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【連載小説】ちょうどよいふたり

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日本リフレクソロジスト認定機構会報誌「Holos」で連載中の連作短編小説です。1年に3話更新されます。作中の人物も4カ月ごとに成長していきます。
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#小説

第1話 ぜんざいと風花 |2013年1月

 サービスエリアにありがちなファミリー向けのレストランで、大味の甘ったるいぜんざいをすす…

寒竹泉美
7年前
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第2話 唐揚げと人生 |2013年5月

 ほら、地縛霊がいる、と幸彦に言ったのは、最近予備校で言葉を交わすようになった佐々木と…

寒竹泉美
7年前
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第3話 お弁当とリフレクソロジー|2013年9月

 ようやく日常が戻ってきた、と思いながら幸彦は予備校の教室の中を見回した。昼時は休憩室…

寒竹泉美
7年前
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第4話 ハーブティーと告白|2014年1月

 窓際で自習していた幸彦がノートから顔を上げると、甲本さんが目の前にいた。 「今回は雪…

寒竹泉美
6年前
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第15話 ペンギンの巣立ちと山盛りご飯|2017年8月

 幸彦は泣いていた。ずいぶん久しぶりだったのですっかり忘れていたけれど、泣くというのは全…

寒竹泉美
6年前
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第17話 開拓とハンバーグ|2018年5月

 駅から少し離れたところにあるマンションの小さな一室が、果穂の運営するリフレクソロジーの…

寒竹泉美
6年前
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第18話 午後三時の本屋とキャロットケーキ|2018年10月

 平日の午後三時。書店には幸彦が思っていたよりもずっとたくさんの人がいた。  よく考えたら、幸彦は今まであまり書店を真面目に観察したことがなかった。漫画の新刊が出たときに立ち寄ることもあるが、どこででも売っているメジャーな作品なので、たいてい入り口近くで手に入る。一年前は就職関係の参考書を選びに来たこともあった。が、それ以来、訪問していない。出版社に就職したのに、本屋に行く暇がないなんて、なんだか本末転倒な感じがした。  就職してからは、毎日があまりにも目まぐるしく、あ

第19話 商売繁盛とパイナップルケーキ |2018年11月

 十一月。幸彦たちを載せた飛行機は、台湾の桃園空港に降り立った。旅行の話が出たのは五月だ…

寒竹泉美
5年前
12

第22話 赤ん坊と日替わり定食|2020年1月

 こんなにも頼りない生き物が育って人間になるなんて、幸彦には信じられなかった。生まれて初…

寒竹泉美
4年前
9

第23話 ひさしぶりの休日とバーベキュー(再び)| 2020年5月

 その家には呼び鈴がなかった。少し後戻りして小さな門のところまで戻っても、インターホンの…

寒竹泉美
3年前
7

第24話 写真展と赤門ラーメン |2020年10月

 その写真を最初に見たのは、果穂が十九歳のときだった。  浪人生として家と予備校を往復…

寒竹泉美
3年前
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第25話 缶ビールとユーチューバー|2020年12月

 幸彦はコタツのテーブルに並べたものを念入りに点検した。ノートパソコン、ポテトチップス、…

寒竹泉美
3年前
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第26話 弁当二人分と山登り|2021年5月

 あの、と室田剛は意を決して発声した。 「箸、二本つけてもらえますか?」 「えっ?」  …

寒竹泉美
2年前
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第27話 あんころ餅と母の名言|2021年9月

 乳児の一挙一動は、見る人の心をなごませる。もうすぐ二歳になる繋(つなぐ)は、公園中の視線を集めて、小さな体であやういバランスで歩いていた。よちよちという擬態語がぴったりだったが、よちよち歩きではあっても、その動きは活発だ。草の前にしゃがみこんだり、立ち上がって歩き出したり。少しでも目を離すとどこかへ行ってしまいそうだ。 (幸彦と全然違う)  と、真紀は思った。真紀の人生で始めに出会った赤ん坊は、妹の果穂だった。自分の子が生まれたときには、同じ赤ん坊でも全然違うと思ったが