ある日、穴を見つけた

底の見えないほど、深い、深い穴だった

私は気になって、それをじいっと見つめる

その穴に、何故か見惚れてしまった

「ああ、きっとこの穴に入れば

私は満たされる」

思わず、私は穴に飛び込んだ


案外すぐに底に着き、尻餅をつく

ズボンについた土をはらい、周りを見渡すと

そこには一面の花畑が広がっていた

私は夢中になって歩き回り、花を摘んだ

ああ、ここは素晴らしいところだ

すべては私のためにある

私のためだけの世界なのだ

もう大丈夫、ここは私を受け入れてくれる

だから

「ねえ」

振り向くと、そこに一人の少年が立っていた

少年は「どうしてここに来たの」と言った

「ただ来てみたかったの、見てみたかったの」と私は言う。

「そうかい ああ、なんと愚かな」

「ここは素晴らしいところさ、何も知らなければね」

「でも、君はもう戻れない、永遠に」

少年が指を鳴らしたその瞬間

花は一瞬にして枯れ果て、闇が視界を覆う

摘んだ花はどろりと溶けて手にまとわりつく

ああ、ここはこんなに暗かったのか

足が重い 立ち上がれない

地べたを這いずり、穴を目指す

戻らなければ、と


ふと、頭によぎった少年の言葉

知らないふりをすれば、幸せでいられるかもしれない

目を瞑り、耳を閉ざし、何もかも無視して、

ここにいたい

まだ、ここに

ここに


ふと、穴から光が漏れる

縄の軋む音が少しずつ大きくなる

誰かが来たようだった

ランプを持った彼は、じっと私を見つめている

明るすぎて、目がちかちかする

「帰ろう」と手を引かれる

「もう無理なの、もう戻れないわ

私は罪を犯してしまったのよ

穢れてしまったのよ」

「まだ戻れるよ 今なら大丈夫 さぁ早く!」

無理やり手を引かれ、梯子を登る

何時間経っただろう、穴から出て、空を見上げる

ああ、

空は、青いなぁ

私は歩き出した

「かえろう」