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Reviews -4 Movie Review King Richardとウィルスミス。
朝起きたら、夫アルゴが大騒ぎしていた(いつも大騒ぎだけど)
「ちょっとぉぉ(ここだけ日本語)!!ウィルスミスが、クリスロックをビンタしたんだよぉぉ、知ってる?」知るわけないじゃん。今、起きたばっかりなんだから。ということで。昨夜のオスカー授賞式で、受賞した映画よりもむしろ、クリス・ロック、ビンタ事件で大騒ぎになっているウィルスミスの話。
というか、この記事、ちょっと前に映画レビューとして公開されてすぐ書いていて、放置していたので、つけたしながらのアップです。
King Richard
2021作。ウィル・スミスの映画はテッパン、というのが私のウィルスミス観。テニスプレイヤー、セリーナ&ヴィーナスウィリアムズを育てたお父さんの話。オスカー受賞の作品で、リリースされてディズニープラスチャンネルで見たのだけど。ストリーミングは便利。
私も夫アルゴもスポーツには毛ほどの興味もない。けれど、見終わった後にテニスのニュースだとか、過去のテニス試合の動画を見るくらいには『すげぇ』って思った作品でした。
公開後にセリーナ&ヴィーナスの別の姉妹が、父のスキャンダルをメディアに発したり、映画だけにすべてが真実とは思わないけれど、何がすごいってこのお父さん。きっぱり、はっきり。『テニスは金になるって思ったのがキッカケで娘たちにテニスをやらせた』自分にはテニスの経験も知識も何もない状態から、娘たちを世界一のプレイヤーに育てるって普通はまずできない。しかもブレない。ひたすらに、有名になる!金!これ、子供たちがテニスを好きでなかったり、うまくコミュニケーションできなければ、単なる毒親ではないか。実際、テニスをしていなかった他の姉妹たちはなんだか不満があったみたいだし、行き過ぎた父親のやり方に、母親はついていけず離婚したという話もある。
何がすごいって、このパパ。子供たちがまだ小さい頃に、金になる!から自分で70ページだか80ページだかに及ぶ計画書を書いて、それがほぼほぼ実現したってんだからすごい。先にメディアの脚光を浴びたヴィーナス、その陰にかくれていたセリーナへのケアもその計画書にあったらしい。よくよく考えたら恐ろしい話。
彼の情熱は、別の角度からみると妄執でもある。
一見しただけなら美談だし、2人が大成功して、しかも幸せそうだから、こういう映画が作れたのだろうけど、これってば諸刃の刃ではないか。まだ子供たちが幼い頃から、すでにもう人生の設計書を書いており、物心、つくかつかないかのうちからの教育をはじめる。あと、彼には他にも娘たちがいたのである。が、セリーナ、ヴィーナス限定の未来予想図。他の子供たちのことは……?と思わざるを得なかった。
繰り返しになるが、世界的成功、そしてプロ・テニスという世界ににおいて人種の壁をブチ破ったという功績があるゆえに美談になるのかもしれない。だが、普通に考えると私はちょっとゾッとしてしまった。映画そのものは、とてもパワフル、家族愛にあふれ、そして世界的スタープレイヤーの挫折、栄光、そんな映画であるし、確かにいいお話であった。けれど、私は映画を見ながら終始、この「ゾッとする感覚」がついて回った。
殆どの親子関係において『親の計画通りの育ち方』というのは色んなコンフリクトが起こるし、押し付けられる側になってしまいがちな子供にとっては、反抗だとか、挫折だとか、大人になってからはしがらみとかあるのが普通。大なり、小なり、親子関係というものはそんなものだと思う。私自身、親の言いなりにはなりたくない!派で、実際、そうやって行動してきたわけであるし。
この作品を見ていて私が思い出したのは、Joe Jackson -ジョセフ・ジャクソン。かのマイケルジャクソンのお父さんである。5歳だったマイケルをじゃんじゃんプロモート、サポートした人物である。
「パパは子どもたちに食べさせるためなら、何でもした。子どもがホームレスになることや、ドラッグをすることを避けさせるためにね。そして、お酒に溺れることも。子どもたちにはもっといい暮らしをしてほしいと常に願っていたの。そして、パフォーマンスすることで這い上がれると見抜いていたんです」
これはマイケルジャクソンの妹、ジャネットジャクソンの言葉なのだけど。住んでいる地域が悪い、ドラッグ・ガン・ギャングばかり、だからこそ子供たちに成功して欲しい。キング・リチャードにしても、ジョー・ジャクソンにしても、子供たちの未来の幸せを願ったのが大きな原動である。父親たちの活動力と「自分と同じような経験はさせたくない」という強い気持ち。それが何よりも強い。
あと、ものすごい「俺の子供ならできる!」という謎の強い確信。子供を信じるというのは美談である。だが、彼らの子供を信じるパワーというのは、一体どこから……と頭をかしげたくなるほどに強く、明確である。
この映画でも地元の治安の悪さやギャングメンバーらしき人らが出てくる。以前の記事でレビューしたブラック・フィルムでも生まれ育つ環境や周りの人々の姿が描かれるけれど。朱に交われば赤くなる、などという言葉があるが、その通りだと私は思う。
偏見はいかん!とか、そんなの自分が強くあれば!とか言う人もいるかもしれない。もちろん、劣悪な環境、悪だらけの環境で後に成功する人だっていっぱいいる。だが、大多数って朱に交われば赤くなるように私は思う。例えば、父親がおらず、母親はドラッグ中毒で、とにかく生きるためになんでもやる。たとえば、ドラッグを売るとか、盗むとか。父親は刑務所、母親は行方知れず、生活保護を受けながら暮らしているおばあちゃんに育てられる、とか。両親に捨てられ、施設に預けられ、殴られ、レイプされ、娼婦になる。お金持ちになるならドラッグディーラー、12歳で売人の使い走り、そうやって育ってきたから他をしらない。映画みたいな話だなぁと思われるかもしれないが、そんな話はここいらにはゴロゴロしている。
本人が抜け出したくとも抜け出せない。そもそも「抜け出す」という考えすら浮かんでこない。抜け出すという意味が分からない。高校を卒業すれば大成功。18歳まで生きれば大成功。そんな子供たちは沢山いる。
ゆえに、親として、子供に最高の教育、最高の教育の場所を与えたいという思いはわかる。実際、そうしたからウィリアム姉妹は大成功したのだと思うし、徹底してやったからこその結果だとは思う。でも……(もにょもにょ)となってしまうのは上記の私の感情的な問題である。
彼とウィリアム姉妹の功績は、テニス=リッチな白人のスポーツ、という印象を覆したことでもある。覆す、というより、壁を破ったというか。映画内でも描かれているが、姉妹が若い頃のテニスというのは、完全にWhiteな世界。地域サポートを基盤とする青少年育成プログラム的なものでは、例えば野球などは、チームに入るのもタダ、なんなら道具もあるよ!的なプログラムが沢山あるわけだが、テニスはあまりない。それから、スポーツを続けるということは、お金がかかるという側面もある。
映画の終盤でも描かれていたし、映画を見終わった後に姉妹のドキュメンタリーなどを見たが「成功したブラック、しかも女性」として、後に続く子供たちに大きな夢と希望を与え、それが結果としてその分野をさらに活性化ささえたというのは素晴らしいことであると思う。
ボロボロのワゴン車、スーパーマーケットのカートにテニスボールを入れて、整備もされていないテニスコートで娘たちにテニスを教える(しかも本人は素人)父親。まずやろうと思うことがすごいのだが、彼のすごさはひたすらに続けたこと。そして娘たちもそれに従ったことであると思う。
そんなこんなで、すごいけど(もにょもにょ)というのが私のこの映画に関する感想である。
そして、もう一つ。
Contrary to popular belief 42% of Black children live with two parents (compared to 70% of all children) while 51% live with one parent (compared to 25% of all children). 46% of children live with mother only. 統計でみると両親と暮らす黒人の子供は42%、母親のみの子供は46%となる。人種を考慮しない統計では、70%の子供は両親と暮らしており、母親のみの子供は25%である。
父親が存在する家庭というのが、ブラックコミュニティーにおいては、少ないのである。なので、ブラックファミリーにおける父親の不在、父親像の曖昧さというのは、色んな分野で研究されている。こういった社会事情もあり、ウィリアム姉妹の父親像(そして例にも挙げたマイケルジャクソン父)というのが大きな脚光を浴びた理由の一つでもあるように私は思っている。
で、ここからはウィルスミスのことと蛇足のような話。
で。ウィルスミス。我々、夫婦の間では「ウィルスミス映画に外れなし」という認識であり、おそらく彼主演の映画はほぼ、ほぼ見ている。若い頃のドラマシリーズ「the Fresh Prince of Bel-Airt」などは夫アルゴが子供の頃、大好きだった番組であるので何度も鑑賞している(させられている)。素敵な俳優さんであると思うし、近年ではこの映画のような「なんだかアクの強い人」を演じる最高の役者さんであると思う。私の中のウィルスミス3大好き映画は、
◆ 2001年の ALI(モハメドアリのドキュメント)
◆ 1995、2003、2020年のBad Boy シリーズ
◆ 2016年の Collateral Beauty
オスカーでのビンタ事件は、びっくりしたけれど。ちょっと前の奥さん浮気告白事件(これもかなりの騒がれっぷりだった)の掘り起こしからの、脱毛症へのからかい。妻の名前を口にするなと客席から言っても、続けるクリス・ロックは、やりすぎだと思うし、ドン引いた。
カースワード(Fワード、Nワード)を使わないと有名なウィル・スミスがずかずかと壇上に上がり、Fワードを使い、ぶいんと大きくスイングして、ビンタしたのは、至極当然だと思うし、むしろ、妻の名誉を守るためによくやった!と思う。会場には子供たちも一緒にいたわけだし。奥さんの浮気告白事件を経て、一緒にそれを話し合い、乗り越えて(正し、このへんはテレビ番組とかで語っていたので、その時は、うへぁ、離婚ビジネスならぬ、浮気ビジネス?とこの夫婦の在り方に引いた私であるよ)で、一緒にいるわけである。
ちなみに、ウィルスミス妻ジェイダ・ピケットが患っているALOPECIAというのは、an autoimmune disorder(自己免疫疾患)の一つで遺伝的要素が非常に高い上に、現在のところ効果的な治療方法が確立していない。私、アトピーであり、喘息であり、沢山のアレルギーがあり、そういった人はこのALOPECIA(脱毛症)を患う確率が非常に高いため、人ごとではないのである。ジェイダ・ピケットは女優さんだし、美しい女性である。かつらをかぶったり、この病気のことを公表しないというやり方もあるのに、髪の毛を丸め、まっすぐにメディアの前に立つというのは、大変な勇気がいることだと思う。予想にすぎないけれど、そんな伴侶を横で見ていたら、どんな夫だって怒ってしかるべきである。
People from any race can develop alopecia. However, traction alopecia, a type of hair loss, is especially common among black women. According to dermatologist Crystal Aguh, who specializes in hair loss, nearly 50% of black women experience some form of hair loss.
そして、この引用。どんな人種の人でもこの脱毛症にかかる可能性はあるのだが、特に、黒人女性にはとても高確率で起こる病気なのである。50%の黒人女性がこの脱毛症を経験しているのだ。
考えても見て欲しい。ウィル・スミスがノミネートされた映画は?そう、黒人ファミリー、黒人女性の地位向上に大きな一石を投げた映画でもあるのだ。忘れないでいただきたい。そんな黒人女性を侮蔑するようなこと、遺伝的要素の強い病気のことを「ジョーク」として言うってどうなんでしょうかね?と私は思う。ジェイダ・ピケットがどういった思いでこの病気のことを公表したのか、そんなもん、苦しんでる、悩んでる黒人女性への応援のため。私もそうなのよ、でも一緒に頑張りましょうってメッセージを放っているとは思えないのであろうか?クリスロックのジョークは、ジョークではなく、そして、ジェイダピケットだけでない、この脱毛症に悩む・苦しむすべての女性への侮蔑であると私は思うのだ。
コメディアンだからとか、ジョークだから、とはいえ、言っていいこと、悪いことは確実にあるし、クリス・ロックのコメントは、確実に誰かを傷つける言葉だったと思う。スミスファミリーだけでなく ALOPECIA(脱毛症)に悩む沢山の人たちを傷つけたと思う。
で。結果として。家族を守るために、家族の将来を開くために!という人生を生きた映画の主人公と同じように、家族を守るために立ちあがったウィルスミス。彼の行動には賛否両論があるけど、私はよくやったと思う。夫も「自分の妻が全世界の人の前で、病気のことで馬鹿にされるなんて、そんなことになったら迷わず、侮辱する相手をブチのめす」と言ってたので、似たもの同士の夫婦よなぁ、我ら、と思った次第。
で、蛇足の蛇足。このビンタ事件。実のところ、テレビ中継がっつりされたわけではない。夫アルゴが言うには「生中継といっても、実際のところ15秒ほどのラグがあるのである。昔、プロレスの生中継でレスラーが事故で死んでしまい、それが生中継で大騒ぎになったのだけど。それを機に15秒のタイムラグを入れるように指示されている」のだそうである。ほ~ん。
終
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