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vol.4-2 『クララとお日さま』

ー人間とは何かー



科学技術の急速な発展により、人工知能(AI)が人々の生活に欠かせない存在になりつつある。



人間が担っている仕事の半分が、AIにとって代わるとも言われている。



人間はAIと共存していくのか、競争していくのか。



どんな世界が待っているのか。




カズオ・イシグロ氏の最新作『クララとお日様』(2021) (早川書房) を通して、「人間とは何か」について考察する。


あらすじ (本著より抜粋)

人工知能を搭載したロボットのクララは、病弱の少女ジョジーと出会い、やがて二人は友情を育んでゆく。
生きることの意味を問う感動作。愛とは、知性とは、家族とは?




前回は、①「人間」と「AF」を軸に考察を行った。





今回は、②「感情」と「知性」の対比に着目した。




※以下ネタバレ注意※








②「感情」と「知性」


人間と人工ロボットの対比が横軸ならば、感情と知性はこの物語の縦軸になっている。


前回も述べたように、この物語の主人公である人工ロボットの「クララ」は非常に人間的である。



そう思わせる要因は、クララが人間の「感情」を読み取り学習することができる点からきていると考える。




人工ロボットである「クララ」は観察力に優れており、ジョジーと出会う前から人間の行動や表情をよく観察し、感情を読み取った上で行動を判断する練習をしていた。



「感情」と言う人間特有だと思われていた部分に、クララは非常に敏感であり、クララ自身も「感情」を持っているかのように思える。




クララの周りにいた人間たちは、嫉妬や愛など様々な感情を抱えていたが、特に「孤独」という感情を、人工ロボットと共存することで埋めようとしていた。



例えば、ジョジーの母親。最初からなんか怪しいな、と思っていたが、ジョジーの母親は彼女の孤独を埋める道具として、終始クララを人工ロボットして扱い続けていた。

「さてと、クララ、ジョジーはここにいないわけだし、あなたがジョジーになってくれない?ちょっとだけ。どうせここにいるんだし」(p.150)



また、クララが「孤独」について言及していた台詞が印象的だった。

「はい。つい最近まで、人間は孤独になるような選択はできないと思っていましたので。」(p.221)


この台詞から、人間が人工ロボットに求めているものは、孤独を埋めることではないかと思った。




これからは「個」の時代。人々は進化とは裏腹に孤独も経験するだろう。

人間の孤独を、「知性」で埋めることはできるのだろうか。




感情と知性について、物語の後半、ジョジーの母の目論みが明らかになり、ジョジーの父親とクララの対話がある。

「じゃ、ちょっとほかのことも聞こう。これはどうだ。君は人の心というものがあると思うか。もちろん、単なる心臓のことじゃないぞ。詩的な意味での『人の心』だ。そんなものがあると思うか。人間一人一人を特別な個人にしている何かがあると思うか。」(p.311)
「ポールさんの言う『心』は、ジョジーを学習するうえでいちばん難しい部分かもしれません」(p.312)
「もちろん、人の心は複雑でないわけがありません。でも、限度があるはずです。ポールさんの歌的な意味で語っているとしても、学習することには終わりがあると思います。ジョジーの心は、たしかに部屋の中に部屋があるような不思議な家かもしれません。でも、それがジョジーを救う最善の方法であるなら、わたしは全力を尽くします。成功する可能性はかなりあると信じます」(pp.312-313)


感情を辿っていく知性をクララは兼ね備えているというのか。



そんな人工ロボットがいたら、確かに「知性」は「感情」でカバーされてしまう。



そうなると、人工ロボットは最強の「人間」になるのか。





うーん、段々わからなくなってきた。


ただ、人間とは何か?という問いに戻れば、人間とは知性だけではカバーできない感情を持つ生き物なのではないかと思う。



孤独を人工ロボットで埋めたところで、ロボットにも寿命がある。人間は「愛着」という感情を持っている。



だから人工ロボットであっても、家族のように人間がそれを愛していたら、代わりの人工ロボットではその寂しさを埋めることは難しい。


人間の感情は、「いくつも部屋があるから複雑」というよりは、「いろんな人やモノに出会うことでいくつも部屋が生まれるから際限がない」のだ。



そんなことを考えるきっかけとなった『クララとお日さま』。


ぜひたくさんの人に読んでもらって、議論したい。


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