筋ジスで車椅子ユーザーの出産体験記③
<前編はこちら>
2021年5月中旬、私は初めての出産を経験しました。
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーで車椅子を使っている人の出産例は少なく、私も情報収集に苦労したため、体験記を綴ってみました。
※「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーならでは」の情報は太字にしました。同じ病気の方の参考になればと思います。
出産翌朝
朝7時、朝食が運ばれ、少し背もたれを起こしてOKになりました。
少しでもお腹に力を入れるとズキッ!!!と痛みが走るため、恐々背もたれの角度を上げていきました。
45°ぐらいで限界。お腹はペコペコだったので、その状態で朝食を取ることにしました。
私はいつも両腕をテーブルに乗せ、右手首を左手で支えることで箸を使って食事をとっています。
しかし、その体勢が取れないため、スプーンを使い、腕をプルプルさせながら何とか食べました。
あまりにプルプルさせていたので、こぼしまくり、看護師さんに首元にタオルをかけてもらいました。
かなり滑稽な姿でしたが、30時間ぶりの食事、早く体力を回復させたいので、必死にお粥をかき込んでいました。
初めての抱っこ
そんなこんなで朝食も昼食も完食し、助産師さんが病室に赤ちゃんを連れてきてくれました。
そして、初めての抱っこ。
小さくて、あったかくて、いい匂いがして、涙がダバーーーと流れ落ちました。
小さな手にすごく小さい爪がついていて、神の造形だと思いました。
「かわいい、、、あぁ、、前が見えない、、うぅ、、、」と両手が塞がり涙を拭けず、カオナシ状態でいると、助産師さんが拭いてくれました。
そこから体がドラスティックに回復するのを感じました。
激痛トイレ
帝王切開後は肺血栓塞栓症という命に関わる合併症のリスクがあるため「早期離床」が勧められています。(これは筋ジスの有無は関係なく一般的に)
要するに、手術翌日からベッドを出て、なるべく動いた方が回復が早くなり、リスクも減らせますよ、ということです。
例に漏れず私も、なるべく早くベッドから車椅子に移乗し、トイレに行ってみましょうか、という方針でした。
ただ、そのときは思ったより早く来ました。
帝王切開はお腹を切り開いて腸の周辺もまさぐるので、腸の動きが悪くなり便秘になる人が多いそうです。
しかし、私の腸はめちゃくちゃ元気でした。
昼食後、すぐにトイレに行きたくなりました。
帝王切開後の便意はなぜか激痛で、これはすぐに出さねばやばいやつだと思いナースコールを押しました。
痛すぎて喋れず「お、お、つう、じ、、、」とまたカオナシになりました。
助産師さんが来て「え、もう!?はやいね!!」と言われました。
「まだしんどいでしょ。トイレ行ける?ベッドでする?」と聞かれました。
かなり迷いましたが、「えぇ…ベッドでって相部屋だし匂いとか…」となけなしの羞恥心が発動し、意を決してトイレに行くことにしました。
こうして、手術翌日の午後、手術から24時間経たずにベッドから出たのです。
これが、第2の地獄でした。
みなさん、想像してみてください。
手術でお腹を横方向に10cmぐらい切ったら、どんなふうに歩きますか?
傷口が引っ張られないように、縫ったところが開かないように背中を丸め、そろりそろりと歩みを進めると思います。
点滴スタンドを杖代わりにする人もいるでしょう。
実際、産婦人科病棟にはそのような産後の女性が大勢いました。
皆、股or腹に傷を負ってるので、おそるおそる歩いていて、病棟の廊下を歩く人たちはスローモーションに見えました。
さて、私はどうなったでしょう。
地獄を見ました。
痛すぎて痛すぎて震えました。西野カナでした。
麻酔の話でも書きましたが、私は反り腰なんです。中国雑技団か、ってほど上半身が反り返っています。
加えて、腹筋がなく背中を丸めることができません。
看護師さんに肩を支えられ持ち上げられると、全くお腹に力が入らず、そのまま上半身が伸びて吊り橋かのように反りました。
「あ、終わった…」と思いました。
「これ絶対、傷口パッカーーーーーンってなってるわ」と。
そういう痛みでした。
とにかく痛くて冷や汗ダクダクでしたが、漏らすわけにはいかなかったので、なんとかトイレに行きました。
便座にたどりつきあまりの痛みに泣いてしまい、「つらいねぇ」と助産師さんが背中をさすってくれ、その神がかった優しさにまた泣きました。
ちっぽけな羞恥心なぞ、かなぐり捨ててベッドですればよかったと心底思いました。
トイレからベッドに戻って時計を見ると小一時間経っていました。
そのときのメッセンジャーを見ると、
「痛すぎて人生観変わりそう。みんなこうやって生まれてきたんや。命は大切にせなあかん。」と夫に送っていました。
その後、助産師さんに傷口を見てもらうと(お腹がまだへこんでいないので自分では見れない)、少し出血していました。
念のため、先生に診てもらうことになりました。
見たところ裂けてはいないので大丈夫とのことでした。
とはいえ、便意はまた来るわけで、パッカーーーンなりそうなぐらい上半身を反らせた姿勢で、トイレに行き続けても問題ないのか心配でした。
先生に質問しました。
「ほんと常人ではありえないほど腰が反るのですが、大丈夫ですか?」
先生「大丈夫です。」
「ブリッジしてそのまま歩いたとしても、本当に傷は裂けないですか?」
先生「傷口はしっかり糸がかかっている上、縫っていない部分のお腹の皮の方が伸びるので、裂けることはないです。大丈夫ですよ。」
今考えるとかなりやばい患者ですが、そのときはめちゃくちゃ真剣でした。
救いとなったのは、私のハンパない反り腰を実際に目にした助産師さんも、めちゃくちゃ真剣な顔で私のアホな質問に頷いてくれていたことでした。
そういうことなので、同じ病気の反り腰の民よ、ご安心くださいませ。
痛みの格付けチェック
長々と「激痛トイレ」について書いてしまいましたが、これが痛みの最大値でした。
私は子宮口も縫っていたのですが、帝王切開の傷があまりにもインパクト大きくて、しばらく忘れていました。
「下から生んでないはずやのになんでお股が痛いんだろう…」と思い、「あ、そーだった、子宮口縫ってたわ」と思い出すぐらいでした。
産後2日目から授乳が始まり、27年間閉じられし乳腺が開通するときも激痛でした。
満身創痍すぎて痛みリスト作って、格付けチェックしていました。
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️帝王切開の傷
⭐️⭐️⭐️⭐️子宮収縮の痛み(後陣痛という)
⭐️⭐️⭐️⭐️乳の痛み
⭐️⭐️⭐️術後の便意痛
⭐️⭐️子宮口の抜糸傷
ほんと気が狂いそうでしたが、ロキソニンがよく効いたので、薬が効いてるときを狙って食事やトイレを済ませました。
ロキソニンの服用は6時間空けないといけないので、薬が切れると布団に丸まってじっとしていました。
硬膜外麻酔を入れられれば、まだマシだったのかもしれません。
その後
産後4日目からは夫が病院に来て、5日間の父母子同室が始まりました。そこから私の本格的な母乳育児と、夫の育児トレーニングが始まりました。
赤ちゃんと初対面の夫
母乳育児の話や父母子同室の話も、筋ジスだからこその工夫やエピソードが盛り沢山でしたので、これは別の記事に書こうかなと思います。
母子ともに健康で、標準的な帝王切開の入院日数である産後8日目に退院。親子3人で車椅子対応のタクシーに乗って家に帰りました。
帝王切開はやはり術後が大変で、退院した後も傷口が2回膿んでしまい、通院しました。傷口に穴を開け膿を絞り出す処置(無麻酔)は、魂が抜けそうでした。
傷口が膿んだ原因は分からないですが、これは私の体質だったのかもしれません。(ピアス開けたら膿んで、ピアスが耳たぶに埋まりかけた人)
あ、そうだ、、この痛みは星3つ⭐️⭐️⭐️!
退院後からは8ヶ月間の育休を取った夫と二人、怒涛の新生児育児が始まりました。育児についてもぼちぼち書いていきますね。
ということで、ひとまず出産体験記はおしまい。
お読みいただきありがとうございました!
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