〖短編小説〗2月15日は「春一番名付けの日」

この短編は1132文字、約3分で読めます。あなたの3分を頂ければ幸いです。

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春一番がふいたその時、目頭先輩は窓側に面した廊下を歩いていた。休み時間というのだから、本来ならばしっかりと休養を取らなければいけない時間のはずだが、こうして委員会の仕事であちこち回り、忙しく働いている。嘆かわしいことだ。日本はどうやら休みという概念が希薄しているようだ。

急に強い風が、窓をだだっと駆け抜けたその瞬間校庭をみた目頭先輩は、驚いて委員会のファイルをその場に落としてしまう。

強い風に吹かれて、大きな大きな赤い丸い物体が校庭の中央に着地。その後右にゆらり、左にゆらり。あれはなんだと、良く見てみるとその正体は大きなだるまだった。なぜ学校に大きなだるま? どこかから飛んできたのか?

目頭先輩はだるまの目が黒く塗られていることを発見し、誰かの願いが成就したのだなと思った。

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春一番がふいたその時、園芸部の小森さんは校庭の隅にある花壇にて、水やりをしていた。さすが園芸部一の努力家小森さん。休み時間も花たちが気になって、水をあげにきたのです。まぁ、園芸部は小森さんしかいませんが。

花壇には、マーガレットが愛おしく咲いています。小森さんはそんなお花を見ることが何よりも幸せなのです。そんな時、ものすごい勢いで風が吹きました。小柄な小森さんは飛ばされそうです。とっさに目をつぶってしまいました。

目を開けると、まずは花を確認しました。よかった無事のようです。そろそろ休み時間も終わります。教室に戻ろうと校庭側へ振り返ったその瞬間、小森さんは可愛いと思いました。何がって? 校庭の中央に大きな大きな赤くて丸いものがゆらゆらしています。小森さんは丸くて、小さいものが好きだと自分では長らく思っていたのですが、どうやら大きさは関係ないようです。

あぁ、なんて丸くて大きくて可愛らしいイチゴですこと。小森さんは、温かくなったらイチゴでも育ててみようかしたと考えました。

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春一番がふいたその時、校長先生は校長室で胃薬を飲んでいた。学校の先生は何かとストレスが多い職業。生徒はもちろん、最近では保護者の対応も一苦労。

胃薬を飲み一息ついたところで、校庭側に面した少し開いた窓からものすごい風が吹き込んだ。机の上の書類は床に散乱し、せっかく整理したのにと、拾うため席を立ったその時、校長先生は校庭に赤い大きな物体があることに気が付く。あれはなんだ、なんといって教育委員会に報告すればいいんだ。そうだ、あれは梅干しだ。大きな梅干しが強風で校庭に現れたんだ。

大きな梅干しはゆっくりと揺れている。その梅干しをみていると、校長先生は口の中が唾でいっぱいになった。PCR検査だったらいくらでも唾がでるなと考えた。

2月15日は「春一番名付けの日」



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