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想定外

 夕飯は昨日の残りのカレーにしようかな、飽きたけど食べちゃわないとだしなあ…なんて思っていた日、施術を受けに来た友だちが、近所のパン屋さんでその日に焼いたという、まんまるくてみっちり詰まった美味しそうなフランスパンを買ってきてくれた。

「今日はそのまま食べて、明日以降は焼くか蒸すかするといいって」 

 と、教えてもらい、これは絶対に美味しいパンだから、せっかくならそのままを味わえる今日のうちにたくさん食べたい!と、思い、残りのカレーは次の日に回して、夕飯をパンが主役のメニューにすることにした。(といっても、フルーツとチーズを切って、あとはオリーブオイルで新玉ねぎと家にあった野菜を炒めたくらいだけれど。)

 そんなシンプルなおかず(?)でも、その日焼きたてのパンにはやっぱりパワーがあるから十分で、なんならオリーブオイルと塩かバルサミコ、バターだけでも美味しくて手がとまらなくなるくらいで、久しぶりにワインまで飲んでしまった。予定外の贅沢な夕飯だった。

(そして、次の日は米が食べたくて仕方なくなった。どんなに美味しくても、パンや小麦製品を大量に食べるとこうなる。私の体は日本人なんだなあとおかしくなる。)

 こんなふうに、頭で決めていた流れを変えてくれるものが飛び込んでくるのはいいな、と思う。もちろん、それはいつも焼きたてのパンみたいに素敵な形でやってくるわけじゃないから、いつでもすぐによろこべるわけではなくて、不都合で困るなあと思ったり、ショックだったりすることもあるけれど。

 それでも、思いがけない急な誘いや、突然の雨、逃した飛行機、飼う気なんてなかったのに家にやってきた猫、そういう「想定外」のものたちは、私ひとりの頭の中だけで勝手に「こうなるだろう」と考えていた展開をいとも簡単に覆して、想像していなかったところに連れていってくれる。それは、小さな魔法みたいに。

 受け取らないで、計画したとおりに進めていくことができる時もある。思いがけない誘いを断ることもできるし、やってきた猫を誰か譲ることもできる。パンには一晩待ってもらって、予定通りに残りのカレーを食べることも選べる。人生は自由だし、その時のその人にとってベストな選択は、本人にしかわからない。

 昔は頭で思っていたとおりの方が安心すると思っていたけれど、最近は、できるかぎり、「想定外」を楽しんでいけたらいきたいと思う。人生は、自由だから。それが焼きたてのパンみたいに素敵なものでも、そうでなかったとしても、人生がもたらしてくれるサプライズを魔法に変えて、見るつもりのなかった景色を楽しみながら、わくわくして生きていきたい。そんなふうにしなやかにいられたらいいな、と、思う。

 つまりは、夕飯のメニューの変更を必要とするような美味しいもののプレゼントはいつでも大歓迎です。

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