『くちびるリビドー』第18話/3.まだ見ぬ景色の匂いを運ぶ風(6)
夕日を見た、久々に。本物の太陽が本物の海へと呑み込まれていく瞬間を。
語り続ける私たちに「時間」なんてものは存在しなかったけれど、高く晴れ渡った空に真っ白な光を放っていた昼の神は、西に傾くほど巨大化し赤みを帯びながら、確実に私たちの頭上を移動し続けていた。
そして、それを待ち構えるこの海の何者にも媚びることのない厳しさと激しさを前にしていると、嘘の言葉なんて口にするより先に風に吹かれて消えてしまう。沈黙さえ、岩に打ちつける波の音が(それは砂浜に寄せては返す平穏な波音とは