見出し画像

絵本の持つ力─ 実話絵本『ひめちゃんのマスク』 によせて

先週、『ひめちゃんのマスク』という
絵本の読み聞かせを観ました。

自分のおこづかいでマスク2466枚を作って寄付した
滝本妃さんという名前の女の子のお話(実話)です。

ひめちゃんのストーリーは、身近で具体的です。

愉しげであかるい場面から
ひめちゃんにおとづれる困難、
きりりとした空気や
心細く淋しくなる場面の、しずかな感じ。

何かに挑戦する人の楽天的あかるさやユーモアを保ちながら
つめたさ、あたたかさを
絵本作家のぶみさん以上に かろやかに描けるひとは
いないかもしれません。

計算されつくしている、
と思いました。
200冊以上の絵本を出版している のぶみさんは、
正確なお話から絵本として読ませるストーリーにまで起こし、
技・感情を使って描くひと、という印象でした。

絵本の世界はとてもシンプルで
見せ方はいろいろあるけれど
ひめちゃんのストーリーは上等な実話でもあり
無理がありません。
そのことが安心感をさそいます。

この本で伝えたかったことを
私はこんな風に受け取っています。

「人にやさしくしていると、良いことがありますよ。
あなたには見守ってくれる人がいます。
うまくいっても、そうでなくても
見守ってくれる人は、あなたを大好きです。
あなたは誰のために、何をやってみたいですか?」

かつての自分が読みたかったストーリー

絵本『ひめちゃんのマスク』は
小学生のころの自分に読ませたい、と思いました。
小学生のころの自分が読んだら
私の血肉になっていた、と思うのです。

見たものや聞いたもの、出会ったひと、
みんな血肉になって自分がつくられていくけれど
絵本『ひめちゃんのマスク』は
くり返しくり返し絵本をひらいて、
「自分も何かしたい」という気持ちを
間違いなく後おししてくれる絵本だと思うのです。

私の場合、小学生のころなりたかったのが童話作家でした。
特に好きなお話があったわけではないですが
くり返しくり返し眺めた本の影響で
小学3年生からお話をつくって先生や家族に見せ、
笑ってもらいました。

血肉になったものの最大の効能は
忘れたころに見直してみても
ひらけばいつでもその気持ちがよみがえり
勇敢な気持ちになる、ということです。

絵本『ひめちゃんのマスク』の効能

ひめちゃんのマスク
絵本作家のぶみさんのラフを少し紹介します。
(のぶみさんによる全文公開は→こちら

画像2
ひめちゃんのマスク/のぶみ

ようし、あたしきめたわ!あかちゃんのころからためたおこづかい
8まんえんぶんぜーんぶマスクを作るざいりょうをかっちゃう!」
ママは、ひめちゃんのやりたいことを
ぜったいにとめないひとでした。

ひめちゃんのマスクより

ひめちゃんの、意志の強さ、潔さ。
ぽつぽつと元気がわいてきます。

私はひめちゃんみたいに立派な子どもではなかったですが
ひめちゃんのお母さんは
私が絵本作家になりたいといったとき
絵を習いにいかせてくれたお母さんにそっくりです!

画像3
ひめちゃんのマスク/のぶみ


これはラフコンテなので鉛筆画だけれど
のぶみさんの絵本の特徴の一つは、淡い色彩だと思います。
ベージュやピンクやみどり、みずいろ
そのあかるくてやさしい色の空間のなかで
りっぱな偉業を成し遂げたひめちゃん自身は、常に真面目。
職人さんのように1日5時間ミシンに向かい
何も話さずマスクを作ります。

画像4
ひめちゃんのマスク/のぶみ

インターネットではひめちゃんにたいして、
イヤなことをかくひともいました。
やるきがおきなくなって
せかいじゅうからいじめられてる気がして
いっしゅうかんもミシンにさわれなくなったんですよ

ひめちゃんのマスクより

このページは、あっというまに心も身体も硬くなって
涙が出ます。
なにかに挑戦して、孤独やかなしみを抱えた子は
この絵本のひめちゃんの気持ちがわかるのではないかしら。

人と違うことをして目立ってしまえば当然、
陰陽の法則で様々なひずみが生じます。
中学生のひめちゃんにとって
そのかなしみは一体どれほどのものでしょう。

お母さんに愛情を埋め込まれている ひめちゃんだから
手作りマスク2000枚を寄付、という偉業を
やり遂げられたのだと思います。
自分の居場所がある、ということは
最終的に一番、大切なのだと思います。

『ひめちゃんのマスク』絵本出版までの道のり

『ひめちゃんのマスク』は最初
絵本にはしない、と
8社の出版社から言われたそうです。
理由は、コロナは終わるからが大半だったそう。

コロナの話じゃなく暗い世の中に与えようと
がんばった子どもの話なんだよ

とっても生きるのが困難な時代に人に対して優しく、
与えようとする子どもの話

量と誰かを喜ばそうとする行動力が大切

絵本作家のぶみさんブログより


のぶみさんは『ひめちゃんのマスク』を全ページラフ公開
今年出版予定だった絵本2冊のうち1冊を
『ひめちゃんのマスク』に代えて
ようやく出版に至りました。
絵本読み聞かせ講演、ライブ配信、
SNSに毎日絵を描いて投稿 & 広報など
とても精力的に動かれています。

遠い話のようにいつしか過ぎ去り
忘れられてしまうかもしれない一人の女の子のストーリーを
物語にして閉じ込めたのぶみさん。

やさしい気持ち、
ずっととっておきたい大切な気持ちを保存しておきたい、
伝えたいと思って物語にすることは
私も憧れです。

『ひめちゃんのマスク』は何を届けるのか

私はこの絵本は未来へ
「美しい普通」のやさしさを届けるための
先頭を切ってくれる絵本だと思うんです。

きっと今までも
寄付という形じゃなくても身近なところで
やさしさを与えている
ひめちゃんみたいな子は沢山いると思うんです。

有名になりたいわけではなく
一人の中学生が、手作りマスクを寄付する。
がんばった女の子のほっこりした話が
コロナ禍のニュースになって
みんなに笑顔を与える。

ひとが求めているのは結局
‘ピュアな感動ストーリー’ なんだよな。

これは、元新聞記者の兄からいわれた言葉です。
ひめちゃんのお話は、まさにピュアな感動ストーリーです。

「絵本『ひめちゃんのマスク』を全国の小学校に置いてもらいたい」
というのが、のぶみさんの願いです。
この夢が叶うかは、わかりません。
(計算すると、全国の小学校に届けるには約2800万円くらいかかります)

私は、かつての何か始めたかった自分みたいな子どもに
この絵本が届くことを心から願っています。

小学校に置いてもらったら
絵本がきっかけとなって、やりたいことや
身近でできる社会貢献について
真剣に考える子どもが増えるかもしれません。

ひめちゃんのように
自分の時間、技術、持っているものを使って
人の役に立つ、人を楽しませる、人を幸せにする、
という実感を得られることは
人生を楽しむための一番大切なことにつながるのではないでしょうか。


そうでなくとも
この絵本を知ったことがきっかけで
いつもと違う角度から社会を見ることができるようになったり、
社会的インパクトについて知ったり、
人にやさしさを与えることについて
あなたに気づきがあったら、本当に良いなあと思います。

ひめちゃん(滝本妃さん)のニュースはこちらで読めます。


『絵本ひめちゃんのマスク全文公開』
『絵本ひめちゃんのマスク誕生秘話』
絵本作家のぶみさんの投稿は、こちらで読めます。


おわりに

私はのぶみさんの描く「ひめちゃん」にどこかに似ている、
ということの不思議な感じ、
でも、正しくて節度あるひっそりした感じが心地良くて
絵本をくり返しくり返しひらいても
そのたび励まされると思います。

モノづくりが好きなひとや
誰かのために何かしたいと思うひと同士のシンパシィ、
というものではないかと思っています。

ずっととっておきたい大切なことは
身近な人への普通のやさしさから始まる。
それを支えるのは
自分の居場所を作ってくれる存在、ということを
絵本『ひめちゃんのマスク』を読むと思い出します。

この記事は、何かを始めたかつての自分や
支えてくれたひとを思い出して書きました。

かつての私ような子どもへ届くことを願い、
影で支えるモノのわかった大人にありがとうの気持ちを込めて。

画像1
ひめちゃんのマスク/のぶみ


***

「フォロー」や「ハートマーク(スキ)」をいただけると喜びます^^


この記事が参加している募集

サポートいただいたら喜びますo(>ω<)o