【短いおはなし】3月6日は「弟の日」

ある日、家に帰ると弟がいた。昨日まではうちの家族は、パパ、ママ、ぼく、猫のグスコーブドリと3人と1匹の生活だったのに。

元々4人が座る用のテーブルに弟を含めてきちんと4人が座っている状態は超客観的な赤の他人の目からみるとまったく違和感なく、あぁこの家族は仲良し4人家族なのねと思うだろう。

4人での食卓は、いつも誰もいないはずのぼくの正面に弟が座り、ぼくと同じハンバーグを食べている姿を見ていると、まるで鏡を見ているようで、たまたまハンバーグを口に運ぶ瞬間が重なったりすると、途端に居心地が悪くなり、ぼくのほうが意図的にリズムをずらしたりしなければならなかったので、いつもより食べ終わるの遅くなった。

パパは聞いた。
「弟ができた感想はどう?」
笑顔で聞いた。

ぼくは答えた。
「よく分からない。まだ弟ができて48分しか経っていないもの」

今度はママが聞いた。
「弟と仲良くできそう?」
笑顔で聞いた。

ぼくは答えた。
「よく分からないけど、でも…仲良くしてみる」

弟との時間が1時間17分過ぎ、ぼくは弟と、どのようにして仲良くしたらいいかを考えた。ぼくは最近、けん玉にハマっているから一緒にけん玉ができたら楽しいなとか、カードゲームも3人でやるとつまらなかったけど、4人でやったらもっと楽しめるかもしれないと、前向きに考えた。

お風呂に入る時間になり、弟と一緒にお風呂に入ることにした。いつも湯舟を一人で使うには広いと感じていたが、弟と入ると最初から二人で入るように設計されていたのではないかと思うほど、ぴったりサイズだった。

弟との時間が1時間39分頃、寝る前に歯を磨いた。ぼくはいつも使っている青い歯ブラシを、特に考えもせず手に取ったが、弟の歯ブラシは洗面台にはなく、弟は困ったようにぼくを見た。
仕方なく、ぼくはママに言ってぼくの予備の歯ブラシを出してもらった。そのぼくと同じ青い歯ブラシを使い、歯を磨く弟を鏡越しに見るぼくは、いよいよ青い歯ブラシを使っているのはどっちがどっちだかなにがなんだかわけがわからなくなった。

ベッドに二人で入る。仰向けになっている二人は無言のままだ。その時、弟との時間は2時間45分を過ぎていた。

ベッドの中で、急に兄ができて今日は驚いたなと、猫のグスコーブドリは思った。その時、兄との時間は…と思い、急にバカらしくなり数えるのをやめた。

3月6日は「弟の日」

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