鍵
夜。
一人で夜道を歩いていた。
ぽつんと立つ電灯が
私の頬を照らしていた。
道の向こうから音がする。
ぺたぺたという音が、私の前で止まる。
それはじいっと私を見つめて
私に触れた。
不思議と怖さは感じなかった。
8月の夜は蒸し暑くて、
その冷たい感触が心地よかった。
それは私が自分を怖がらないのが嬉しかったのか
ぺた、ぺたとはねた。
それは私に何かを渡して
またぺたぺたと去っていった。
それは小さな小さな鍵。
私が無くしたテーブルの引き出しの鍵。
随分前になくして、
探してもどこにも無かったから、
見つかったのが嬉しくて、
去っていくそれに手を振って、
帰った。
久しぶりに引き出しを開けた。
小学生の頃のままの中身。
そこに、見覚えのない手紙があった。
ただ拙い字で「ありがとう」とだけ書かれていた。
私は泣いた。