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「月を隠して」逆倉青海さん作品を読んで【創作大賞感想】

今回拝読させていただいたのは、こちらの作品になります。
ほんのりネタバレがあると思いますのでご了承下さい。
(ネタバレタグをつけておきます)

『月を隠して』素敵なタイトルですね。
「月」と「隠す」って、何故だか似合う組み合わせです。
このタイトルが作品にどう関わってくるんでしょうか。

あらすじ感想

記念すべき二十作目で、自分の情報を「作品として」まとめることにした、実力派SF作家、小日向薫。
どんな内容なのかこの時点では想像できないのですが、これまであまり明らかにされていなかった作家の過去が語られるのでしょう。
私の周囲ですと、SFを書く人はかなり頭が良い気がします。そして、書き始めるまでの人生をドラマチックに生きてきた印象。
小日向さんもそうなのでしょうか。
私も時々私小説ちっくなものを書いているので、作品にしておきたいという小日向さんの執筆動機はわかるような気がします。
あらすじを読んだ時点の感想なので、全然違ったらごめんなさい。
「月は太陽がないと輝けない。しかし夜は月でないと照らせない」
素敵。めっちゃ素敵。
私の最愛の推しがとても月っぽい人なので、個人的に心臓を射貫かれてしまいました。
この一行だけで物語になりそう。
この言葉も作中で使われているのかな?
楽しみに読んでいこうと思います。

『月を隠して』感想文


プロローグ「地球照」

小日向さんの、この作品を書くにあたって考えたことなどが記されています。
小説家になるきっかけは、とある一人の女性だった……もうこれだけでロマンスの予感。さすが恋愛小説部門!
作家が書き始めるにはそれぞれのきっかけがあるはずですが、小日向さんのそれはどんな物語なのでしょう。
また、SF作家らしく天文要素が出てきました。
地球照という言葉は聞いたことがあります。
小日向さんは、その現象に意味を感じているのですね。

作者である逆倉さんの作品は、続きが読みたくなる作用があると思います。
自然とページをめくってしまう。
北海道弁で言うなら「めくらさる」です。
引き込まれるし楽しめる。
長い情景描写があるわけではないのに、脳裏にイメージしやすいのは、言葉選びが適切なんでしょう。
難解さを感じさせないのも、青春の日々をえがくのにぴったりです。

第一章「月白」前編

雅兎さんに一目惚れしてしまう小日向さん。
変わった名前ですが、「月地雅兎」って可愛いですね。
月うさぎ。

小日向さん、おじいちゃんと本を貸し借りできる関係が素敵。
自然音だけの静かな場所でじっくり読書するのって、電子書籍に切り替えてから全然していない気がします。
紙をめくる音が懐かしい。
昔はいつでもそうだったのに、今の時代だととっても贅沢。

祖父母の家で見つけた不思議な栞。
相当綺麗なんだろうな、っていうのが伝わってきました。
栞なのだから小さな世界なのだろうけど、その中にぎゅっと押し込まれた芸術性。
そしてここでタイトルが登場。

「月本冬乃」さん登場。こちらも月を含んだ名前ですね。偏見ですが、図書委員で快活なキャラって珍しく感じました。
修学旅行の班決め、私もいつの間にか「あまり枠」に入っていたタイプの人なので、このあたりの描写はわかる……!

第一章「月白」中編

小日向さんのような男の子がタイプの女子(時には男子)っていっぱいいると思うのですよ。いや、私のことですけどね。

ずっと小日向さんの視点と語り口で綴られていくのですが、時々可愛い表現があって、にこにこしてしまいます。
勇者パーティーと魔王のところとか。

夏休み、岸上くんに彼女ができてちょっとショック……笑
結構お気に入りキャラです。かっこいいよね!
小日向さんがタイプじゃないのって?
それはそれ、これはこれですよ。

これまでひとり陰の者だった小日向さんが、大人しいながら学校生活を楽しみ青春するようになって、若者はどんどん成長していくなぁと眩しく思いました。友達っていいね!

第一章「月白」後編

鰻重……! 今まさにお腹空いてる私に飯テロ!
そういえば一昨日は土用の丑の日。鰻重……!!!
もう何年食べていないのか、多分十年単位で食べてない!
と、頭の中が鰻重でいっぱいになりました。
脳内で味がイメージできるぜ。小嶋元太かな(名探偵コナン)?

おはぎ……。おはぎも食べたい……。
特に味について詳しく書かれているわけではないけど、すごく魅力的に感じるのは、祖父母の家で過ごす夏の一ページに、ノスタルジックな感覚が呼び起こされるからでしょうか。
そういう経験がなくても、祖父母の家、穏やかな家族、過去の雰囲気を感じさせるお兄さんの部屋を肌に感じる気がします。

「先生焼きそば」が、一瞬「生焼きそば」に見えました。
最近は「生」がつく食べ物が増えた気がするので、そのせいでしょうか。
焼きそばも食べたいな。

夏祭り、女子浴衣イベント、そして花火!
私の好きなゲームでもそんな王道展開があるんですが、やっぱりいいですよね~! 大好き! 青春最高です!

クラゲも「海月」なので、何か月と関係があるのでしょうか。
どうでもいいですが、海のある地方に住んでいた大昔、当時の彼氏に「君はクラゲのような人だね」と言われたことがあります。どういう意味だったのか未だにわかりません……!

修学旅行は、「え、すごーい! 何これ、今の修学旅行ってこんななの?」と感動しました。
荷物を現地に先に送るとか、私の時はそんな文化はなかった……。
キャリーケースも国内旅行で使う人あまりいなかったし、でっかいバッグ(リュックですらない)を肩にかけて、肩がもげるかと思いながら旅をしました。もしかして修学旅行じゃなく修行旅行だった?

そして修学旅行につきものの恋バナタイム!
遂に友達に恋の悩みを打ち明け、そして爆弾をくらう。何回でも言うけど、青春だぁ。
……沖縄行ってみたいな。

国際通りのステーキ……なんか美味しいものばかり出てくるなぁ。
も~、本当に飯テロ……!

青春だ~! 青春だ~! と思って、なんか昔を思い出したりしみじみしてからの、最後の一行にぎょっとしました。

第二章「十六夜」

透さんの物語。
んんん……あまり書くとネタバレになるのかな?
でも先を知っても面白さは損なわれないと思うのでちょっとだけ書きます。

私も以前人の死を書いたことがありますが、その時の感情移入を思い出しました。あるはずだった未来や、いつまでも一緒にいたい人たちとの別離……自分で書いたのに泣きました。

人が死ぬのは辛いなぁ。自分が死にたくても、他の誰にも死んで欲しくない、っていうのは私のエゴですけど、それでも人が死ぬことは辛いです。

本当に、透くんは頑張り屋さんで素直でいい子。
お母さんと弟への気持ち。そして先輩に自分の想いを伝えなかったことも。
悲しいのですが、透くんの優しさに包まれた素敵なお話でした。

第三章「名残の月」

月が好きだったり、月を名前に持つ登場人物が多いですね。
今度の彼は新月が好きなようです。
存在しない月が好き。ちょっと偏屈な気配がします。
星を見たい人には、月明かりは邪魔なのかな?
私の空には星が見えないので、月だけを待ってます。

東海地方に芸術都市というちょっとSF的な場所があり、未来さんはそこで学生をやっています。絵を描いているようです。
高校二年生って、特別な時間ですよね。

未来さんは、友達は要らない。
専念したいことがあるから、忙しいから、他人が介入する余地などない。
祖父のことを悪く言われたことがきっかけで、だんだん心を閉じてしまった。
作家の家族って大変だな……そんなへんてこな誹謗中傷があるのですね。
私の作品はリアル寄りだから私の子孫も危ない……。ま、だからって無難な作品を書くつもりはないから、覚悟して貰うしか。頑張れ! 我が子孫よ!

小日向さんも、透さんも、未来さんも、家族との優しい時間を知っているというところがいいです。いいなぁ、って羨ましくもある。
そんな世界をもっと見ていたいと思いました。

最終章「ムーンリバー・サイド・ムーン」

第一章後編からの展開に心臓が痛い。

小日向さんの大学生活の話。
受験生の秋から、小説を書く人になった小日向さん。
脱稿した時の達成感って凄いですよね。わかる~!

ひとりぼっちだったとは思えないくらい今は充実している、それが当たり前になった大学生の小日向さん。
最初の頃は友達ができてもおそるおそる近づいていくような感じでしたよね。

そして冬乃さんによる飯テロ……笑
この作品、ごはんが! いつも! おいしそう!!

趣味の一つとして、書きたくなった時に書いてみよう。
頭の片隅に小説のことがある。そのことで世界の見方が変わった。
明るい楽しい話を書けるようになったのは、冬乃のおかげでしょう。

冬乃は、冬に月に渡るのですね。
誕生日も冬だったのでしょうか。

心を突き動かされて書く、とにかく書く。
書かずにいられない時というのはありますね。
私は昔、大切な友達が亡くなった時にやっぱり小説を書きました。
当時私も小日向さんと同じように教員を目指していました。
作家になりたかったわけではなかったけれど、書く以外、他にどうしようもなかったから。
書く人間にとって、書くというのは当たり前で特別なこと。

まとめ

一章ずつ、心に残ったところを書いてみました。
あんまり読解力がないかもですが、そこはお許しください。

優しく満ちて欠ける月明かりが全体を静かに照らしているようなお話でした。お日さまもひだまりのような柔らかさで。

小日向さんの物語も未来さんの物語も成長を感じて好きですが、第二章の透くんが好みです。
日野先輩のスピンオフとかどうでしょう(もうあるのかな?)。

素敵なお話をありがとうございました!


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