鈍行列車と豚丼おにぎり
鈍行列車に乗らなければならない。
普段、車移動だから列車には滅多に乗らない。
けれど、明日からちょっと遠出することもあって、今日のうちに目的地により近い知人の家に移動しなければならないのだ。
「仕事終わりで疲れてるし、夜だし、車じゃなくて列車で来たら」
知人はそう言った。
「いや、車で大丈夫だよ」
「事故ったら危ないから列車にしな」
「運賃が高い」
「ガソリン代&運転の労力と比較したらさほど変わらん」
そうした押し問答の末、結局、列車で向かうことにした。
* * *
駅に着いたものの、発車時刻ギリギリになってしまったため、夜ご飯を食べていない。
駅の構内にコンビニがあるので、何か軽食でも買おうと思った。
しかし、そこでふと
「豚丼、いかがですかー」
の声が耳に届いた。
おじさんが切符売り場のすぐ隣で、小さなお店を出している。
そこには、帯広ご当地グルメである”豚丼”のお弁当が並んでいる。
前から存在は知ってたけど、今まで駅に来ても列車に乗る用事はなく、またお腹を空かせていることもなかったため、いつもお店の前を通り過ぎていた。
お腹の減り具合的に豚丼じゃあがっつりし過ぎているよな……、と思っていたところ、ラインナップの中に”豚丼おにぎり”の文字を見つけた。
おにぎりなら食べられる。
しかも豚丼だし、ご当地感あっていいじゃん!と、なぜか地元民のくせに舞い上がった。
「豚丼おにぎり一つお願いします」
そう言うと、おじさんは
「ありがとねー。これ、美味しいよ!」
と言って、レンジであっためてくれた。
ほかほかのおにぎりと一緒に、食べる前にかけたら美味い!というタレをもらい、私は列車に乗り込んだ。
列車の中のお客さんは学校帰りの高校生が多かった。
この時間だからたぶん部活や塾帰りかな、と思う。
お腹が減っているのか、パンだったりおにぎりだったり、思いのほか皆飲食をしている。
私も、便乗すべく、まずは手をしっかり拭き、おにぎりのタッパーを開けた。
タレをかけたおにぎりをひとくち口に入れると、甘くて少し苦いタレの風味と、炭で焼いた豚肉の味が広がった。
昔から親しんできた、地元の味だ。
どんぶりで食べる豚丼も美味しいけれど、おにぎりにしても美味しいなあ。
あっという間に一つ目を食べ、二つ目も食べようとしたけれど、ふと思いとどまった。
二つ目は、ぜひ知人にも食べてほしい。
初めて買ったけど、こんなに美味しいんだから。
そう思い、おにぎりのタッパーを閉じて膝の上に置いた。
おじさんがあっためてくれたおにぎりが、膝の上でまだほんのりと温かかった。
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