まつのことのはのたのしみ その四
この記事に目をとどめていただき、ありがたうございます。玉川可奈子です。まつのことのはシリーズは主に「やまとうた」についての内容を扱つてゐます。前回からの続きを書いてをりますので、その三もご参照いただけたら幸甚です。
歌集を眺め、「良いな」と思へる歌があつたら、次はその歌を暗記しませう。
私も、小学五年生だつた当時、前に書きました柿本人麻呂の、
東の 野に陽炎の 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ
の歌を暗記しました。他にも、豊臣秀吉の辞世である、
露と落ち 露と消えにし 我が身かな 難波のことも 夢のまた夢
や細川ガラシャの、
散りぬべき 時知りてこそ 世の中に 花も花なれ 人も人なれ
なども覚えた記憶があります。他にも蒲生氏郷の、
限りあれば 吹かねど花は 散るものを 心短き 春の山風
も何となく覚えてゐました。当時は「百人一首」に興味がなく、戦国時代の人の歌に注目してゐました。
さて、平泉澄先生の『勉強の秘伝』(皇學館高等学校講演叢書※1)にもありますが、勉強の基本は暗記です。それは和歌も同じです。和歌を学ばうと思つたら、まづ「良いな」と思つた歌を覚えてみませう。それは、一首からでも構ひません。「良いな」と思はれた歌、「この歌好きだな」と感じた歌を、少しずつ、一首ずつ、無理のない程度に覚えてみてください。
無理に続けるよりも、少しずつできることから積み重ね、それを長く長く続けることが私が考へる上達の秘訣です。長く続けることの大切さを、本居宣長も『うひ山ふみ』といふ国学の入門書の中で述べてゐます。
さて、私が「良いな」にこだはるのは、理由があります。茶道の世界では知らない人のゐない、千利休。私は茶道はまつたくわかりませんが、彼には「利休百首」といはれる歌があります。茶道について歌つた歌なのですが、その中に、
上手には すきと器用と 功積むと 此の三つそろふ 人ぞ能く知る
といふ歌があります。お茶を習つてゐた方なら、どなたもご存知でせう。とても有名な歌ですね。
意味は、「上達するには、好きであること、要領よくやること、そしてコツコツ続けること。この三つが揃ふことが大事である」といふものです。さう、重要なのは「すき」といふことが一番最初にあることです。そのものが好きなことが大前提です。「下手の横好き」といふ言葉がありますが、下手でも続けてゐれば、そこにはたまほこの道ができます。「好きこそものの上手なりけり」ともいひますね。
今はなき故・村上和雄筑波大学名誉教授がたびたび口にされてゐたことですが、
「遺伝子を目覚めさせるのは前向きな感情」
なのです。具体的には感謝をすることなどを挙げてをられましたが、好きなことに夢中になる、前向きな感情になれるものを求める、これも遺伝子を目覚めさせる上で大切なことだと信じてゐます。
「利休百首」は茶道のことを歌であらはしてゐますが、茶道に限らず「道」を深めるといふことについて大きな学びがありませう。なほ、「利休百首」は道歌(どうか、道徳的な教訓をわかりやすく説き、精神修養のことを詠んだ和歌。仏教や心学の精神を詠んだ教訓歌『日本国語大辞典』)ともいふべきもので、厳密なやまとうたではないことを追記しておきます。
※1 入手困難ですが、もしも、この本を古本屋で見付けたら、多少高くても、迷はず買つて下さい。私は、毎年この本を読んで、自身を励ましてゐます。
正月元日、先師の『勉強の秘伝』を読みて作る歌
新しき 年のはじめに 読むふみは 学びの道の しをりなりけり 可奈子
また、『うひ山ぶみ』は講談社学術文庫または岩波文庫で読むことができます。注が丁寧な前者が読みやすいでせう。
どうでも良いことですが、私は本居宣長と同じ誕生日です(旧暦ですが)。
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