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ある方からの宿題

 ある方から、宿題を出されました。その返信を書いてみました。


宿題)10月から授業態度が意欲的になったK君にインタビューし、授業に参加できるようになった理由を明らかにせよ。更によくなりための提案も尋ねよ。


まず、K君についてです。4月に異動してきた私が、初めて担当する中2のとあるクラスの生徒、それがK君です。このクラス、9割が国語嫌い。完全アウェーからのスタートでした。

中でもK君は、最初から倦怠感を丸出しにした態度で、体を机にだらーんと投げ出す、教科書はなかなか開かない、提出物も出ず、記述は1行程度ミミズの這ったような字で何か書いてあればいい方。騒ぎはしないものの、いつも心ここにあらずという様子でした。

そのK君の様子が変わったと思ったのは10月の初旬あたりです。

体を起こして周りをキョロキョロ。遊んでいるのではありません、何をしたらいいのかを周りを観察して確認しているのです。話し合いでも、活発とは言いませんが、仲間の顔を見て、話を聞いて反応して、言葉を発しています。

詩の解釈の授業の時に、とても楽しそうにクラスメートと話し、自分とは別の解釈があることを友だちから聞くと「あ!」と何かに気づいた様子。そして一生懸命自分の考えを三角ロジックにあてはめて書いてくれました。20行くらいの文章を書き下げました。

書写の時間には、紙の中にうまく字が入りきらず、「どうしたらいいですか?」と、わざわざ一番後ろの席から教卓まで質問に来ました。これまでのK君からは考えられないような行動で、驚くやら嬉しいやら、ちょっぴり鳥肌が立ちました。

学級担任にK君の様子を報告し、彼が変わった理由を尋ねると「親父さんとの関係が落ち着いたようだ」とのこと。家庭生活の安定が一つの要因だろうという見立てでした。

しかし、よくよく考えてみれば、変わった理由は本人に聞くのが一番です。ある方からのご意見(宿題)どおり、K君に尋ねてみることにしました。授業後の休み時間に、聞いてみました。以下が、K君の答えです。

質問:最近、国語の授業への参加の様子が素敵なんだけど、何がきっかけ?

リーディング・ワークショップで本を読むようになった。最初は面倒だったし、読む気もなかったけど、読むしかない環境だったので読んでいた。授業で言われていた(スキルのひとつ)「映像化」が、だんだんできるようになった。

「映像化」ができるようになると、本が面白くなってきた。読むことに集中できるようになってきて、楽しめるようになった。

授業でも、聞かれたことの答えを作るために、読めばいいところがなんとなくわかるようになってきた。あってるかどうかわからないけど。テストも苦手だけど。勉強自体も苦手。覚えるのとか、駄目。

でも、リーディング・ワークショップはいいと思う。楽しい。

ちなみに10月までのリーディング・ワークショップの時間は、およそ35時間です。


質問:K君が授業に参加しやすくなるには、何が必要?

自分は読むことが苦手で、スピードも遅いけど、勘弁してほしい。読む気持ちはある。

文章を書くときには、友だちの話を聞けるといい。安心する。時々、何をするのかすぐにわからないことがあるから。

黒板の内容をノートに写す授業は嫌い。意味が分かんないし、面倒。飽きちゃう。自分で考えたり、友だちと考えたりする方がいい。考えることは楽しい。できると嬉しい。


インタビューで得られた情報の考察

1 K君の現状

・じっくり考えるタイプ。練習によって、書写の字を用紙に収めることができました。教師に質問した後、友だちの書いている字の太さを観察して、何度も書いていました。できあがった作品は丁寧なもので、指導した行書のポイントはクリアできていました。

・語彙は少ないですが、課題について前向きに考え、参加しようとしています。

・やっと「読むこと」にたどり着いた感があり、読んだことをアウトプットするまでには今後もたくさんの補助が必要です。「面白い」以外の語彙がないので、読書を繰り返すことが必要です。レターエッセイはまだ敷居が高いかもしれないと思います。反応できた表現の書き出しなどから始めたいと思います。

2 必要な支援

・教師が「待つ」姿勢をもつこと。「支援」の手を抜かなければK君のやる気を持続できます。成長マインドセットが重要。

・「型」「見本」「助け」が必要。

・選択肢が必要。インタビューでも感じましたが、語彙が少ないので自分の気持ちや考えを他人に伝えるために、いくつか例を示すと答えることができました。真摯に答えようとする気持ちと態度は伝わってきました。

・対話が必要。話すこと自体は嫌っていません。話すことで考えを整理するタイプかもしれません。友だちとのスパイダー討論を楽しんでいます。人の顔を見て話したり聞いたりしています。人に話を振ることもできています。

・個人差を受け入れられる授業が必要。不器用ながらも、真摯にインタビューに答えようとする姿から素直さを感じました。頭ごなしの指導は入らないタイプです。点数や統制された学習形式に象徴されるこれまでの教育の形では認められないタイプの生徒です。テストでは瞬発力や暗記力が必要なため、既存の授業や評価システムではK君は評価されにくいのです。


K君が教えてくれていること

教室には多様な生徒が存在すること。

教育のシステムが柔軟なら、学びからの逃走を防止できること。

テストだけで評価をするのは公正な評価とは言えないこと。

自分で「する」授業、経験値を上げていく授業が効果的であること。

知識や技能は経験と結びつくことで、人を成長させること。それを繰り返すことでテストの点数ではなく、成果(パフォーマンス)の質が上がること。(もちろん長期的にはテストの点数に影響をあたえること。)


まとめ

K君の事例を通して、どんな子どもでも、「学び続けることに意味がある」と感じています。生徒の「学び」を「支援」する場が「学校」だと思います。

「学校」は、いつから生徒をテストの点数で値踏みをする場になったのでしょう。進学率や偏差値の高さが「成果」とされる学校は、大切な学校の役割を忘れてしまっているように思います。


こんな返信でいいでしょうか?

最後までお読みくださいまして、ありがとうございます。


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