クロスバイクを巡るドラマ② 時空を超えてコピペ
時空を超えて繋がるとはこんな感覚なのかと、すっかり私の中では答え合わせができたものの、若くて小柄な店主さんは怪訝そうな表情でじっとこちらを見ている。(なるほどね、だから無料の自転車ポンプ貸し出しサービスだったのか・・・)
「ごめんなさいね。突然に」
「実はね、R町のほうに昔、Kモータースというお店があってね。私そこでバイク三昧の学生時代を送っていたんですよ。モトクロスバイクにも乗っていて、週末はお店の軽トラで草レースに参戦、レース後はお店の作業場でエンジンばらしてピストン磨いてピストンリングを交換する、みたいな時間を過ごしていたんです。」
「あ、それは僕の親父の店ですよね? 今もR町で営業してます。私も午前中はKモータースを手伝って、午後はこっちのKサイクルに出勤してるんです。」
「やっぱり!そういうことか~ いやもう、そっくり、お父さんに。」
「お店に入った瞬間に幻を見てるのか!?というくらい表情や仕草が似てたんでビックリしてしまって。」
「35年前なら丁度当時の親父と、いまの僕が同年代の30代半ばなんで似てるのかも知れないですね。似てると思ったことはないんですけど~」
「いやいやいやいや。もう生き写しってくらい似てますよ。本当にびっくりした。」
それにしても縁というのは不思議なものだ。35年の時を経て全く別の町にある自転車屋さんにたまたまフラッと入ってみたら私にとっては特別な人に出会ったという話。たまたま最近引っ越したこと、たまたま自転車通勤にしようと思ったこと、たまたま目に入ったお店だったこと、これらが紡いでくれての偶然、いや必然なんだろうか。
Kモータースの親父さんにも無料で軽トラや作業場を貸していただいていたが、まるで時空を超えてコピペしたような自転車ポンプの無料貸し出しサービス。なんて素敵な親子、なんて素敵なお店と出逢えたんだろう。営業時間が短い、展示車両が少ないなど難点はいろいろあって他にもショップを何軒か回って決めるつもりだったが、何を買うか決める前に、このお店・この息子さんから買おうと心に決めた。
<続く>
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