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『ハーバード流交渉術ーイエスを言わせる方法』を読んで

当書を通して、必ず覚えておきたい交渉における4大原則は以下である。

【交渉における基本要素】
人:人と問題を分離せよ、エゴを出すな
利害:立場ではなく利害に焦点を合わせよ
選択肢:行動について決定する前に多くの可能性を考えだせ
基準:結果はあくまで客観的基準によるべきことを強調せよ

ハーバード流交渉術ーイエスを言わせる方法 ロジャー・フィッシャー著

上記の要素を満たした交渉のことを、当書では原則立脚型交渉と称している。

「人:人と問題を分離せよ、エゴを出すな」について

交渉をするときに案外忘れてしまいがちなのは、交渉相手が「人間」であることではないだろうか。つまり、感情を持ちながら日々生活の中で揺れ動く生命体であるということである。そうだとすると、人間にとって一番相手を許すきっかけになるものは、相手が自分のことを理解してくれていると感じることのように思われる。当書では、「安全・経済的福利・帰属意識・認められること・自分の生き方を自分で決定すること」が人間の基本的ニーズとあるが、まさにそういうものである。そのため、その具体的な行動として細かな気配りやコミュニケーションが挙げられるのは自然の摂理である。

「利害:立場ではなく利害に焦点を合わせよ」について

利害とは、表向きの立場、結論を導き出した原因である。利害は見えるようで見えず、見えないようで見えるものであると感じた。利害に焦点を当てることは、コンテクストを読み解く力が非常に求められるのである。さらに、常に議論や着地点は未来に置かねばならない。経緯について話すのではなく、何を得たいか、交渉を通して未来に獲得できる利益について話す方ことが重要なのである。
当書ではテクニカルな方法論も併せて提供してくれる。問題の本質が明確であっても、それについて強硬態勢を取るのではなく、あくまで他人を尊重した上で、「指示と攻撃の組み合わせ」をとる。それによってより円滑に交渉を進められるというわけである。

「選択肢:行動について決定する前に多くの可能性を考えだせ」について

本書を通じて新鮮だったのは、「どのような交渉でも、斬新なアイデアによって道を開き、双方に満足のいく合意案を生み出すことができる。」というフレーズであった。交渉の場では、一つの正しい選択肢や正解を捻り出すことが重要であるという印象を持っていたが、むしろ選択肢を考え出す行為とそれに評価を下す行為を分離し、幅広い選択肢を提示することが重要であることを学んだ。そして、当書では、その選択肢は原則としてお互いの利益を追求することになるべきであり、相手が決定しやすい方法を見つけ提示することが重要であると指摘する。

「基準:結果はあくまで客観的基準によるべきことを強調せよ」について

人間はつい感情的に物事を解釈してしまいがちだが、自分と他人の考えが一致することは滅多にない。そのうえで懸命な着地点を見出すためには、当事者間の勢力や感情に左右されるのではなく、問題の客観的な本質に目を向けなければならないと当書は指摘する。そのためには、交渉の当事者がそれぞれの分担または取り分を決める前に、公平と思われる措置を話し合い、手続きを公平にすることが大切であるとする。つまり、客観的基準を見出すことを共同作業にするということである。客観的基準は外部にあるようで実は当事者の間にあるという意識、そのために共に作り上げていくプロセスが存在しうるということを忘れるべきではないのである。

さいごに

当書に書かれている具体例を通じて、人間は思っている以上に自分の意見に固執したり、敵対的な態勢を取りがちになるということも、批判的、客観的に知ることができた。交渉をするうえでは、交渉の懸命な着地点を見出すことに注力し続けること、雑念が混ざらぬようファクトに基づき交渉することが一貫して重要なのだろう。
大前提となる交渉の4大原則(人と問題の分離、利害に焦点、複数の選択肢用意、客観的基準に立脚)と、それを実行するための分析(情報を集めて検討)、計画(手順と選択肢の検討)、討議(懸命な着地点の検討)は新しく体系立てて学ぶことができた。
本書はビジネス場面での交渉における立ち振る舞いについて非常に示唆深い概念と具体を提示してくれる一方で、知るだけでは決して会得できない実践の必要性も示しているようなので、大小様々な交渉の場面で意識的に取り入れていこうと思う。

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