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大腿骨がネクロマンサー(2)

私の大腿骨が腐った話の続き。(その1)

私は車の運転が大嫌いで、ド下手なので運転中は携帯を一切触らない。なんだか切羽つまった感じで「大腿骨がネクロマンサーで手術」というわけの分からないセリフを最後に電話を切ったガールフレンド(私)を心配し、アルゴは何度も電話をかけてきたが、私はそれをシカトした。

家についたのは20分ほどしてからで、アルゴはドアの前で仁王立ちになり私を待ち構えていた。

「何があったの!?何が悪いの?手術ってなに!!!てかネクロマンサーってなに!!!」(叫)

デスヨネ……すまん、ちょっと落ちついて。私も落ち着いてきたとこだから家で話そう。私はじぃちゃん先生がくれたパンフレットなぞを見せて、ネクロマンサーではなく、ネクローシスと言って、骨が壊死していること。おそらくステロイドの副作用であること、完治することはなく手術しなくちゃいけないこと。でも私はまだ若いので関節を変える手術をする前に試してみたい治療法があること。これからしばらくは松葉づえで生活すること。などとアルゴに説明した……目の前でボロボロ号泣しているアルゴへ向かって……

泣きたいのはこっちなんだが?というか死ぬわけでもあるめーし。何度か死にそうになってるわけだから、足の骨が腐ったくらいでグダグダ泣くなし!っていうか、痛いの私だし!」

と、何故か私がアルゴを慰めることになった。死ぬとか言うな、手術とかいうな、とアルゴは大騒ぎだったが、死にかけたのも、手術せねばならんのも現実なのだから仕方ない。

じぃちゃん先生に勧められた市販のリウマチ用の薬を飲みつつ、何とか仕事へと行っていたが、痛みはひどくなる一方だった。その間、このAvascular necrosis:特発性大腿骨頭壊死症について調べまくったのだが、一つ気になることがあった。原因不明と言われているこの病気なのだが、いくつかの原因、要因が挙げられていて、一つはステロイドの副作用。そして、大量に飲酒される方。飲酒……だと……

もしかして飲酒も原因なのであろうか。身に覚えがありすぎ、不安になった私はじぃちゃん先生に電話して聞いてみたら『いや、ステロイドで確定だろ。どれだけ理解してるか謎だが、処方されてた内服ステロイドの量ね、あれ、末期がんとか臓器移植した人のレベルで出されてるからね。病歴みたら相当ひどかったみたいだし、仕方のないことだけど。普通では考えられない量を出されてるから。あんたがどんだけ酒を飲むのかしらんが、この場合の飲酒ってのは体壊すとか、アル中の人のレベルの飲酒だから、それはないと思うよ。というか、まぁ酒はほどほどにしておきな。あはは』と言われた。なるほど。

とはいえ、足はうまく動かない上に、おっそろしく痛いのでこの時期、さすがの私も酒を飲む気には全くなれず、なんだかんだで2年近く断酒することになったのである。

そして最初の施術日がやってきた。これは日帰り、2時間ほどの診察時間であった。まず特殊な形をしたMRIのある部屋へと案内される。この部屋がおっそろしく寒かった。なんでも機材を一定の温度に保たねばいけないらしく部屋の温度は低く設定されていた。そのおっそろしく寒い部屋の中で、服、下着は脱ぎ、病院で渡されるペラペラでよれよれのガウンを着るように言われる。

映画や海外ドラマで見たことがある人が多いと思うが、このガウン(写真参照)後ろの方を紐で結ぶだけ。しかも、大抵、デカいサイズのものを渡されるため、気を付けなければ、後ろからお尻がほぼ、ほぼ丸見えになるのである。

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おしりが丸出しにならないように気を付けつつ、寒さに震えながらベッドに横たわる。ほんじゃ始めるよ~となんだか気の抜けたテンポでいうMRI技師とじぃちゃん先生。私は割と痛みに強い方ではあるが(どれくらい強いかというと、あばらの骨が折れたことがあるか1週間ほど気づかずにいるくらい)この施術は恐ろしく痛かった。おそらく、私の人生における痛みランキング第3位くらいに入る。

は~い、じゃぁ管いれていくよ~という間延びした声に続く、恐ろしく鋭い痛い。「ンギギギギギギ」と声が漏れた。↓こんな感じなんである。そら、ンギギギギである。イラストの黄土色のとこは骨。こんなもん痛いに決まっている。

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更には、ンギギギぎの後には、は~い、じゃぁステロイド入れていくよ~と言われるが、これがまた痛い。痛いというか、恐ろしい違和感。言葉にするのが難しいのだが、血管の中をものすごく冷たい液体がゆっくり、ゆっくり通っていくというのは、得も言われぬ不快感に見舞われる。全身に鳥肌が立ち、背中、額には冷たい汗がダラダラと流れる。更には、「冷痛」とでも書けばいいのだろうか。冷たいものが血管を裂くような感覚があって、痛い。

ンギギギギギと堪えていたいたものの、ついにはウギギギギィィィィと声が漏れてしまった。なんたること、じぃちゃん先生、あんなに軽々と『いや、大した施術じゃないよ、日帰りだし』とか言ってたくせに!ふざっけんな!!と痛みの間に怒りの気持ちがムクムクと湧き上がってきたが、これはほぼ八つ当たりである。

「めっちゃ痛い……ねぇ、痛いんだって。てか、めっちゃ痛いからぁぁぁ」という私の声を無視して、じぃちゃん先生はゆっくりと液体を入れていく。そうこうしているうちに施術は終わったが、ここにきてじぃちゃん先生からの言葉。

『あのね、できるだけ左足使わないように。あと注射の効き目が出るまで2~3週間かかるから、気長にね。松葉づえね』

それ先に言ってよ!!(怒)許すまじ……先ほどとはまた別のムギギギギであった。こんなにも!痛い思いをして!!ひぃひぃ言ったのに!効くか効かないかも7割の確率な上に、効果が出るまで2週間とか、アホか!!ひどい!と、言うような愚痴を述べてみたが、どうになるものでもなく、結局、それから先しばらく、我慢していた。

だが、だ。こんなに、ムギギムギギと我慢したというに、この治療は私になんの効果ももたらさず、というか、痛みはさらにひどくなった。ある日、突然、グキィィというような衝撃が走り、左足に全く力が入らなくなり、動けなくなってしまった (これは諸説あるんだが、股関節、大腿骨部分への血液供給が完全に止まった瞬間に、こういう激痛が起こることもあるらしいので私はソレであったとにらんでいる)

そこで、じぃちゃん先生のオフィスに電話をして、この前やった治療は全然効かないし、今じゃ痛み止めは気休めにもならないし、挙句、先日、なんだか激しい痛みを感じて以来、立つことすらままならぬので、四の五の言わずにもう手術してくれ!と言ってみたのだが、じぃちゃん先生はそれを渋り、ならもう一つの方法をやってみよう。ということになった。

じぃちゃん先生がなんでこんなにも頑なに人工関節置き換え手術なり、骨を切る手術なりを拒否していたのか謎だけど、手術がダルかったからなのではないかと最近になって思う。なぜなら、じいちゃん先生の後についてくれた主治医は、「こりゃ手術するしかないね」と即決だったからだ。

というわけで、私は骨に穴をあけるという手術を受けることになった。じぃちゃん先生曰く、穴をあけることによって、血が通る穴ができるから痛みが緩和されるというのが理屈であり、8割近い患者がこれで痛みを感じない生活をしているという。うむむ……セカンドオピニオンを聞く余裕すらないほどに私の足は痛み、そして松葉杖の生活はすでに半年を過ぎていたので、言われるままに私はその手術を受けることにした。

これは私にとっての初めての手術であり、そしてこの穴開け手術からその経過においてまたクソ的ドラマが展開され、私の顔は、ぐにゃぁぁぁぁ(漫画カイジ)満載になったのだが、それはその(3)に続くのである。

(その3)



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