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魔改造。(2-Final)

突発性大腿壊死症なる骨が腐る病気になりすったもんだ人工関節(タイタニウム製)になった話の続き。

人って、自分が歩いた瞬間のことなんて覚えてないと思うのだけど。びっくりよ……歩くことを忘れることだってできるのである。

左側の股関節、大腿骨に人工関節を入れ、2週間してから抜糸。糸じゃなくて、ホチキスだったけど。太もも側面には約20センチほどの傷。それをこう、ばちん、ばちんとホチキスで止めてあり、治りかけの時期はめちゃくちゃに痒い。タトゥーを入れた時も2~3日するとめちゃくちゃ痒くなる。なんでだろう……ともあれ、ペンチのようなもので、ぶちん、ぶちん、とホチキスを抜いてもらい、そしてリハビリが始まった。

ちなみに、この2週間目のフォローアップ後、ダンディ先生の治療は3か月後。もっと頻繁でもよくね?と思ったけど。アメリカ式スパルタ医療なのであろう。もともとは2か月ほどで回復して仕事にも行けるといわれていたのだけど、私の場合、思っていたよりがっつり壊死が進んでいたのと、長らく患っていたため、普通より回復に時間がかかると言われてしまった。

足に違和感を覚えて、痛くなり、じぃちゃん先生によるちっとも効果のなかった治療。なんだかんだで私は1年以上、杖か松葉杖を使った生活をしていたのだけど。リハビリに行って、びっくり。

歩けないのである。

痛みがあるとか、人工関節がうまく動かないとか、そういうのではなく。頭では歩こうと踏み出すのだけど、体が歩いてくれないのである。『普通に歩くこと』ができなくなっていた。機能的には、まっすぐに歩けるはずなのである。でも、どうしても足を引きずってしまうのと、まっすぐに歩けない。斜め、ナナメへと向かってしまう。そして、すぐにへたり、と座り込んでしまう。

そんなアホな……と茫然とした。初めて歩いたのが1歳くらいの時で、それから毎日、毎日、30年以上も歩いていたのに、忘れるとか意味が分からない。例えば、自転車。ずっと乗っていなくても、すごーーく久しぶり、5年とか10年ぶりくらいに乗っても普通に乗れるじゃないの。なのに、歩き方を忘れるとは?(真顔)意味が分からなかった。

リハビリの人は、『よくあることなのよ。自力で立ったり、歩いたりできなかった時期が長くて筋力が低下してるの。ゆっくり、焦らずリハビリしていきましょう』と言っていた。

うへぁ、なんか漫画の人みたいな話になってきたなぁ。ほら、事故とかで怪我した主人公が必死にリハビリして動けるようになる~みたいなさぁとニヤニヤしていたのだけど、完全に『普通に』歩けるようになるのに8か月かかった(ちなみに仕事は事務仕事なので3か月で職場復帰)のでニヤニヤしていたのは最初の方だけであった。最後の方は、ゲンナリしながら、はぁまた…リハビリに行かねばなのか……と言っていた。なんせ週3で通っていたのだ。思えば、ぐうたらな私はこの時期、人生の中で一番、動いていたような気がする。リハビリで。

で、魔改造をして困ったことや、不便なこと。

実のところ、あんまりない。ゆえに、何らかの事情で人工関節を薦められているけど躊躇っているというような人は、じゃんじゃん受けるといいよ!だって何もしないまんまじゃ治らないわけだし!人生変わるよ!と声を大にして言う。リハビリはしんどい、というか、ダルかったけど、普段の生活では忘れるくらいである。あと、日本だと、なんと1か月も入院できるからね……私なんてひと晩だったのよ……

ちなみに、最初の手術から5年して、右側の方も人工関節になった。『5年ぶり、2度目の魔改造』というタイトルで親戚や知人、友人にお知らせしたのだが、右側の時は、ちょっと痛いと思い始めてから、すぐにダンディ先生の予定を迅速に抑えたうえ、手術後は慣れてますから!と言わんばかりに満面の笑みで、術後、目が覚めてすぐ自分から歩き、同室のばぁちゃんに先輩風を吹かせ、再度、あの地獄のようなチューブを抜く瞬間を経験したのち、リハビリに通い、職場復帰は2週間後だった。適応能力すげぇな?と自分では思う。2回目は1回目よりも遥かにスムーズに事が進んだ。

その時、たまたま同じ部署の人が同じ手術を受けたのだけど、彼女は復帰に3か月かかっていた。同じ時期に、同じ職場で、魔改造者2人ってのもちょっとすごい。彼女は英国出身の人で、英国も日本とほぼ、ほぼ同じで長く入院させてもらえるらしい。手術前後は、二人してよくありえんな!アメリカ、ありえんな!と愚痴を言い合ったのものである。

で、困ることは以下。

金属探知機で必ずキンコンなる。前もってどっちの股関節も人工関節だからね、と言う。すると「若いのに~」から始まるお決まりの会話がだるい。事前申告したとて探知機を通るから、キンコンとなっていちいち調べられるのは更にダルい。

歯医者に行く前、必ず抗生剤、抗生物質を飲まなければならない。これが一番困ることかもしれない。半年に1度、歯の治療やクリーニングに行く。粘膜に直にあたるわけだし、血が出たりするから感染症にかかりやすい。やはり体に異物が入っているからしい。ちなみに1度だけ飲み忘れたけど、嘘をついて飲みましたって言ってクリーニングしたら翌日、発熱したのでもう二度と嘘はつかないと決めている。

冬、ものすごく気を付けて歩かねばならない。うちのあたりは、極寒豪雪なので冬、路面がツルッツルの天然スケートリンクのようになる日もあれば、雪で滑ることもある。激しく転んだりすると、股関節のとこにある丸いところが、きゅぽんと外れたり、大腿骨にはまってるとがっているところが、メリメリっと出てきたりするらい。怖。(下図参照)なので冬の時期はごっついブーツを履いて細心の注意を払って歩く。

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寒くなると痛い。これは、関節や過去に骨折した人にありがちだとは思うのだけど、急に冷えたりすると足の根本あたりが痛くなる。『うっ……古傷が疼くぜぇ……』的な。

ヨガのハトのポーズができない。これは別に大したことではないし、できないところでなんの支障もないけども。ハトのポーズ、半分のハトのポーズが!できない!できないのはなんかイラっとする(自分的に。あとの大体のヨガポーズはできる)

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そんなもんです。これがスポーツ(特にウィンタースポーツ)大好きという人には諸々大変かもだけど。私は、もともとスポーツをしたりする人間ではないので、大した問題はなく。走ったりもできるし。

あと太ももの側面のとこ、両方に20センチくらいの傷あとがあるけど、なんせ私はBBAなので見られて恥ずかしいとか全然思わないので、大丈夫。お若い人は気にするのかもしれないが、私のような妙齢のBBAになると、太もも側面とか見せびらかすもんでもないから。泳ぐことも滅多にないし。

ちなみにダンディ先生が名医だなぁと思ったのは、この左右、太ももの側面にある傷痕が、きっちり同じ場所、同じ長さであるところ。きっちり同じ(気になったのでアルゴに頼んで測ってもらった)なんである。なんならこのまま、手術痕にジッパーのタトゥーでも入れて『スティッキィ・フィンガぁぁぁぁーズ!!!』なのやで、ドヤ顔で言いたいという気持ちは長年、抱き続けている。

↓ こういうの。大きな手術痕をカバーしたり、目立たなくしたりするためのタトゥーを入れている人はかなりいるのである。因みにスティッキーフィンガーズとは、ジョジョ5部で出てくるブチャラティのスタンドで、なんにでもジッパーを付け開閉できるのである。かっこいい。おかっぱなので大好きです。ブチャラティ。

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あとは、何となく負担になるような気がして、ヒールの靴は特別な日以外は履かなくなった。履いても問題ないよ、とダンディ先生は言っていた転ぶのも怖いし。

さて、気になるお値段。左足の関節を入れた時は、10000ドル(百万円ちょい)の請求書が来たけど、自費負担は、600ドル。リハビリは行くたびに25ドル(2500円ちょい)支払っていた。MRIも請求書では6000ドルとか書いてあったけど、払ったのは25ドルのみ。あと薬も別途料金。

ちなみに意味が分からないのが、右足の時。同じ保険、同じ先生、同じ病院だったのに、自己負担費50ドル。でもそもそもの請求額は25000ドル。ぼったくりでは?!なんで2倍以上になったのだろう。リハビリは変わらず25ドルだった。何だろうなぁ、ほんとはすんごく適当なんじゃないかな、アメリカの保険(疑)

現在では、2年に1度、ダンディ先生の診察を受ける。診察の予約が2年ごとなもので、診察日を忘れているってのも困る点かもしれない。

もう腐る大腿骨はないが、体に埋め込まれている人工関節がどんな風かレントゲンを撮って確認している。20年は持つよ!という言葉の通り、左足は来年で10年目になるけどなんの問題もない。

ダンディ先生に会う時と、最近では空港でも全身レントゲンのような写真を撮られるから、そのたびに ↓ このような写りになるので、『あ~…そうですよ……そうですよ。私は魔改造人間なのであるよ』としみじみと思いだすのである。

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で、レントゲン写真を見た親しい友人が言ったのが、タイトル。

『え、それもう改造じゃん。魔改造じゃん。そのうちミサイルみたいのつけてもらいなよ(笑)飛べるかもじゃん?』


まだ飛べませんけどね。


(終)




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