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【裏方与太話】舞台照明オペレーターのきっかけのとり方

私の仕事はいわゆる舞台の照明さんなんですが、常日頃仕事で思っているがあまり言葉にしないことをいい機会なので書き留めようと思う。

体系的に考えてるというほどじゃないが、仕事をする上でやはり自分の中で一つの軸というか方法論や意味づけがある。
飲み屋の二次会や三次会でほろほろ酔ってる時に仲間内で喋る程度の話だが、そういった話も昨今は聞かなくなったな。
こんな業界でもハラスメント対策の影響は出ており、コミュニケーションツールが少ない先輩方は必要以上に飲みに誘いにくくなり、飲んだとしても仕事の話をしにくくなった。

かなり過剰反応であると思うのだが、くだ巻いた結果ハラスメントですと通報されてもかなわないという自己防衛だろう…。
悲しいが仕方ない。こんな事で干されたくはないのだから。
ま、業界のコミュニケーション問題はひとまず置いといて。
こんな事考えてる照明さんもいるんだなーとナナメ読みしてもらえたら幸いです。

私の主な現場はミュージカルだ。
フォロー(人を手動で追っている照明ですね)もやるが、最近は調光(全体の照明をコンソールで制御してる)の方が多い。
データはゲネプロまでに打ち込んであるので、お芝居の進行に合わせてボタンを押すか、一組のフェーダを返すか、だ。

なーんだ簡単じゃない、と思われるだろうか?

そう、簡単なのです。

もちろん、下準備にはより時間もかかるし複雑なこともする。不測の事態が起きたら対応もしなければいけない。だが、操作だけでいえば非常に簡単で誰でも出来る動作なんじゃないかと思う。

だがどんなに簡単でももちろん漫然とやってる訳ではない。第一にミスをしないための環境整備と集中力。
これが一番大事。
芝居の途中で突然暗転になったり、転換員がみえてしまったり、危険を及ぼすこともあったり。ミスはもう最悪。そんな事を起こさないようにこれは前提条件だと思っている。

では本題(前置き長い)。

どう、きっかけをとるか?

ここで私がいうきっかけというのは、キュー番号(つくった照明シーンを芝居に合わせてナンバリングしている)をすすめるための文字通りのきっかけ=タイミングだと思ってください。

1、本を読み、稽古を見、音楽を聴き込む。

要は下調べの段階。
台本はセリフはもちろんだが、ト書きに結構スタッフ的に重要なところが書かれている。これは基本情報として頭に入れておく。同じカンパニーにいる他スタッフとの共通言語にもなる。

次に稽古を見る。台本では得られない情報が詰まっている、というか全てのステージはやっぱり稽古場から立ち上がる。そこで芝居の空気感、ダンスの振り付け、立ち位置など大量の情報を仕入れる。これらの情報はきっかけを考える作業だけじゃなく、機材選定したり、図面を描いたり、業務全般に必要な情報ですね。

で、最後の音楽を聴き込む。これはミュージカルのオペをする際かなり意識的にやっている。

だってMusicalだから。Musicalは音楽だから。

私はこの仕事をやりだす前はあまりミュージカルって好きじゃなかったんで、よく分かってなかったんですが…。
(今でもホントはストプレの方が好みです。)
やり始めてきちんと向き合うようになってからやっとミュージカルが体感的に分かってきました。
オペをしてても、観客として観に行っても音楽に支配されてるミュージカルって本当に気持ちいい。
音楽の中に、役者の動きもセリフも、舞台の転換も、照明の変化もカチリとハマりつつも人間らしい生っぽい情緒もあるというのがベストな形だろう、と個人的には思っています。そんな訳で曲はできる限り聴き込んでおく。
音をちゃんと聴いておくと後々役に立つことが多い気がします。ここでこんなチャイムの音なるんだ、とか。


2、作られたひとつひとつのキュー(シーン)を自分の中で意味付ける。

さて話はとびますが、明かりづくりもしてある程度照明が形になった時。
自分のなかで不明確なキューがないか再確認する。もちろん事前にデザイナーとキューに関する打ち合わせはしとくのですが、現場でキューが変わったり、追加されたりということはもちろんあります。
その中でなんでここにこんなキューがあるんだ?と納得できなかったり、なんで変わっているか分からない部分があればそれを潰す。
その意味づけは必ずしもデザイナーと一致してなくてもいいと思っています。ただ自分の中で曖昧にしとくことは避ける。


3、明かりの変化の仕方のベストを具体的にイメージする。

2で考えたことが自分の中で決定したら、それぞれのキューからキューへの変化のベストと思える形を頭の中で映像化する。この3の作業は実際には2と同時並行かな。2と3を繰り返している感覚に近いと思います。
さて映像化とはどんな感じか?
たとえば舞台上に一人マジシャン風の男が立っていて、彼にだけ照明があたっていて他は真っ暗。
で彼が勢いよく頭上高く手を振り上げると指先から火が出て、周りのランタン風のセットの明かりもつき、部屋の中の背景も浮かび上がる。
以上のようなキュー変化があったとします。キュータイムは仮に0.5秒とした時、どんな映像を思い浮かべるか。
彼が指先から出す火とランタンの明かりは同時がいいのか、それとも指先の火から広がるように後追いでランタンの明かりがついた方がいいのか、音響さんのSEはどのタイミングで入ってるだろうか?いろんな要素を考え決めていきます。
これはタイムの長いキュー変化でも同じで例えば夕暮れから夜に50秒で変わるシーンがあった時、バックで流れる音楽のここらへんでアンバーがほぼ消えてた方がいいなとか、なるべく具体的に考えます。
この変化の仕方もなるべく曖昧なものを潰す。
曖昧なものを曖昧なままにしとくと、後々演出家やデザイナーから修整を迫られても元が分かってないから修整ができません。

4、ベストな変化に合致するきっかけを見つける

ここまできたら、このベスト変化を具現化するために最適なきっかけを探すのみ。
フェーダーとボタンではまたちょっと違いますが、基本は逆算です。
先程の例でいうなら、指先の火とランタンの火が同時について欲しいならちょっときっかけを盗んで手が腰のあたりにきたらボタンを押せばいいかもしれない。後追いならば顔の位置とか。
音楽に合わせた変化なら変化させたい音の半拍前とか。ここで音楽を聴き込んでおくときっかけがとりやすい。
どこで押すかはキュータイムやゲージの幅、灯体·ユニットの種類、などなどいろんな要素があるのでそこらへんを見極めていきます。理屈ぽくなってますが、要は出ている明かりが自分のイメージ通りになってればいい。
そうして自分がオペレートしてでた明かりを見た演出家やデザイナーのダメを受け修整して、きっかけが出来上がります。

以上が私のきっかけのとり方です。あくまで私のなので反論異論、ここが足りないとかあるかと思います。
中には超感覚派みたいな人もいるだろうし、もっと理論突き詰めてます!って方もいるんだろうな〜

与太話ていう逃げのタイトルなのでご容赦を。

裏方の生態知らない方にとってはほんの一例だと思ってもらえたら。

それでは!

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