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【本との出会い2】「父に関して、脳裏に蘇ってくるのは、平凡な日常のありふれた光景だ」猫を棄てる 村上春樹

父について、
私の父が他界したのは17年前。
おかしなもので、最近になって、父とのこと、特に私が幼い頃の父との出来事を思い出す。
おかしなもので、大人になってからの父とのことは、あまり思い出さない。
もちろん記憶がないわけではない。
思い出さないというよりも、「蓋をしておきたい」「布でもかけておきたい」とでもいうか。
要するに、あまり触れたくない事になっているのだろう、自分の中で。  

誰もが、少なからず、そんな感じではないだろうか?特に男は。

この本のお話は、村上春樹さんが幼少の頃に、父親と猫を棄てに行った出来事の記憶など、父との家族との思い出を紡ぎながら、自分の概念について記している。 

1.村上春樹氏が父親との思い出から言いたいこと

生きているということは、いろいろな偶然をもとに生まれた事実を、唯一無二のものとしているだけではないか。
世の中では、とるにたらない雨水の一滴のようなものだが、だからこそ、その一滴を忘れてはならないと。

2.父親の自己の背景、戦争体験について

100ページという村上春樹氏としては短い物語にまとめている中で、父親との思い出を語る上で、父親の人間像を記す上で、父親の戦争体験が重要な位置付けだから、半分以上が戦争についての文章になっている。
戦争の悲惨さ、息子にもあまり語らなかった戦争の話、文章を作るという親子の類似点からの疎遠さなどへつながれる文脈は、何か不思議と理解してしまう自分と重ねてしまう。

3.猫を棄てる

父親との出来事の中で、2人で飼い猫を海に捨てに行ったエピソードが、今も心に染み付いている。
ほんの些細なことかもしれないが、それを忘れてはいけない大切なことなのだと、亡き父親への慟哭、疎遠にしてしまった後悔からの懺悔、そして、それでもいいんだよという許しを含めた文章に記した、いい本だ。 

4.イラスト

気に入ったのが、この本の挿絵、イラストだ。
高 妍言う画家さん。
海の絵に、青が使われてないことが、なんとも言えない哀愁を表現している。

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