかもネットで調べることができるし、その神社の行き方もパソコンで全部調べることができる。家にいながら神社の写真も見ることができる。

でも、そんな時代だからこそ、実際に行ってみることが大事だなと、取材のたびに痛感する。「知る」ことと「感じる」ことは別物だ。「知る」だけでは感じることはできなくて、知った上で五感を使わないと自分の中に本当には入ってこない。

鳥居をくぐると、どっしりとした造りの社。お寺のよう。

苔むした狛犬がとても味わい深かった。年季が入っているのだろうか。ちなみに神社の創建は718年。ずいぶん古い。

本殿。

祀られている神様は、

大歳大神
石作神
豊玉姫命

大歳大神は、スサノオ尊と神大市比売(カムオオイチヒメ)の間に生まれた息子。カムオオイチヒメはスサノオがクシナダヒメの次に結婚した妻。
…え、次の妻?
まあいいや。ここでは深く突っ込まず、いずれまた。

石作神は代々石棺などを製作する豪族の祖神だそうです。

そして、今回会いにきた豊玉姫。豊玉姫は安産の神として信仰されているそうです。うーん、確かに、安産は安産だったのだろう。だけど、愛する人に見られたくない姿を見られて、子を置いて別れなくちゃいけないなんて、とても切ない。

山幸彦と豊玉姫の物語は、黄泉の国にイザナミを迎えにいったイザナギのエピソードとよく似ている。約束をやぶってイザナミの変わり果てた姿を見てしまったイザナギは、永遠に愛するイザナミと別れてしまった。

二回も同じ失敗を描いて、日本神話は何を伝えようとしているのだろう。

イザナミと別れた後にイザナギがアマテラスやスサノオをのような重要な神様を生んだり、豊玉姫の残した子が天皇の系譜につながっていったりする様子を見ていると、この物語は約束を破ってはいけないという教訓ではなく、取り返しのつかないことが起こったあとも人生は続いていくということを描いているのかもしれない、と思った。

本殿の横には無人おみくじが置いてありました。おみくじの棒は取り出せなくて、その場で数字を見て、額縁の中の言葉と見比べるのです。

ガラガラガラ、えいっ。

七番!

吉 真心をこころに決めて願ひなば神もうべしと力そへなん

なんと! それは嬉しい!
今月末の長編の締切、どうか間に合いますように。神様お力お貸しください…。

大歳(おおとし)神社
京都市西京区大原野灰方575
JR「向日町」駅から阪急バス66系統で「灰方」下車 徒歩5分
075-951-1025
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京都在住の小説家です。医学博士(京都大学)です。理系ライターもやっています。 お仕事や活動履歴などはHPにあります。 https://kanchikuizumi.amebaownd.com/

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古事記の神様の物語をひもときながら、京都の神社をめぐるエッセイです。※2016年から約1年間ウェブマガジンKosmagで連載していたエッセイの再掲載です。

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