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妊婦になった助産師の先輩が教えてくれた「妊婦にかけてほしくなかった言葉」

助産師は外来で、産後に病棟で、患者さんにたくさん保健指導をする。かける言葉がその人にとって求めているものなのか、そして【妊娠も出産も経験していない25歳の私】がなにを根拠にかかわるのか、考えさせられる先輩との出来事があった。

1年目、新人として日々産婦人科で働く中で、
根拠に基づき、適切に患者の状態を把握し、どんな状況にも落ち着いて対応する
ちょっと厳しいけれど、厳しさの裏に優しさがみえ、尊敬する助産師の先輩がいた。

その方は途中で妊娠がわかり、私が1年目の間に産休に入られた。
でも、私はその方が妊娠初期のころ、つわりがかなりひどく、常に吐き気と戦っていて、
妊娠悪阻というつわりの悪化した状態の一歩手前だったにも関わらず、
勤務表通り、日勤でのリーダーも、お産をとることも、夜勤もされていることに
気づかなかった。
けっして安易に弱音をはかず、後輩にそんな姿を見せないようにしていたのだと思う。

その先輩がやっと妊娠初期のつわりがおさまってきて
休憩室でもふつうにお昼ご飯を食べられるようになったころ、
私は初めて先輩が妊娠されていることを知った。

今まで気づかなくてすみません、今は体調いかがですか、と尋ねると
先輩は笑いながら
「だいぶ食べられるようになったよ、でも朝はこれ食べれるかなって思って買っても、実際にお昼なったら匂いがダメで食べられなくなったりするんだよね」と言った。

そのあとに、先輩がおっしゃったことが心に残った。

「今まで、外来でつわりがひどいって言う妊婦さんに、いつか終わりますよ、って声掛けして、どんな食べ物食べたらいいとか分割して食べるとか話をしてきたけど」

「つわりはいつか終わるよ、は今自分が言われて一番いやな言葉だった。

そんなんどうでもいいから今つらいのをなんとかしてって、ものすごくイライラした。」

正直びっくりした。

今までつわりの妊婦さんへの声掛けで「いつか終わりますから」と伝えると助産の先生からも教わったし、教科書にも書いてあることだったから。

しかもその先輩は、10年助産師をされていて
助産師外来という助産師が担当する妊婦検診も担当していて
たくさんの妊婦さん、産婦さん、お母さんたちと関わってきたと思う。

その先輩が、実際に妊娠してみて、この言葉かけ嫌だったんだ、と気づいたと苦笑されているのをみて、

まだ妊娠も出産も経験していない、1年目の自分が一生懸命考えて声掛けをしていることは

どれくらい妊婦さん、産婦さん、産後のお母さんに届くのだろう、と

悲しくなってしまった。

ありきたりのことしか言えていないと思われていないだろうか。

「まだ妊娠も出産も自分で経験していないでしょ」と思われていないだろうか。

1年目でなにもかもに一生懸命ただただ日々をこなすのに必死だったとき
いつも頭のどこかでかすめていた不安が、頭をよぎった。

ちなみに、つわりに関して助産師の教科書に書かれていることは以下のようなもの。

つわりは妊娠5週ごろから、1-2か月続き、妊娠12-16週に消失する。

症状は吐き気、嘔吐、食欲不振、匂いの嫌悪感、唾液分泌増加など。

原因は不明、ホルモンの変化や腸蠕動運動の低下が考えられる。

空腹時に吐き気が出やすいため、1日で1回に食べる量を減らして回数を増やすように伝える。

食べ物に好みの変化があるので、食べられるものを食べるでよい。

脱水にならないように水分はよくとるように伝える。

精神的な悩みや葛藤を理解し、不安を軽減できるように関わる。

“精神的な悩みや葛藤を理解し、不安を軽減できるように関わる”

難しいのはこれだ。

「今はつらいけれど、いつかつわりは終わります」
「食べられなくて、赤ちゃんのことが心配だと思いますが、今はもともとお母さんの身体についていた栄養で育つので、食べられるものを食べるでよいですよ」

など、伝えることが、不安の軽減の一つだと教わった。

でも、その言葉が助けになる人もいれば、
そんなこと言われても、と落ち込んだり、イラっとしたりする人もいると思う。

だから大事なのは、一般的なことを言ったでしょ、と満足するのではなく、
伝えた時の相手の反応をみたり、相手が思っていることを引き出そうをする姿勢なのかもしれない。

患者さんの「つらい」の原因を、今すぐなにかで取り除くことができないとき、

どんな言葉かけをしたら、専門知識で何を伝えたら、

その人が思っていることをどんな風にもっと引き出したら、

その人にとって、きいてよかった、と思ってもらえる保健指導ができるだろう。

自分にとって、妊娠出産を経験していないことは、この仕事をするうえで
ハンデのように思うこともあった。

10年続けてきた先輩助産師の言葉で、さらにその不安は強まった。

でも、そしたら、妊娠出産育児経験した助産師しかいらないことになる?

産婦人科の先生だって、その経験をした人ばかりではないわけで。

「でもあなたこのつらさわからないでしょ」と患者さんから言われたとき

(実際にあった)

へこんで仕事にいかない、ってことができる?

できない、私は妊娠出産もしていない新人助産師だけど

学んできた専門知識で、できることをしていくしかない。

そして現場で感じた実際の患者さんの声や反応から、また学んでいけばいい。

その先輩も、今度仕事復帰されたら、妊婦外来でつわりの方に対して
安易に「いつか終わりますよ」とは言わないだろう。

人と人との関わりの仕事なので、

教科書通りに一辺倒にやっていても、うまくいかないこともたくさんある。

そしたらその時に考え直したり、学びなおしたらいいんだと思う。

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